自分の特異性を、はじめて語った。今までずっと隠してきた、できるならこの先もずっと隠し通したかった。それを知って今までと態度を変えるひとではないと、わかっていたけれど。
――けれど、もしかしたら。
そのもしもの恐怖に勝てなくて、だから事態の展開は望まないまま、今までずっとただ現状維持を願ってきた。
世界中で、この広い宇宙の中でただひとり、エッジだけには知られたくなった。
彼を信じられなかったわけではなく、ただ、自分の中の「もしも」に勝てなかった。

その不安は、今も消えない。

◇◆◇◆◇◆

――なんで生きているの。
暗闇の中に声がする。冷たい、氷でできた剣が心臓に刺し込まれるように、凍える。痛い。
――可哀想にねえ、たったひとり生き残って。
同情の言葉のようで、その実それはレイミのこころを切り刻む。
――病気では死なない、か。では何だったら死ぬんだろうな?
反論をしたくて、けれど返す言葉が見つからなくて、ただぱくぱくと口を動かせば、暗闇の中の声が嘲笑う。
――とりあえず手当たり次第試してみましょうか?

助けを呼びたいのに、声が、出ない。

◇◆◇◆◇◆

「……レイミ!?」
「あ…………」
耳に鋭い声と、肩に痛いほどのぬくもり。はっと目を醒ましたなら、いちばん逢いたくて、いちばん逢いたくないひとがいた。
身体が重い、冷たくねばつく汗が気持ち悪い。からからに干からびていたのどに無理につばを呑み込んで、潤いよりも先に、のどが痛い。息のしかたが思い出せない、苦しい。
けれど、これも夢かと思ったのが間違いだと、その痛みと苦しみでわかった。

窓は宇宙の漆黒、照明は「夜」用のしぼられたもの。
ここはカルナス、エッジとレイミの相部屋で、今は「夜」――ワープ中の、休息時間。

◇◆◇◆◇◆

「……ごめん、なんだか……起こし、ちゃった……?」
「そういうわけじゃないけど。ていうか、起こさなかった方がよかったか?」
「え、ううん……ありがとう」
ちゃんと笑えているだろうか。口の両端を持ち上げて、ふと不安に思う。鈍いけれど幼なじみで、エッジがどこまで見破るのか判断がつかない。
そんなことを思っていると、肩をつかんでいた手がどいて――なんだかその手をしげしげ眺めているエッジがいた。
「……何?」
「え? いや……なんか、……あ、痛かったりしないか?」
いわれて、意味がわからない。
小首をかしげたなら、なんだか決まり悪そうに、
「思ってたよりも細かったからなー。力いっぱいつかんだら、なんかレイミの肩砕くんじゃないかって」

ああ、どれほど幼なじみなのだろう。
先ほどずれた心配をしていた自分も自分だけれど、エッジもエッジでなんだか大外れの心配をしている。
「さすがにそんなにもろかったら、いくら弓でもおちおち戦闘に出れないわよ」
苦笑してみせれば、だよなあ、とわかっているようないないような微妙な笑み。
「自分以外って、よくわからないんだよな。というか、性別差とか個人差とかあるだろ? 生まれが違えば、育ちが違えば、人種が違えば、年齢が違えば、星が違えば……「普通」ってわからなくないか?」
「……エッジ?」
「レイミが普通とちがう、っていわれたって全然ピンとこないよ。僕とちがう、レイミは僕じゃない、ならわかるけど、そんなのいうまでもないことだろ。
だから、ええと……」
暗闇の向こうに、幼なじみの顔がある。幼なじみで、幼いころから見知っていて、けれど見知らぬ男のひとの顔がある。
誰よりも特別なひとが、ここにいる。
「エッジ、あの」
「――だからつまり、
その、ごめんな。レイミが悩んでたこと知らなかったし、知った今もなんでそこまで思いつめることなのか、全然理解できなくて、ごめん」

――やだ。
なぜそこで、そんな風に微笑むのだろう。やさしく、包むようで、強く、どこか困ったように、けれど――無邪気に。なぜエッジは揺らがないのだろう。なぜ、
「謝らないで、よ。エッジが謝るようなことじゃない」
――そうだ、謝ることじゃない。ごめん、は余計だ。
だって、レイミがほしかった言葉を、エッジはくれた。ずっとほしくて、けれどねだることもできずに、ただ鬱々と自分の中にためこんでいたものを。きっと絶対何も意識しないで、何気なくエッジはくれた。

「普通」なんてないのだ、と。
誰もが違っていて、それは当たり前なのだと。
レイミの特異な点だって、その中のひとつでしかなくて、
――レイミはレイミで、今のレイミでいいのだ、と。

◇◆◇◆◇◆

「――ねえ、エッジ。「朝」までまだあるでしょう?
わたしはもう大丈夫だから、エッジももう、寝て」
「ああ。……あ、明日の朝よろしくな」
「もう! ちゃんと自分で起きなさい、エッジ船長」
「あはは、だってほら、レイミに任せとけば心配ないからさ」

拒絶でも侮蔑でもなく、慰めでもなく、ただの肯定。
それが、ずっとずっとほしかった。
エッジから、ほしかった。
ほしくて、けれど自分では気づいていなくて、それをエッジはくれた。

暗い中、エッジが離れていく。ぎりぎり闇に消えないだけの距離の向こう、ごそごそと彼のベッドに横になる。
――ねえ、エッジ。
「ありがとう」
「うん? ああ、別にうなされるの起こしただけなんだから気にするな」
「うん、ありがとう。……おやすみ」
「おやすみ」

暗闇の中に声がする。
――何気ないエッジの声が、
それが嬉しい。

―― End ――
2009/07/17UP
沁々三十題_so4CP混合_
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
ひとりで目を瞑らないで
[最終修正 - 2024/06/17-13:30]