「あれ、レイミ。これってまた間違えたんじゃないのか?」
カルナスでの食事当番は、いつしかレイミ固定プラス持ち回りで誰かがその手伝い、となっていた。正直なところ、たとえばミュリアあたりが手伝ってくれればそれは大変な戦力で、逆に男性陣の誰かが当番の時はお互いが不幸だと思う。気を抜くと、レイミとしても二度手間になることが多いあたり特に。
ともあれ、その日の当番はエッジだった。
腕組みしつつしげしげ見下ろす彼の前にあるのは、これを盛りつけてね、と用意しておいたデザート未満。カップに入ったままのプリンは、甘さの濃いものと薄いもので型の色を分けてある。あとはトッピング用として用意した、これからカットする予定のフルーツとナイフ、氷水入りのボウルの中に生クリームおよび砂糖入りのボウル。
エッジはそれらを眺めているだけでいっこうに手を動かしている様子がなくて、
――また、とはなんだ、と返そうとして。
「あ……」
小さな呟きに、やっぱりな、と碧の目が困ったように笑う。

◇◆◇◆◇◆

フェイズがクロウに同行するためにパーティとは別行動になって、かわりにエイルマットが入ったのは、決して昨日今日の話ではない。けれどメンバー全員その事実になかなか慣れなくて、特にレイミはこういうミスがなかなか減らない。
甘いものが大好きだったフェイズと、そうでもないエイルマット。デザートを用意する時はなぜかそのことを失念して、甘いものをひとつ多く作って、甘くないものをひとつ少なく作って、そんな些細なミスがいつまで経ってもゼロにならない。
別に、甘く作ってしまったデザートは廃棄処分するわけではない。最終的に誰かが食べる。けれどおいしいですと素直な笑顔で喜んでくれるひとがひとり減ってしまった事実はどこか切なくて、それがわかるから他の誰もが――当のエイルマットでさえも、レイミを責めたりはできない。

「ああ、じゃあ今日は久しぶりに僕もこっちのもらおうかな」
「甘すぎる、胸焼けするって前言ってたじゃない」
「前知識なしにいきなり食べると歯にしみるんだよ。最初からわかっていれば大丈夫」
「無理に食べてもらいたくなんかありません」
「でもせっかくレイミが作ってくれたものだし。フルーツ多めにして生クリームなくして、」
「おいしく食べてもらえないなら意味ないの!」
「おいしく食べない、とはいってないだろ! ……ってレイミ、なんか香ばしくないか?」
「あああっ、」

◇◆◇◆◇◆

口げんか未満にうっかり夢中になって、卵焼きがすっかり茶色っぽくなってしまった。外からもう1周2週巻けばこの茶色はアクセントで誤魔化せるだろうかと、とりあえずフライパンを火から外して振り返る。エッジはすっかり話がまとまったものと、生クリームのホイップ作業に入っている。カシュカシュカシュカシュ、リズミカルな音がしてそういえばこういう作業だけはレイミよりもエッジの方が得意だった、そんなどうでもいいことがふと浮かぶ。
何かをいいたくて、けれど何をいいたいのかわからなくなって。開いた口が何も紡がないままに閉じる。

「なんかさ、足りないんだよな。エイルマットがどうとかじゃなくて、どうしたってひとり分足りない」
「デザート食べて、おいしいですって笑う顔、……あれ見ると、明日はどうしよう、次の食事のときは何作ろう、って素直に思うのよ」
「フェイズって普段真面目な顔してるギャップか、笑うとかなり幼くなるんだよな」
「最初はリムちゃん、これでリムの分が増えるのよーって喜んでたけど、あれたぶん演技よね。最近よく淋しそうな顔してるの」

お互いがお互い、好き勝手しゃべって同じタイミングで息を吐き出す。
「淋しい」とは少し違う、「足りない」という感覚。人数的には変わりないけれど、エイルマットはフェイズのかわりではないし、たとえば事態が逆でも、フェイズはエイルマットのかわりにはならない。他の誰が欠けても増えても、きっと同じことだ。
頭でわかっていても感覚ではよくわからなかったそれを実感させてくれて、果たしてフェイズに感謝するべきなのだろうか。

◇◆◇◆◇◆

「なんだか調子狂うよな……と、もういいかな」
「見せて。うん、大丈夫……エッジ、無理するくらいなら食べなくていいですからね」
「レイミのデザート食べないって選択肢は僕にはないの」
「それで無理に食べてもらっても、わたしは嬉しくないの!」

ひとり減ってひとり増えて、人数にはかわりがないまま、けれど日々は続いていく。
慣れる日はたぶん来ないのかな、とこっそり息を吐きながら、レイミは手際よく料理の盛りつけに取りかかった。

―― End ――
2009/07/26UP
沁々三十題_so4CP混合_
OFP
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君が居なくなって、これで何度目の朝だろう
[最終修正 - 2024/06/17-13:30]