こんがりキツネ色のあつあつトーストに添えるのは、バターと各種ジャムにハチミツ、スライスしたチーズ。あとはスクランブルエッグか目玉焼きのどちらかにサラダにコンソメのスープ。飲みものはオレンジジュースとミルクとコーヒーのどれかを選択。
いつもは和食の割合が高い朝食が、今日は洋食の種明かしをするなら。通常なら食事の準備担当のレイミが夜番勤務終了直後で、ミュリアがかわりの食事当番をかって出たためだ。
和洋中なんでもござれのレイミと違い、ミュリアは基本、洋にしかレパートリーがない。とはいえ出てくるものは文句なしにおいしいので、メンバーの誰一人不満なんてあるはずがない。

「いただきます」
真剣に、その割に嬉しそうに手をあわせる船長に従って、めいめいが同じように手を合わせてから、さっそく食事に手をのばす。もぐもぐやりながら簡単なミーティングも同時にやりつつさらには雑談も混じるので、カルナスの食事風景はずいぶんさわがしい。

◇◆◇◆◇◆

「ああっ、サラ!」
「はいー? ……あらー」
不意にメリクルの悲鳴めいた声が上がって、呼ばれた当人は顔を上げて小首をかしげて、しかしすぐに視線を落とした。半分に折ったトーストからたっぷりぬったジャムがこぼれて手をべたべたにしている。たとえばいわれたのがメリクルだったなら、機敏に反応してトーストの反対がわ――ジャムが今まさにこぼれ落ちそうなところにかみついたかもしれないけれど、のんびりおっとりなサラにそんな反射神経は望むべくもない。
突然上がった悲鳴に、すわなにごとか、と注目し硬直していたメンバーは、事態が判明するとなんだとばかりに食事を再開した。サラと同じことになりかけていたリムルの世話を、ミュリアが焼く。

「ああ、手がべたべたしますー。ちょっと洗ってきますねー」
「待って! 流しちゃうのはもったいないミャ!!」
「ふぇ? って、あわわわわわー」
立ち上がりかけたサラの手がぱしっとつかまれた。え、と思う間もなく生まれるざらりとした感覚。やりとりに再び顔を上げたらしい船長がそれをみて、飲みかけていたオレンジジュースを見事に気管に詰まらせた。
動揺でサラの翼がばさっと広がり、げほげほと苦しそうにむせるエッジにあわてるリムル、修行が足りないわね、とばかりに肩をすくめてから水をとりに席を立つミュリア。

サラの手に生まれたざらざらの感覚は、そんなミュリアの姿がいったん消えたころにはすでになくなっていた。
「はい、終わり。いってらっしゃーい」
――ごちそうさま。
ぺろりとくちびるをなめてつぶやいて、メリクルは何ごともなかったかのように自分の食事を再開する。エッジは相変わらずむせているし、リムルは相変わらすおろおろしている。――サラは、どうしたらいいのかぱちくりとまたたいた。

とりあえずいわれた通り席をたって、今度こそ手を洗いにいくことにする。
なんだか頭がまともに働いていないような気がする。

◇◆◇◆◇◆

数分後。
それまでむせまくっていたエッジが、ミュリアからもらった水もあってようやく落ち着いたころ。
戻ってきたサラは、席に座るとひとつ息を吐いた。
「……メリちゃん、さっきはありがとうございますー」
「いえいえ、どういたしまして! あたしもごちそうさまだミャ。ジャムもおいしいねー」

ねこだけに猫舌で、サラが席を立つまでは確かサラダをつついているだけだったメリクルは。戻ってきたころには割り当てられていた料理を完食して、口元を手でぬぐっていた。
なんとなく薄ら寒いものに背筋を撫でられて、サラはひとつ身震いをする。
「でもいきなりアレはやめてくださいー。わたくし、なんだか今日こそメリちゃんに食べられちゃうんじゃないかって怖かったんですよー」
「あっははは! だいじょーぶ、仲間を食べたりなんかしないよッ!」
「それはわかってるんですけどもー、それでもー、やっぱり怖かったんですー」
間延びしまくったその口調で、本当に怖かったのか、とツッコミを入れる人間はその場にいなかった。先ほど盛大にむせ返ったエッジなどは、何も聞こえないふりでそそくさと食事を胃につめている。

「食べないってばー。あ、でもでもサラの指って細くて長くてきれいだね!」
「それは、どうもありがとうございますー」
「なんかいいニオイするし! あ、指だけじゃないけど!!」
「……ええとー……」
「あたしサラが好きだよ!」
なんと返したらいいものか、とりあえず先ほどの騒ぎの発端だった、ジャムのあふれたトーストをおっとりと食べることに専念しているふりをして。いうだけいって、すっきりしたとばかりにごくごくとミルクを飲み干すメリクルをちらりと見やる。

「……わたくしは、どうしてもメリちゃんのことが怖いのですが」

つぶやきが聞こえたのかどうか。ぷはっ、とミルクの白いひげを口元に生やしたメリクルが、まじまじとサラを見た。いつもののんびりを返上したサラがすかさず視線をそらしたので、たぶんちらちらと彼女を見ていたことには気づかれていない。たぶん。
とりあえずメリクルがきらきらと笑って、

「ほんと、食べちゃいたいくらいに大好きッ!!」

本日二回目、エッジが再び絶好調にむせ返り、それにびっくりしたリムルが再びあわあわして、今にもサラに抱きつきそうなというかむしろ飛びかかりそうなメリクルの目の前に、
ミュリアがあつあつトースト(一斤ぶん)の皿をことりとお供えした。

―― End ――
2009/07/28UP
沁々三十題_so4CP混合_
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あなたの長いゆびがすき
[最終修正 - 2024/06/17-13:30]