幼いころから一緒に育ってきた。思春期前のころなんて、だから同じベッドで目を醒ますなんて珍しいことでも恥ずかしいことでもなんでもなかったけれど。
この歳になってそれをやると、互いに顔をまともに見られない。

◇◆◇◆◇◆

ぴぴぴぴぴぴぴ、
電子音がまどろみの海に無粋に入り込んでくる。いつものアラームにいつものようにもぞもぞと手をのばして、けれどその音は彼の手が届く前にぷつりと途絶えた。脇にあった気配がむくりと起き上がって、それで寝ぼけていたのが一気に覚醒する。
――そうだ、昨日、僕は、
がばっと起き上がろうとして、けれどシーツが降ってきてその向こうから頭を押さえられる。大した力ではないけれどどうにも逆らえなくて、そのまま再びベッドに沈んだ。

「……ええと、レイミ?」
「おはよう、エッジ。あと五分寝てて」
「…………ええと」
「いいから寝てて!」
シーツ一枚の向こうに、あわただしく動く気配。探るつもりはないのに戦闘三昧の日々のおかげで気配を探ることにすっかり慣れて、それ以前に幼なじみ時代の長いレイミのこと、今何をしているかなんて大体分かってしまう。
そう思った瞬間にぶわっと顔が熱を帯びて、思わずベッドに顔を埋めた。

◇◆◇◆◇◆

ものごころ着いたころから一緒に暮らしていた。きょうだいで、幼なじみで、誰より近しい大切な異性。あまりに近すぎて「そういう対象」としては見ていなかった、はずなのに。
――夢だろうか、これは。
――そうだったらいい、
――それはなんだかいやだ。
顔を合わせて照れくさそうに笑う、なんてとてもできない。けれどあんなに近かった彼女の顔を、起きてから一度もみていなければ、なんだか現実感があやふやな気がしてくる。

◇◆◇◆◇◆

そうしている間に、ばたばたとあわただしかった音はいったん静かになっていて。とはいえ彼女の許しを得ていないわけで、これでこのシーツの影からそっとうかがったりしたなら、それがばれたりしたならなんだかそれはとても恐ろしいことが起こるような気がして、
本当は、夢かうつつかをうっかり疑ってしまうような、この空気にまどろんでいたいのかもしれない。
ずっとそばにあって、ようやく手に入れた、確かに腕に抱いていたあのぬくもりを反芻していたいのかもしれない。
けれど。

「――レイミ?」
「うん、ええと、もう少し……ああもう、やっぱりダメ!」
「えー」
「やっぱりダメ、エッジの顔みれないし、こんなへんな顔みられたくない!
先、行くね! ブリッジの定時勤務の時は、ちゃんとした顔するから。エッジも二度寝したりしないで、ちゃんと起きてよね。で、みんなの前ではちゃんと船長の顔してね!!」
もう少し寝ていろといったわりに、ずいぶん勝手なことを一方的に宣言すると。結局、お互いまともに顔を合わせないままに彼女は弾丸のように部屋を出ていった。
ぎりぎり間に合って――いないのかもしれないけれど、とりあえず部屋から飛び出す直前の彼女の後ろ姿。長い黒髪の向こうに見えた耳は真っ赤で、それを見てしまえばきっと負けじと真っ赤になった自分の耳を自覚して、再びエッジはベッドに顔をうめる。

ずっとずっと、家族だった。
これからも、きっとずっと家族でいてほしい。

おねがいを、あるいは宣言を。ちゃんと彼女に告げようと思ったのに、それは叶わない。昨夜のは本当は自分に都合の良い夢だったのではないか、などと心配したくなるくらいに、見事に彼女はいなくなってしまった。
……ただ。彼女はいなくなってしまったけれど、背中にちりりと走る痛みだけはずっとそこにあって。
おさまったかと思った熱が再び顔を、いや全身を襲って、エッジは改めてベッドに突っ伏した。

―― End ――
2009/08/18UP
沁々三十題_so4CP混合_
OFP
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立てられた爪さえいとしい
[最終修正 - 2024/06/17-13:31]