けっしてフェイズを捜していたわけではないのに、
絶対に違うのに、

―― 気が付けば君を探してる

「……リムちゃん? どうしたの、何かあった??」
「れーたん……」
やさしい声にはっとリムルは顔を上げた。ぱちぱちとまたたけば、リムルの目線に合わせて腰を落としたレイミのやわらかな微笑がある。

カルナスの、フライトデッキ。現在はワープ中、星々はただ白々と輝くばかりでまたたくこともその位置を変えることもない。変化があるとすれば窓の向こうではなくその手前の計器類ばかり。もちろん好奇心だけのリムルにそういうものをいじらせるわけにはいかないので、ワープ航行が安定すると彼女はこの部屋からそれとなく追い出される。
リムルのほうもそういった大人の思惑がそろそろわかってきて、だだをこねてはいけないことだということもわかってきて、だからいつもは特に明確な用事がない限りはここには顔を出さない。逆にいえば、リムルがここにやってくるときには何か理由があるはずだった。
いつもなら。

リムルの乏しい表情からさらに感情の起伏が消えて、ゆっくりとまたたいてから、ゆるく首を振る。
「……なんでも、ないのよ」
「リムちゃん?」
用事、は、ない。何かあったかもしれないけれど、忘れてしまって思い出すことができない。
レイミが戸惑ったように、困ったように小さく首をかしげて、そうして促されてもないものはない。改めてゆるく首を振って、本当になんでもないのだと強調して、
「ごめん、なのよ。おじゃましたのよ」
「え……リムちゃん? あの、」
何かをいいかけたレイミにさらに首を振ってみせて、フライトデッキを後にする。

何もなかったはずだ。それなのになんだかもやもやする。
なぜ、いつもは行かないフライトデッキに行こうとしたのだったか。

◇◆◇◆◇◆

「――あれ? どうした、何かあったのか??」
「……えーたん……?」
声だけでもきょとんとしたエッジにむかえられて、リムルははっと顔を上げた。ミーティングルームでなにやらひとりでクリエイションの準備――もしくは片づけをしていたらしいエッジが、声から想像がつくきょとんとした顔でリムルを見ている。
「えーたんは、どうかしたのよ?」
「うん? ああ、僕はちょっとクリエイションしててさ。そろそろ飽きたから片づけて、あとは剣の練習でもしようかなって思って」
どうやら後者だったらしい。エッジは鍛冶用のハンマーを手に、いつものようにさわやかな笑みを浮かべている。
「でもまあ、何かしなくちゃっていう予定はないんだ。リムが暇なら、一緒に何か作ってみようか?」
「え、……ううん。そうじゃ、ないのよ」
「……そうかい?」

ミーティングルームは、多少道具が散らばっているもののだいぶがらんとしていた。エッジ以外の誰もいない。それを確認して、けれどなぜそれを確認したのか自分がわからなくてリムルはまたたく。
先ほどと同じだった。……自分が、わからない。
一体、何を考えていたのだろう。

「――リムル?」
「ううん、違うのよ。なんでもないのよ。
ごめん、なのよ。リム、おへやに戻るのよ」
普段から乏しい表情が、さらにその起伏がリムルから消える。目ざとくそれに気づいたエッジは、数拍だけ考え込んだあとに、何気ないふりで軽くくちびるを湿らせてから、
「……ええと、船長として何か困ってることがあるなら聞くし、相談にも乗るから、何でもいってほしいんだけどな?」
いわれてリムルはこっくりとうなずいた。
「わかったのよ。困ったことあったらえーたんにおねがいするかも、なのよ」
「うん、よろしくな? っていうのも何か変だけど」
「じゃあ、えーたん。またあとで、なのよ」
ばいばい、と小さく手を振ってからミーティングルームを出る。
そして、

◇◆◇◆◇◆

「……リムル?」
何気なく声がかけられて、それに返事をするというよりも何か反応するよりも早く、
「どうしたんですか、エッジさんとクリエイションですか?」
何気なく、本当に何気なく続けられてなんだかリムルの胸にずっともやもやあったものが瞬時に怒りへと変化した。
あまりに一気に加熱したものだから、感情がなかなか言葉らしい言葉にならない。
しばらくぱくぱくとリムルの口が動いて、というかわなないて、どうかしましたか? と平和に首を傾げられてつられて鮮やかな色の髪がさらりと揺れて、
やっとリムルの言葉が音になる。
「フェイズのばかー!!」
「えええええっ!!??」
いわれた方は目を白黒させていたけれど、リムルの方は他にいうべき言葉が見当たらない。突拍子のなさだとか理不尽さだとかその他もろもろ、もちろんわかっていたけれど、
フェイズを罵倒することしか思いつかない。

ただ。
けっしてフェイズを捜していたわけではないのに、絶対に違うのに、
彼の姿を目にしたとたん、こころのどこかがほっとしてしまって、そんな自分に気づいてしまって、
もやもやが解決したと同時に、新しいもやもやがこころに生まれてあっという間に育ってしまう。

―― End ――
2009/09/20UP
仄恋十題_so4フェイズ×リムル_
OFP
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気が付けば君を探してる
[最終修正 - 2024/06/17-13:40]