いわれたことばの意味がわからない。
リムルにはフェイズのことばの意味がわからない。

―― 掠めた指先

「……収穫祭?」
「そうなのよ」
今日も今日とてカルナスは星の海。時間つぶし……というわけでもなくそれぞれの文化交流と銘打って、レムリックとエルダーと地球の暦のことを仲間内で話しているときだった。
ぽつり、とリムルがつぶやいたのを聞きとがめたのはフェイズで、エッジとレイミは今までの話の内容をまとめたボードを前にああだこうだ話している。
「秋は食べものがいっぱいできるのよ。恵みをありがとうの気持ちと、来年もたくさん収穫できますようにって、収穫したものでごちそうを作ってみんなでお祭りをするのよ」
「それが、どうしたんですか?」
「今のおはなしだと、ちょうど今日がお祭りの日なのよ。
えーたん、れーたん! お祭り、するのよ」
ぼそぼそとフェイズに説明したリムルは、不意に顔を上げるとエッジたち二人に声をかけた。どうやらこちらの話は全然聞いていなかったらしい二人に同じ説明をして、ダメなのよ? と首をかしげる。
「いや、別にダメってわけじゃないけど……内容によるな」
「リムちゃん、具体的に収穫祭ってどんなことをするの? ごちそうってどんなお料理なのかわからないと、作れないわ」
「ええと、」
レイミに訊ねられてリムルが一生懸命思い出す。つっかえつっかえのたどたどしい説明を拾い上げて、レイミの指がボードの上で踊る。
そっとフェイズが出ていったのに、だからリムルは気づかなかった。誰も特に声を上げなかったところから想像するに、きっとエッジたちもリムルの説明に気を取られていたのだろうと思う。

◇◆◇◆◇◆

じゃあわたしは料理の準備をするわね。僕はそうだな、ちょっとウェルチに相談してみるよ。そんな感じに二人が部屋を出ていってはじめてリムルはフェイズの姿が消えていることに気がついた。
星の海は気軽に出ていくことのできる場所ではないと、すでに口をすっぱく言い含められている。だからこの船の中にフェイズがいるのは確実で、そう思ったならなぜだかいてもたってもいられずに彼を捜しに出ていた。
果たしてフェイズは展望室のベンチのわきで、ぼんやりと外を眺めていて。

「こんなとこにいたのよ」
とてとてとて、近寄っても振り向かないフェイズに腹を立てて、彼の背中にぼすりと頭突きをする。振り向かなかったのはどうやら外の眺めに目を奪われていた――というよりも、考えに没頭していたから、らしい。触れた背中が明らかにびくりと跳ね上がり、押し殺した悲鳴がしゃっくりに似た音を立てる。
「ん、な、」
「こんなとこにいたのよ。えーたんもれーたんもお祭りの準備をしてくれるのよ。フェイズはこんなとこでさぼりなのよ?」
「……あ、ああ……そうですね」
「それとも何か見えるのよ?」
頭突きをしたまま触れていた背中からひょいと離れて、彼の向こうの星の海を眺めやる。なにも変わった様子は見えない。少なくとも、リムルにもわかるようなものは。
さぐるようにフェイズを見上げたなら、彼は困ったような笑みを浮かべていた。
「……フェイズ?」
「いいえ、……リムル。収穫の季節は、そんなに嬉しいものですか?」
いわれたことばの意味がわからない。困惑が表情に出ていたわけではないだろうけれど、リムルの沈黙にフェイズの笑みに苦いものが混じる。
「エルダーは……ぼくの星ではもう、自然に作物を収穫することはできません。野に生えていたすべては死に絶えて、灼熱の大地にいくら種をまいても実りどころか芽さえ出さない。
いいえ、そもそも科学の発達につれて作物はプラントでの育成に移り変わっていきました。加えて季節もないのです。本星にはもう、苛烈な夏しかない。だから、」
リムルにはフェイズのことばの意味がわからない。
「だからぼくにとって、作物は工場から出荷されるものでしかない。収穫の喜びが、わからないんです。それはきっと淋しいことなのでしょう。
そう思っても、いくら考えても結局わからないものはわからなくて」
星の海にとけていきそうな、儚い笑み。つなぎ止めなくてはと思うけれど、下手に手をのばしたならそれだけで決定打になってしまいそうで、なんだかこわくて身動きがとれないような。
今のことばが脳裏をぐるぐるして、懸命に考えても、フェイズがわからないといっていることがリムルにはやはりわからない。わからないから、だから、
「……それとお仕事さぼることと、どんな関係があるのよ?」

「収穫の喜びのわからないぼくに、その祭りへの参加資格はありますか?」

◇◆◇◆◇◆

――やはりわからない。
リムルにとっての祭りは楽しいもので、誰も彼も楽しそうに笑いあうもので、資格もなにも。
「……リムは今レムリックにいないからレムリックのお祭りには出れないけど、えーたんがここでお祭りするっていってくれたから、こっちのお祭りには出れるのよ。
フェイズだって今ここにいるのよ。
だったら、お祭りの準備をしなきゃいけないし、準備を手伝ったらお祭りにでるのは当たり前なのよ」
思い切って手をのばして、きょとんと瞬いたフェイズの指先に、そっと触れた。フェイズの指先はきれいに整っていて、冷たくて、驚いたわけでもないけれど触れた勢いですべって離れる。
「ほら、行くのよフェイズ。えーたんのお仕事、手伝わなきゃダメなのよ」
「え、は、はい……?」
「かけ足! なのよ!!」
「ちょっとリムル、何でいきなり……」
すぐに離れてしまったのがなんだか悔しくて、悔しさをごまかすように声を張り上げたなら、驚いたフェイズが驚いた顔のままリムルの指さしに押されるように展望室の入口から出ていく。
冷たいのにあたたかかったフェイズの体温を閉じこめるようにリムルは手を握りしめて、リムルもてこてこてことフェイズの後を追うように展望室の入口へ向かう。

ふと振り返ったならやはりいつも通りの星の海があって。
レムリックの収穫祭は、今年はどうなっているのだろう。思ったけれど、こちらの祭りもきっと楽しくなるだろうから、そう考え直して、ああ、なんだか足が軽い。

―― End ――
2009/10/31UP
仄恋十題_so4フェイズ×リムル_
OFP
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掠めた指先
[最終修正 - 2024/06/17-13:40]