訊きたかったことがある。
どうしても訊けないことがある。
「……むー……」
カーゴルームから今日も聞こえる、もはやおなじみとなった音にリムルは口をへの時に曲げた。
ここのところフェイズがおかしい。
生真面目で勉強熱心で、努力を何よりも尊ぶところは同じだけれど。パーティメンバーのみんなとにこやかに話すところは変わらないけれど。けれどどことなく、今までとは違う。
はっきりそれに気づいたのはロークのパージ神殿を出たところで、思い返したなら、その前からおかしなところはあった。
誰よりも慎重なのはフェイズだったのに、サラがさらわれたころから妙に先を急いでいた。もちろんのんびりする暇なんてなかったし、なぜかぐだぐだと腰の重いエッジにリムル自身も正直苛立ったけれど、けれどそんなリムルより、パーティの誰よりも、とにかく先に急ごう急ごうとしていたのは確かにフェイズだった。
そして、なぜだかわからない。けれどそのころからリムルの内に疑問が膨らんでいた。
誰にも訊ねるわけにはいかない、フェイズ当人になんてもってのほかで、けれど昔から抱いてきた疑問が急激に大きくなってきた。
「……ばかフェイズ」
カーゴルームの扉は、いや、このカルナスのほとんどの扉は近づくと勝手に開いてしまうから、リムルが気づいたときからずっとずっと休みなく続いているこの音に近づけない。そこに誰がいて何をしているのかもう知っているから、不思議に思っていきなり踏み込むこともできない。誰を呼んでくることもできない。
見上げた扉の向こうで、何かを忘れたいというように、何かを振り切るかのように、ただ闇雲にがむしゃらに集中しようとしているように。一心不乱に剣を振るい、自分をいじめているフェイズを知っているのに。知っているから。
リムルには、なにもできない。
「フェイズのばか、わからないことがあるならみんなに訊けばいいのよ。みんなで一緒に考えればいいのよ。――リムも、気が向いたならちゃんと考えてあげるのよ。
なんで、それがわからないのよ……」
本当は彼が何を考えているのか、何を悩んでいるのか、自分はわかっているのかもしれない。こうしている今も膨らみ続けるリムルの疑問は、それをフェイズにぶつけるだけで彼の答えなのかもしれない。
けれど、たぶんそうしてしまったなら彼のこころをきっとずたずたに傷つけるのだろう。わかっていた。だから、訊かない。訊けない。
間違ってしまったら、取り返しのつかない間違いを犯してしまったなら、
――自分のせいで誰かを死なせてしまったら。
それは本当に償うことができないの? なんて。
その疑問の答えを本当は知っている。けれどそれはひどく苦いものだし、それを誰かと共有するわけにはいかない。
その苦さは過去に自分の犯した罪に対する罰だから、誰とも共有することは――共有することで楽になることは、きっと許されない。そんなことをしてしまったなら、自分で自分が許せない。
そのつもりがなくても、自分の罰を誰かに分けてしまうことになるから。そんなこと、そんな自分、許せるはずがない。
訊きたかったことがある。
どうしても訊けないことがある。
ちっとも休もうとしない扉の向こうの音が、もがき苦しんでいるようにしか聞こえない。
――助ける方法がわからないから、ただリムルはそこに立ちつくす。
