本当に、いいコンビだ。
あるいはいいカップルだ。
「もう! エッジ!!」
レイミの憤慨した声は、もはや耳慣れたものだった。この船に乗り込んだ最初のころこそ、この声がするたびに作業の手を止めてあわてて振り向いていたけれど。旅にもそれなりに慣れた今、レイミのこの声はもはや生活の一部、驚きはまったく覚えない。
それが進化か退化かの判断は、非常に難しいところだけれど。
ともあれ。
「脱いだ服は出しっぱなしにしない! お洗濯は機械がしてくれるんだから、自分で手洗いしろっていってるわけじゃないんだから、ちゃんとしてよ、もう!!」
「わかったわかった、いちいち目くじら立てるなよな」
「何回目だと思ってるの? 怒りたくなる気持ち、わかってくれたっていいじゃない」
「わかっていますとも、レイミがしっかりものだってことくらい。いつもありがとうな?」
「エッジ……って、誤魔化されたりしませんからね!!」
「うわ、ばれた」
「ばれたも何も……って、どこ行くの」
「いやその、ちょっとほら、手とか洗いに。なんかこう汗でべたべたでさー」
「ちょっと、こら、……ああ、もう!」
特に目立った反応しなくなった、慣れきってしまった今でも。聞くたびに思う。痴話喧嘩はよそでやってくれと、激しく。だがしかし、喧嘩をしている当人たちにその自覚はないらしく、下手なことをいうと両方からかみつかれるはめになる。
そんなところばかり、学習して無駄に賢くなっていく自分が哀しい。
いいコンビだと思う。
……まあ、自分がこんなふうに会話を交わす相手を捜したいかといえば、それは別件だけれど。それはともかく。
日常生活では、エッジがレイミに甘えている。
突発事態が起きたなら、レイミがエッジに甘える。
本当に、いいコンビだ。あるいはいいカップルだ。
互いが互いに満たしあい補いあい、でことぼこを足すとちょうど二になる。
「レイミー……かわいたタオルってどこにあったっけ?」
「え? タオルなら……って、やだもうエッジ!? 水したたってる! 後でふいとかなきゃ」
「ああ、うん、後でふいとくからさあ、タオルたおる」
「んもう、しょうがないんだから。待ってて、持ってくるから」
「頼むなー」
……いいコンビだ。それはもう間違いなく。互いが互いに甘え、甘えられ、熟年夫婦もかくやという息のぴったり合ったこんなやりとりは、この二人でしかくり広げられないと思う。自分がそんなふうになりたいとかいうのはこの際おいておくとしても。
いいコンビ、もしくはいいカップルなのだ。
――――ただ。
「? どうしたフェイズ、コンソールなんかにつっぷして。疲れてるなら部屋戻ってちゃんと横になって寝た方がいいぞ」
「ええ……そうですね、そうしたいです。今。心底」
――ここから一刻でも一秒でも早く、消えてなくなりたいと思います。できるなら。
当人たちだけが自覚のない痴話喧嘩に中てられて、虚脱感でダウンしながらフェイズはうめいた。船長がすすめてくれた以上、許可は下りた。だから即座にすばやく瞬時にここから立ち去りたいのに、そうしないとタオル片手のレイミが戻ってきてまたぞろ強烈なのを見せつけられるのに、わかっているのに力が抜けてどうにもならない。
現時点、フェイズが助けを求められる唯一の人は、この虚脱感の原因で。
足して二になるカップルの片割れは、一人しかいない平常時の今現在だと、一に満たないデコな船長は、ただきょとんとそんなフェイズを眺めていた。まったくわけがわかっていないことなんて、そんな表情を見るまでもなくわかっている。
かつかつと、そして律動的な足音が近づいてきて。
フェイズはもう、このまま気を失うことはできないものかとあえて全身から力を抜く。
