暗闇の中、光に寄り添っている。
安心が、ここにある。
「もう! エッジってば、ちゃんと歩いてよ!!」
「あるいてますよー。なんだか地面がぐらぐらだからしかたないじゃないか」
「それはエッジが酔っぱらっているからですッ! だから加減して呑んでねっていったのに」
「えー」
「えー、じゃありません」
かよわいレイミの肩にエッジの全体重がかかって、苦労して歩を進めながらも文句は止まらなかった。
――いや、レイミもいわゆる軍属の身。まじめに訓練している以上、人ひとり抱えて歩くことは見た目のインパクトほどしんどいわけではないけれど。それでも自分の体重より重い、自分よりも上背のあるエッジを彼女の力で運んでいる事実は変わらない。
ひとりではまともに歩くことができないくらい、エッジはぐでんぐでんに酔っぱらっていた。意識があるだけマシだけれど、予想外の方向へ体重をかけようとするのはとてもいただけない。
しばらくいくうちにさすがにしんどくなって、足を止めて深く息を吐く。吸って、吐く。数回深呼吸をくり返して、荒くなった息を整える。
カルナスに乗ることが決まって、元から上官だったグラフトン、以下同輩だったこれからの同僚たちと親睦会の名目で呑んだ、その帰りだった。
呑み会に出席したメンバーの誰も、それほど無茶な呑み方を要求するダメな人間ではない。唯一グラフトンに少しだけ不安が残るものの、気分良くすすめてくるだけで無理強いをされるわけではない。というか周りの誰かがそれとなくツッコミに入ってくれる。ので、断ることができない、なんて事態にはならない。
何しろ自分たちの任務には地球人類の未来がかかっているわけで、性格に問題のある人間は、たとえ能力に秀でていたとしても選抜の過程でふるい落とされている。
だから本当に、エッジもレイミも強要されて呑まされた、とかではなくて。
一度は止まった足を、再び踏み出しながらどうにも深い息が止められない。
「……エッジ。みんなと別れるまではまるでピンピンとしていて、誰もいなくなってからつぶれるの、やめようよ」
もちろん酒の酔い方なんて体質や性格やその日の体調に左右されることだから、いってどうにかなることだとは思わないけれど。けれど自分の酒量をわきまえるくらいはできるだろう。もっと呑むのは控えるようにしよう、とか。
その場に人手があるときは平気そのもので口調も足取りもまったく問題ないように見せかけて、助けてくれる誰もいなくなったら気が抜けて酩酊状態、というのはものすごくよろしくない。
今回はレイミがいたからまだどうにかなっているけれど、これがエッジひとりになった瞬間、だと……道端に倒れこんでタンコブを作った、程度の笑い話ですめばいいけれど。
というか、これを一般人に見られたならエッジ自身はじめいろいろなところに迷惑がかかるのに。
だから、こころの底からお願いするつもりでうめいたのに。当のエッジはへらへらと笑っている。
「誰もいないわけじゃーないでしょー。レイミさんがいるじゃないですか」
「そうね、ものすごく重いんだけどエッジ」
「ひどいッオンナノコにねんれーとたいじゅーのはなしはタブーよ」
「……捨てていってもいいかしらエッジ・マーベリック」
「おいてかないでよー。みすてないでー……ひっく」
――タチが悪い。
ほとんどエッジの全体重がかかっている肩だけでなく、頭まで痛くなってきた。いっそ自分も酔っぱらうことができたなら良かったのに。もちろん、体質的に「ほろ酔い」ならまだしも「酩酊」なんて夢のまた夢だけれど。
いまなんてエッジの世話を焼いているうちに、それまで気分を多少は高揚させていたアルコールさえ体内で完全に分解されてしまったようだけれど。
エッジはなんだか楽しそうに嬉しそうにへらへら笑っている。何が楽しいのだろう。
同じようにもしも酔うことができたなら、わかるのだろうか。
「レイミ、いつもありがとな」
「どういたしまして……ってだから! もう少し自分で歩く努力して!!」
隣にある、ぬくもり。いつだってそれを感じていたくて、エッジの隣にいたくて、……まあ、これだけぐでぐでに迷惑な酔っぱらいを抱えて歩きたいわけではもちろんないけれど、でも、
「他の人にはこんな迷惑かけちゃダメですからね!」
「はいはーい」
「エッジだってお酒抜けてから青くなったりしたくないでしょう!?」
「そうですねー、わかってますよーぉ」
「あと、寝ないでよもう少しなんだから! なんだかさっきより重くなってるんですけど!!」
「……ぐー……」
「エッジ!?」
夜で、光源が心許なくて、けれどエッジがここにいるからそんなにこわくない。レイミにとってエッジは光でぬくもりで太陽で、時にはこうして少しだけ頭痛の種になるけれど、それでもずっとそばにいたい存在に違いない。
こうして隣にいられるだけで。
時に手をつなぎ、時に肩を貸し、こうして一緒に歩いていくだけで。
暗闇の中、光に寄り添っている。
安心が、ここにある。
「……ちょっとエッジ起きてちゃんとあるいてー!」
――この光は、まあ今は迷惑千万な光でもあるけれど。
エッジにお酒は呑ませないようにしようの会がレイミの中で成立したことを、たぶんゴキゲン最高潮で半分夢の国にいるエッジだけは気づかなかったようだった。
ただし、翌日完全に怒っているレイミの前で二日酔いの頭を抱えて土下座するハメになり、そういう意味で酒量は控えめにしようと――その場では確かに誓ったりしたけれど。
