マリアが再び眠りに落ちてしばし。今度はアルベルが目を醒ました。
ぼーっと深紅の目が空を泳ぎ、自分の腕の中で静かに眠るマリアを引き寄せる。存在を確かめるように、少しだけ腕に力を入れてみる。
(……妙な夢、見やがったな……)
何かを口の中でつぶやいたマリアが、くすりと笑ってアルベルに身をすり寄せた。幸せそうな無防備なその寝顔に、自然彼の口元も緩む。
その表情のまま――ぼんやりと目を伏せる。

―― Hochzeit Traum 2

アーリグリフの正装姿の自分が、シランドの大聖堂にいた。かなり広いはずのそこが狭く感じるほどの人間たちが集まっていた。
祭壇の前に立っていたあたり、どうやら自分が主役だったらしい。
フェイトとクリフが似たような黒い服で、片方はにやにやと嫌な感じに笑っていて、片方は半泣きのまま器用に怒っていた。クリムゾンブレイドの片割れと豆ダヌキはそれぞれの民族衣装姿で、豆ダヌキがいつものようにひっついてくるのをクリムゾンブレイドの片割れがうざったそうに引き剥がしていた。フェイトの女とチビガキはお互いのひらひらしたドレスを見せびらかすのに忙しいらしかった。……まあ、内輪できゃあきゃあやってる分にはこっちも平和だ。
アルゼイ王がいた。そのそばには元シーハーツの女、確か王妃だったと思うが、それが立っていた。ウォルターのクソジジイがいつにも増してタヌキな笑みを浮かべていて、死んだはずのヴォックスが、死んだときのままの若さの父と何やらどす黒く談笑していた。クリムゾンブレイドの残りが、部下二人とこんな時にまで仕事の打合せをしていた。フェイトの女そっくりの、いくらか病弱そうな女が、細っこい眼鏡モヤシに寄り添っていた。クソジジイの屋敷にあった絵の男が、ごっつい背格好の男と隅に立っていた。
マリアの船の連中がかたまっていて、男連中が全員何やら敵意のこもった目で見つめてきて、斬り殺したくなった。女連中の方は、主役のはずのアルベルの存在をきれいに無視して、その脇に立つ女に笑いかけていた。
いまいち見覚えのない白い上着を着た連中がいた。他にもたくさん、名前も知らない、けれどなんとなく見覚えのある人間がざわめいていた。
そして。
純白の華やかなドレスを纏ったマリアが、アルベルを見上げて幸せそうに微笑んでいた。――かなり純粋に嬉しかった。

が。
いつの間にか近寄ってきたクリフが、娘は渡さねぇぞとかなんとか、寝呆けたことを言って殴りかかってきた。思わず応戦しようとすると、その隙にフェイトがマリアを掻っ攫っていった。クリフに数発殴られるのをあっさり覚悟して、マリアの方に手を伸ばしたら、なぜか分からないが、次の瞬間彼女が腕の中にいた。しかし相変わらずクリフは殴りかかって来るし今度はフェイトまで剣を抜きやがるし、こっちはマリアを抱えているしで。
やわらかな身体を横抱きにして、ものすごく不本意だが攻撃を避けるために駆け出した。

――ところで、目が醒めて。

◇◆◇◆◇◆

今思い出すとまるで話に脈絡のないところはさすが夢だと思う。思うが、それなりに楽しかったのは事実だった。
(それにしても……あれは……)
何のために大聖堂などにいたのか。なぜあれほどの人数に囲まれていたのか。あのまま、もしもクリフの乱入がなかったら、いったい何が起こっていたのか。
……結論はあっさり出そうだったが、その前に思考を止める。いや、答えが出たからそれ以上を考えることを止めたのかもしれない。どちらなのか、自分でもよく分からない……まあ、どうだってかまわないが。
鉄爪で器用に頭を掻いて、ひとつ息を吐く。
自分の願望でも未来の予見でも、夢は結局単なる夢でしかない。もしそうしたいのなら、その夢の実現を願うのなら、自分からそうなるように働きかければいい。夢に願うより、神に祈るより、ずっとずっと早道で、確実で、彼の性に合っている。
それはもちろん、身体中がむずがゆくなるほど幸福なあの夢は、いつもの悪夢よりもずっとずっと良いけれど。
――今は、この腕の中にマリアがいることの方が重要だった。

いつか。あの夢を実現させてやろうか。ふと思う。マリアは喜ぶだろうか。夢の中のあの笑顔よりも、ずっとずっと幸せそうな笑みを、彼だけに向けてくれるだろうか。
マリアすら見たことのない、優しい笑みを浮かべて。やわらかなその唇に、彼女を起こさないように静かに口付けて。
アルベルも再び夢の世界に戻った。

――覚悟しとけよ。
――それは一体、誰に向けた言葉だろう。

―― End ――
2003/09/05執筆 2004/05/12UP
アルベル×マリア
OFP
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Hochzeit Traum 1 2
[最終修正 - 2024/06/21-10:37]