私がここにいる意義は。
「そう、よね……このサイズじゃあ攻撃力防御力体力その他、戦闘には猫の手より役立たずだわ。偵察くらいならできるかもしれないけど。
それよりも問題は、」
深々と、マリアがまた大きく息を吐いた。がっくりと肩を落として、流れ落ちた髪もそのままにこめかみをぐりぐり押さえる。
「私の戦力の代わりならまだアテがあるから良いとして。
問題は――アルティネイションの能力――」
こめかみを押さえていた手をぱっとはなすと、その小さなてのひらに目を落とす。
「この能力にかわりはないか――ないとなると、あいつらとまともに戦うことさえできない。このサイズでも能力さえ使えるなら、足手まといだろうがなんだろうが、」
ぶつぶつつぶやくマリアに、今度はクリフの特大のため息が聞こえた。何事かと降り仰げば、養父はただ困った顔をしていて、
「――なあ、前から思ってたんだけどよ」
「?」
「お前、何で全部が全部「しなきゃならない」で判断するんだ?
義務を放り出せたあ言わねえが、もうちょっと気楽に考えたらどうなんだ」
あきれたようにあきらめたように、もう一度大きな息を吐く。
「くり、ふ……?」
「前から、それこそお前拾った……拾って話したあの最初のときから、ずっと引っかかってたんだ。――なあ、マリア。何だってお前、全部が全部を「しなくちゃいけない」にして、義務にして自分を縛るんだ?
お袋さんの死を目の当たりにして「生きなきゃいけない」はいいけどよ。変な能力持ってることに気付いちまって、その正体を知りたいだとかその理由を知りたいだとかで、「ロキシ博士に会わなきゃいけない」も分かるけどよ。
自分を縛り付けて全部を背負い込んで、オレは、そんなお前が心配なんだ」
いつだって冗談混じりでどこまでが本気か分からない養父が、どこまでも真剣な顔になっている。照れくさいのか考えをまとめたいのか、ばりばりと髪を掻き混ぜようとしてうっかり肩に乗ったマリアをすべり落としかけてあわてて拾うとてのひらに立たせて目の前に、
「さっきの質問だってな、――こういう事態に、身体が縮んじまってよ。お前はどうしたいんだ? 何を「するべき」だからそうする、じゃねえ、お前の意思はどうなんだ。
足手まとい承知でこの旅に同行したいとか、時間決めてそれまでは原因とかを探すとか、いっそすっぱり旅を止めてみるとか。骨休めしたいったって、そう嫌な顔するやつぁいねえよ、お前、特に最近急ぎすぎだ」
「でも、」
「――ああ、こうしている間に星の一つや二つ消し飛んでるかもな。
けどな、マリア。だからって消し飛んだ星にひとが住んでいたとして、どうしてその生命をお前が背負い込む必要があるんだよ?
目の前で見知ったヤツが消されるの見せ付けられるのははらわた煮えくり返るさ、確かにな。けど、見ず知らずの、これから一生会わないかもしれない、どころかそもそも生命があるかどうかも分からない星がどうなろうが、お前にゃ関係ねえだろう?」
真面目で、怒ったように揺らめく藍い目。言葉を見失って口をぱくぱくさせるマリアに、静かに降り注ぐことのは。
――無視していた、見ないふりをしていた考えが静かに浮上して、マリアはたじろぐ。
「能力があろうがあるまいが、それが強かろうが弱かろうが、お前の存在そのものにゃ関係ねえよ。それで態度変えるやつも世の中にゃいるだろうが、少なくともこのパーティにゃいねえよな。
アルティネイションがあるからお前はこのパーティにいるんじゃねえ。パーティ組んだお前がたまたま変な能力持っていた、それだけだ。
なあ、マリア。……お前は、」
――お前は、忌み嫌っているその能力を存在意義にしていていいのか?
風が唸ってマリアの髪が揺れる。しゃらしゃらと流れる音は、大きさが変わってもボリュームダウンするだけで、同じ音だった。風が止んでも同じその音が聞きたいというように。
マリアはゆるく首を振る。
「……義務感、そうね……私は、自分をそれで締め上げているのかもしれないわ」
考えがまとまらないうちに口が勝手に動いて、言うつもりではない言葉があふれ出す。考えがまとまっていないのにきっと目の前のクリフをにらんで、マリアの口が勝手に動いている。
「それは、私が望んでやっていることよ。旅を急ぐのも、無関係な人を守るために先を急ぐのも、消えていった生命を勝手に背負い込んでいるのも。
全部、私がそうしたいと望んでいるから。
――私を拾って、育ててくれたクリフに感謝しているわ。でも、私の人生よ。生き方に、口を出さないで」
「だったら!」
大声に身体が震える。はっと我に返ったクリフが少しだけ声を低くして、続ける。
――気付いていたけれど、懸命に、見ないふりをしていた可能性を引っ張り出す。
「お前、パーティの誰も、オレらもそしてパーティの外にいるやつも、犯人は誰でもないって言ったよな?」
「……で」
「じゃあ、お前自身は? その厄介な能力が無意識に発動した可能性はねえのか!?」
「言わないでっ!!」
悲鳴のような――悲鳴が、マリアの口から漏れる。
――気付いていた。
――分かっていた。
真っ先に思い付いて、消去法で最後まで生き残ったもの。認めたくなくて、今まで逃げていた。
アルティネイションで、彼女の持つ特殊能力で彼女自身を――変えてしまったの「かもしれない」。不安を思う心が暴走して、彼女自身に影響を出したの「かもしれない」。
……分からない、分かりたくない。
マリアはただ首を振る。
――私は、だったら、何のために存在しているの?
――いつも誰かに必要されていたい、そう思うのは間違っているの??
――私は、
「マリア、おい、マリア……!」
押し殺した、けれど珍しく切羽詰まったような、余裕のない声が聞こえた。深い眠りに落ちていたマリアはきゅっと眉を寄せて、けれどぐずぐずと起きないマリアにクリフの声は何度も何度も、
「……クリフ?」
目を開けたら目の前に養父の顔があって、それはなんだか微妙に焦った顔だった。そんな彼にきょとんと瞬いて、マリアはこくんと首をかしげる。
「なに」
「――、え、あ……ああ?
なんだったっけか? マリアを起こさねえとってなんだかものすごく焦ってた」
「知らないわよ、そんなこと」
苦笑したマリアにクリフの手が伸びて、大きな手が頬に触れてマリアは驚いた。それがぬぐい去ったもの、今も次々浮かぶ視界をゆがめるものに、理由が分からないマリアはさらに驚く。
「なんだったのかしら、……夢を、」
「夢、か。オレもそうかもな」
大きな手に暖かい手に、頬をすり寄せて、いまだこぼれるもの――涙を気にしないで、マリアは微笑んだ。今は笑った方が良いと、頭の奥がささやいていたから、そうしてみた。
「ね、クリフ」
「ん?」
「私は、ここにいても――……」
――私がここにいる意味は。
――私がここにいる意義は。
求めて、かまわないモノでしょうか……?
