先日、調合していたら性転換の薬が出来た。軽い気持ちでアルベルに飲ませてみたら、これがかなりの大ヒット。
でもそれから皆の態度がなんだかよそよそしい。
――副作用もなかったし、けっこう面白いと思うんだけど。

―― Geschlechtlich Lastigkeit 1

交易都市ペターニ。一行はドラゴンの巣窟に行く前に、と人と物資の行き交うこの町で一息ついていた。武器も防具も装飾品も、消耗品である薬その他もろもろも、ここなら確かに手に入りやすい。
まあ、ぐだぐだ理由つけて尻込みしてないでとっとと行けよ、と考える者も若干名いるが。

そのペターニ屈指の高級宿屋の一室で。
「…………」
クリフが絶句している。真面目にしていればけっこう見られる顔が、こうまで間抜けになると何だかこう、ガッツポーズでもしたくなる。その後ろのアルベルはというと一見いつもの仏頂面だが、よく見るとこめかみのあたりがひくついていたり。
「――何やってるんだ阿呆」
「ん? 見たまんまだよ。どうかな?」
「…………いっぺん死ね」
うめく彼ににっこりと笑ってみせると、げんなりとした顔でそっぽを向いてしまった。ちなみにクリフはまだ固まっている。
フェイトはしげしげと自分の姿を見ろした。どうやら自分では、けっこう良い出来だとでも思っているらしい。
「あ、そうだ。ネルさんあたりに服借りてこようかな♪」
というか、女性陣の反応が見てみたい。
そうつぶやきながら浮かれた足取りで部屋を出る際、ふと振り返るフェイトの目に、クリフがなんだか頭を抱えてうずくまっているのが映った。

◇◆◇◆◇◆

「……薬……この前焼却処分したわよね……?」
「ああ、レシピ覚えたからまた作ってみたんだ」
かすれた声で訊ねるマリアに、フェイトは少し自慢げに胸を張ってみせた。
「あと、今回は一緒に豊胸薬も飲んでみました。……マリアも試してみる? 不味いけど」
にこにこにこ。一見無邪気な笑顔に、取り出した銃を半眼のマリアが瞬時に突き付ける。
「前々から言おう言おうと思っていたんだけど……私、胸ないわけじゃないのよ……? 一体誰と比べているのよ、キミは」
「前々から言おう言おうと思ってたんだけど、人に銃突き付けるクセ、直した方がいいよ? 人間、まずは話し合わなくちゃ」
「ええ、私もね。話が通じる相手ならそうするわ」
答えをはぐらかされたことに気が付いて、一つため息を吐くマリア。銃をしまいながら、
「……で?」
「え? ああ、この前のアルベル実験台のときはなんだか評価がかんばしくなかったんで。ま、そう大して変えたつもりはなかったけどね、自分でも一度試してみようかと」
くるりとその場でターンして、どう? と小首をかしげてみせる。

――元が美少女顔なので、違和感はない。というか、むしろ客観的に見ればかなりかわいいと思う。
女性にしてはかなりの長身で、しかし肉付きの薄い華奢な体躯。どちらかというと儚げな印象で、守ってあげたい、見る者にそういう気持ちを起こさせる雰囲気。豊胸薬も飲んだということだが、こちらはあまり効果がなかったようだ、とマリアは思った。

違和感はない。似合っている。そう、似合ってはいるのだが……それはあくまで、「普段」のフェイトを忘れれば、といった前提がつくわけで、
「――仲間の男が女になりました、って事実はマイナス要素ね」
「じゃあ、それさえなければ問題ないってことだね?」
なんでこの男は(今は女だが)こうまで前向きなんだろう。マリアは眉を寄せる。フェイトは何だかとても楽しそうに、スキップすらしそうな顔で、そういえば、とそんな彼女に訊ねてきた。
「ネルさんは? 服でも貸してもらえないかなーとか思うんだけど」
「……私のは問題外なの……?」
小さくうめいて、あきらめて頭を一つ振る。だめだ、このペースにはまっても疲れるだけだ。
「彼女なら、打合せとかで朝早く出ていったわ。昼くらいに一回顔を出すって」
「ふーん……仕方ないな」
ちょっとがっかりして出ていった背中に、マリアは安堵の息を吐いた。それからふと顔をしかめる。
「――っていうか、なんか勢いに呑まれて逃がしちゃったわ……」

◇◆◇◆◇◆

フェイトは、とりあえずネルが帰ってくるという昼まで鍛練でもすることにした。宿屋の裏手で鞘付きの剣を振り回し、すぐに首をかしげる。
「……この前アルベルが心底嫌な顔してた理由って、ひょっとしてこれかな?」
いい加減手になじんだはずの剣が、やたらと重く感じる。振り回せばすぐに息が上がるし、気を抜けばすっぽ抜けてしまいそうだ。まじまじと自分の腕を見下ろす。細い。
「うーん……」
あきらめて剣を地面に放り出し、なんとなく前屈してみれば、呆気なくてのひらが地面に付いた。ふと思い付いてストレッチをしてみると、関節がずいぶん柔らかいことに気付く。
「腕力や持久力がなくて、身体が柔らかくて……」
――他に何か違うところは?
「ああ、なんだか身体が軽いな」
つぶやいて二、三度跳躍して、少し眉をひそめた。豊胸薬はあまり効かなかったようだと思っていたが……不用意に跳ねるとどうにも胸が気になる。
――ソフィア……今ならお前の気持ちが分かる気がするよ……。
遠い目をして心の中でつぶやく。
平凡な中身の割にスタイルの良かった幼なじみは、運動が苦手だった。それはそうだろう。あれだけの胸ならば、激しく動いたりすれば、それはもう気になるどころじゃすまないに違いない。
「どうしようかな……無理して明日筋肉痛になるのも馬鹿らしいし……」
つぶやいて、鍛練は切り上げることにする。
薬の効果は丸一日。クリエイションで時間を潰すのもいいかもしれないが、この機会に、女でなければ出来ないことをしないとなんだかもったいない。先ほどは何も思い付かなくて、ネル待ちと称して鍛練で時間を潰そうと考えていたのだが。
「……やっぱここはナンパかな」
果たして自分に引っかかる男がいるものかどうか。れっつチャレンジ。

長剣は置いていくことにした。いざというときに使いこなせない武器では、護身の役に立たない。かわりにネルの短剣の予備を借りていくことにする。髪も服もいつものままで、鎧だけは外して、
「……こんなところかな」
鏡の中のボーイッシュな少女が肩をすくめる。

しかし、ナンパ待ちとはどういうものなのか。何も考えずに宿を出たフェイトはようやくそのことに気が付いた。自覚していなかったが、かなり浮かれていたらしい。
「……ま、散歩ってことにしよう」
見知った顔に会ってその反応を見るのも良いのだが、ここはひとつとちょっと冒険してみることにして。アミーナの家の近く、「噛み付く仔ヤギ」亭のあるあたり。ちょっと雰囲気のよろしくないところにふらふらと向かってみる。

―― Next ――
2003/07/08執筆 2004/05/01UP
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Geschlechtlich Lastigkeit 1 2
[最終修正 - 2024/06/26-14:43]