「……予想通りかよ」
「あれ、クリフ。アルベルも。……え?」
何も考えずに「噛み付く仔ヤギ」亭のスイングドアをくぐった瞬間、聞き覚えのある声がした。きょとんとしてそちらを向く。テーブルに陣取って、金髪の大男と険のある細身の男が、そろって深いため息を吐いている。そのテーブルには何本か酒瓶が林立していて、
……つまり。
「真っ昼間から酒盛り? いい身分だな二人とも」
「うるせ。どうせお前のこったろうからここらへんうろつくと踏んで、酒場で待つなら酒呑むしかないだろ」
「……俺はこいつに引きずられて来たんだ」
「そうは言ってもな、お前……」
「なんだ、ひょっとして僕ってモテモテ?」
がたん、大げさなリアクションでクリフが床に崩れ落ちた。アルベルの方はというと凍り付いている。そのまましばらく眺めていると、やがてじわじわと我を取り戻して、一気に脱力してうめいている。

―― Geschlechtlich Lastigkeit 2

「……阿呆」
「いや、冗談だったんだけど。それにしても、なんでまた? なに、本気で僕を心配してくれてるの??」
うっわー。
特に表情も変えずに言うフェイトに、結局誰も何も反応してくれないので自力で起き上がったクリフがため息を吐いた。立ち上がって大股に近付いてくるのに、そのままの調子で続けるフェイト。
「大迷惑」
ごん。またも頭から床に倒れ込んで、マスターが心底迷惑そうな目をして眺めている。
「――俺は帰る」
「……待てアルベル。オレだけに押し付けるな」
またもやどうにか復活したクリフが、言うなり立ち上がったアルベルをがっちりと掴み止めた。
「そうだよアルベル。お前だってその酒呑んでたんだろ? 金払わずに出て行くなんて最低じゃないか」
「そーゆー問題じゃねえ!!」
フェイトの言葉を聞くなり、懐から出した多めの代金をテーブルに叩き付けたアルベルに、クリフが怒鳴った。もう付き合いきれんとばかりにさっさと出て行こうとするアルベルを、クラウストロ人の腕力に任せて力いっぱい引き止める。
「オレだけに面倒ごと押し付けるなつってんだよこの薄情者!!」
「離せクソ虫がっ。この阿呆がどんな目に遭おうと俺にゃ関係ねえ」
「その通りだよクリフ。僕ももう大人だしさ、何かしでかしたら自分で責任負う気はあるし。マリアのことも含めていい加減保護者卒業したら?」
サラウンドで言われてへこむと思いきや、双方の肩を掴んで店の外にまで引きずっていこうとする。あれ、代金は? とズレた指摘をするフェイトに、さっきのアルベルの金で釣りが来ると不機嫌にクリフは吐き捨てた。

◇◆◇◆◇◆

店の外。路地裏の人気のないところまで二人を引きずって来ておいて、
「……つまりだな。フェイト、お前今の自分の外見把握してるか?」
「え? えーと、控えめに言って美少女ってとこかな」
怒り顔のクリフに噛んで含めるように訊ねられて、ちょっと考え込んだフェイトがさらりと答えた。大きくうなずいたクリフが、この隙に逃げようとするアルベルの尻尾(違)を見もせずに掴んでおいて、逆の手の指をびしりとフェイトに突き付ける。
「分かってないようだからはっきり言うがな、タチの悪いのにこういうとこ引きずり込まれて、昼間から口に出すのをはばかられるようなことされたらどうするんだ、分かってんのかそこんとこ」
「――だから、たとえ強姦されたってそりゃこいつの責任だろうが……離せこの阿呆!」
「お前な!! マリアそっくりの顔のヤツがそんなことになったらオレは素で泣ける自信があるぞ! つーか言うなよそんな具体的な単語!!」
「クリフ、何馬鹿なこと大声で言ってんだよ恥ずかしいなあ」
まるきり分かってくれない年下の二人に、がっくりとクリフの肩が落ちる。
「それにさ、いくら僕だって丸腰でこんなトコ来ようだなんて考えてないよ? ほら、武器だって持ってるし」
「で、そのネルの短刀を自在に操れるわけだなお前は」
「そりゃ自在にってまでは無理だけど……刃物ちらつかせれば怯んで逃げてくだろ?」
「……阿呆」
脱力したクリフから尻尾(違)を取り戻したアルベルが、不意にぼそりとつぶやいた。一気にフェイトとの距離を詰めて、その右腕を固めてしまう。さすがにあわてたフェイトが話題の短刀を引き抜こうともがけば、逆にそれを奪って喉元に突き付けて、
「――で、お前はこういう状況をどうするつもりだ?」
「いたっ! 痛いってばアルベル本当に固まってる、ギブ、ギブギブ!!」
もがいても全力で暴れても、自分でも分かるくらいその抵抗は弱い。
フェイトの顔から血の気が引いた。青い顔の、その額に光が収縮していって――
「待てフェイト、落ち着け! アルベル、もういいから離してやれ!!」
クリフの大あわての静止。舌打ちしたアルベルがあっさり引いて、開放されたフェイトがその場にへたり込む。取り落とされた短刀をため息を吐きながら拾ったクリフが、そんなフェイトの元にしゃがみこんだ。
「……分かったろ? 馬鹿なことしてねえで、とっとと宿屋戻って今日はもう部屋から出るな」
「う、――アルベルひどいじゃないか!」
「人の話を聞け!!」
「阿呆。いつものお前ならあっさり抜けてんだろうがあのくらい。腕力が落ちてることくらい把握しとけ」
「だから、人の話を!」
「だって、アルベルじゃなきゃあんなとこまであっさり寄せないってばいくら今の僕でも! つーか、アルベルレベルの奴がごろごろしてるようなとこ行かないよ僕は!」
「人の話を聞けっつってんだろフェイト!!」
無視され続けていい加減逆上したクリフが、フェイトの胸倉を掴み上げた。さすがに表情を歪めたフェイトに次の瞬間には我に返って、あわてて手を離す。
「わ、悪ィ」
「……いいんだ、僕が調子に乗ってたんだから。ふん、たとえ短気なクリフに殴り殺されても、確かに僕の責任だからクリフを恨んだりしないよ」
十分以上に恨みがましく言うフェイトに、今度こそあきれたアルベルがきびすを返す。一緒に他人のフリをしたい誘惑を何とか振り切って、クリフがフェイトをまるで猫の仔のようにひょいと抱え上げた。
「いいから、宿屋に戻るぞ。泣いても暴れても聞かねえからな、いいなフェイト」
「うわ、クリフそれって悪人くさいってば」
「うるせえ!!」

◇◆◇◆◇◆

結局。宿屋の一室にフェイトは閉じ込められ、ドアの外には銃片手のマリア、窓の外には仁王立ちのクリフ、屋根の上には抜き身の刀をぶら下げたアルベル、やがて帰ってきたネルには床下を固められて。
第一回ナンパされてみよう大作戦は、悔しいかな、完膚なきまでに潰えて。
もう二度と性転換薬は作りませんという誓約書まで書かされたフェイトはぶーたれていたが。その目の奥にはまるであきらめた色もなくて。
ああ、結局しばらくしたらまた似たような騒ぎが起きるのだなと、肩を落とした一行(一名除く)だった。

―― End ――
2003/07/08執筆 2004/05/01UP
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Geschlechtlich Lastigkeit 1 2
[最終修正 - 2024/06/26-14:43]