「……ちっ」
気味の悪い笑いしか帰ってこないゴッサムに鋭く舌打ちをして、その脳天にカタナの峰をぶち込んで気絶させたアルベルは、続いてやるせない息を吐いた。
まったくもってやってられない。

―― Geschlechtlich Verwirrung 2

カルサアなどという、彼(彼女?)にとっては地元でこんな醜態を二回も晒すハメになって、もうため息しか出てこない。憂さ晴らしにちょっと遠出して暴れようにも、腕力体力がやたらと落ちているのは前回確認ずみだった。かといって戦うことにしか能がない彼(彼女)にしてみれば、他に時間を潰せることなど――
「俺は寝る。……畜生……」
下手に外をうろつけば、実は女装趣味がある漆黒団長、などというレッテルを貼られそうで、それはさすがに嫌だった。

「はあ……じゃあ、あたしは散歩でもしてくるよ。幸いこのへんに知り合いはアストールくらいだし」
「え……ネルさん、アルベルさんのその服で……?」
戸惑い気味のソフィアの指摘に、上は自前の服、フェイトのズボンの上にアルベルの腰巻きという、そんな格好のネルは小さく首をかしげた。
「あいつの、って言ってもこれだけじゃないか。何か変なのかい?」
「いえ、なんだか似合ってますけど……そうじゃなくて、兵士さんに何か言われるんじゃないかな、と思って」
まあ確かに。任務だなんだと大陸中を回ってきたが、こんな格好をしていた人間は今のところ一人しか心当たりがない。その本人の地元でその服を着ていて、本人の職場(?)の人間に見られたら何か言われそうな気は、確かにする。
気はするが。
「大丈夫じゃないか? さすがにあたしもさ、戦争が終わったとは言っても、任務でもなしに他国の兵の駐屯地に行きたいとは思わないよ」
町の北東の方にさえ行かなければ大丈夫ではないかと笑ってみせると、不承不承ソフィアはうなずいた。

◇◆◇◆◇◆

「マリアさんやクリフさんはどうします?」
「そうね……あなたはどうするつもりなのかしら?」
いつもより低めの落ち着いた声。フェイトよりも鋭利な印象の線の細い青年のマリアに、ソフィアは一瞬今の自分の姿を忘れ去って、ぼーっと見惚れていた。
さりげなく優しくて、何事にもそつがないフェイトに憧れているけれど。きりりと引き締まって常に冷静で揺らがないマリアは、格好いい。普段から格好いいマリアが、今は男性のどこかどっしりしたものを付加されて、さらに格好よくなっている。
「……ソフィア?」
「え!? は、はい、ええと……ファクトリーじゃなくても、できるかな、って、ビーズでストラップか何かそんな感じの作ろうかなって思ってますっ」
怪訝そうに名前を呼ばれて、我に返ったソフィアはあわてた。
さすがに男として立ち回るのは、とソフィアは宿で細工をするつもりだった。細工と言っても結局は自分の小物なので、出来はそんなに気にならない。
少しどもりながらそう言うと、考え込んでいたマリアがやがてにこりと笑う。
「もし良かったら、ちょっとためしに行かない?」
「ためし……?」
「ええ、どうせだからちょっと……ほら、アルベルは女になったら筋力が落ちたとか言ってたでしょう? なら逆に、今なら私たち、筋力が付いてるんじゃないかと思って。
トラオム山岳地帯なら敵も大して強くないし、少し腕試しに、どう?」
「……お前なあ……お前とソフィアじゃ両方得意は遠距離だろ?」
「別にかまわないじゃない。だから弱い敵のところを選んだんだし」
さらりと言うマリアをため息一つであきらめて、クリフがソフィアを見る。その目に哀願するものを認めながら、しかしソフィアも好奇心には逆らえずに、
「……そうですね、じゃあ、ちょっと行ってみましょう」
丸くなったクリフの肩ががっくりと落ちた。

「……と、そうだ。ソフィア、ちっと悪いんだが……」
「はい?」
善は急げとばかりに身を翻しかけたソフィアを呼び止めて、クリフが困った顔をする。何ですかときょとんとするソフィアは、それこそ本当に毛並みのいい小犬のように見えた。
「……どうにも気になるんでな、何とかならないかと思って、な……」
「?」
やはりそんな言い方では伝わらないかと、苦笑する。何をしているのとばかりに視線を向けているマリアをちらりとうかがって、内緒話でもするようにその耳元に口を寄せてつぶやいた。
「胸……どうにかならねえか? 重いし邪魔だし気になるんだよ……」
「ああ」
ぽん、手を打ったソフィアに、どうにか聞こえていなかったらしいマリアが首をかしげる。養女が胸のなさにコンプレックスを抱いていることは知っているから、内心クリフは冷や汗ものだ。
「そうですね。どうせ丸一日なんだからブラを買う必要もないでしょう。サラシとか巻いてみたらどうですか?」
ブラ……って、あのねソフィア。今は女だけどクリフは元に戻ったらエロオヤジよ自分からネタ提供してどうするのよ絶対元に戻った後このネタ引きずるわよ。
――などという養女のあんまりなセリフに思わず視界が潤む。
「サラシ……布巻くだけで違うもんなのか?」
「わたしはやったことないですから何も言えませんけど。激しく動かないならいいんじゃないですか?」
――ずいぶん無責任なこと言うんだな。
クリフは本日何回目かも分からないため息を吐き出し、がっくりと肩を落とした。

◇◆◇◆◇◆

結局。
寝ると宣言したアルベルは本気で朝まで起きてこなかった。
散歩をしてくると外に出たネルはなぜかそこらじゅうの女性からもらったという大量の「お土産」を手に帰ってきた。
マリアとソフィアは腕力と体力こそずいぶんアップしているものの、やはりいつもと違う勝手がなかなかつかめなくて小さな傷を山ほど負ってはソフィアの施術で適当に癒して帰ってきた。
クリフは逃げ遅れて貧乏くじを引かされた状態で、宿屋でフェイトとゴッサムを見張りながら一日過ごすという腐った時間の潰し方をするしかなかった。
フェイトおよびゴッサムは、そんなクリフがまじめに見張っていたせいで隙を見つけて逃げ出すこともできなかった。

フェイトが今度何かをしでかしたときのために、パーティメンバー全員が幼馴染のソフィアに何事か相談するようになったことと。赤毛の超美男子と、青髪と栗髪のきれいな美青年美少年が確かに入ったはずの宿屋から出てこなくなった話が、カルサア中の若い娘たちの間に都市伝説として残ったことと。同じくその宿屋に、やるせない顔たたずむ大柄で金髪の美女幽霊が出るという噂が、カルサア中に流れたこと。
後に残った影響はそんなところだろうか。
――ルシファーが倒せなかろうともう知ったこっちゃない、今度やったら容赦なく抉る、と正真正銘本気のマリアはじめパーティメンバー全員に迫られ、そこでようやく身の危険を感じ取ったフェイトがあきらめたので。一連の騒ぎは、どうにか終結を迎えたと見ていいだろう。
……――多分。

―― End ――
2003/02/13執筆 2004/07/10UP
パーティ
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Geschlechtlich Verwirrung 1 2
[最終修正 - 2024/06/26-14:44]