――ミラージュのそばなら安心して寝ているんでしょう?
マリアの声が耳元で聞こえて、あわてて周囲を見渡した。ふと部屋のドアがロックされていないことに気付いて、完全に脱力した太い腕から逃れる。

―― Sein Beruhigungsmittel 2

……私は、だって、付き合いが長いんですよ? クォーク設立のときから、それ以前からずっとずっと、クリフと付き合いがあったんですよ??
「……ん……?」
枕元のコンソールをいじって扉のロックを確認した瞬間、もぞもぞと腕をさまよわせたクリフが小さなうめき声を上げた。少しだけ眉を寄せた険しい顔で、ベッドの上をうろつくその手が、思わず身体を小さくしたミラージュを発見する。
「んー……」
「クリフ……?」
それこそ抱き枕よろしく、見付けたミラージュを抱き寄せて。瞬間、少しだけ険しかったクリフの顔が歓喜の色に緩む。
「実は、起きているんじゃないですか?」
半眼になってつぶやくミラージュに、どこまでも平和な寝息の返事。これがタヌキ寝入りなら大したものだと、その鼻をつまんでやる。ぴたっと呼吸が止まって、しばらくすると顔色が変な色に変わってきた。
……? 本当に寝ているの、でしょうか。
指を離せば大きく息を吸って吐いて、しかし結局、そのだらしなく緩んだ表情には変化がない。さっきはミラージュが少し離れただけで顔をしかめたのに。
だたじっと男の様子を観察するミラージュの顔が、いつもの穏やかな顔のまま、頬がほんのりと赤くなる。

好意を抱いている相手から特別扱いされて、嬉しくない女はいない。
それが、たとえ最強の名で(知る人には)知られている、あのミラージュ・コーストでも。面と向かってためらわない女と評されて、それをにこやかに肯定できる彼女でも。

……けれど、マリア、勘違いしないでくださいね? クリフが私に依存しているんじゃなくて、私がクリフに依存しているんですよ。
クリフの腕を外さないまま、寝るにはやや邪魔な上着を器用に脱いだミラージュが、ほんのりと微笑んだ。先ほどの通信最中と同じように、意外と柔らかな太陽の色の髪を優しく梳いているうちに、彼女にも眠気が伝染する。
……私は、クリフのそばにいるととても安心してしまうんです。
クリフのようにほとんど寝ないわけではなかったものの、エリクールで別行動をしている最中、普段に比べれば彼女もほんの少し眠りが浅かった。こんなふうに、とろんと眠気に捕らわれることなど、彼のそばにいなければまず絶対にないのに。なかったのに。
「……」
しばらく経って、自動設定されていたライトがゆっくりと落ちていった。二種類の寝息と時おり寝返りを打つ音だけが、部屋にかすかに響くだけになる。

◇◆◇◆◇◆

翌朝。クリフよりも先に目を覚ましたミラージュが、彼の部屋のシャワーを借りて身支度を整えていると。その水音でぼーっと目を覚ましたクリフが、のっそりと身を起こした。
「……? ミラージュ??」
「はい。シャワーとタオル、借りました」
「ああ、別にそれはいいんだが……寝入っちまえば別にほっといてくれて良かったんだぜ?」
「リーダー命令で、強制休暇をもらったんですよ」
「……はあ?」
まったくわけが分からないという顔をするクリフに、ミラージュはすまして答える。
「私はあなたの抱き枕で、どうやらあなた専用の睡眠薬みたいです」
「?」
「……そう、マリアに認識されてしまったみたいですよ」
「……っ!?」
あわてるクリフを見て、ミラージュが声を上げて笑った。華やかなそれはめったに見られない貴重なもので、やがてそれが伝染したクリフも困った顔で笑う。

◇◆◇◆◇◆

「……悪いな。世話かける」
「いえ。長い付き合いですから」
いろいろな意味に取れるそんな会話を交わして、そして柔らかく顔を見合わせた。
「「……おはよう」」

今日も一日がはじまる。

―― End ――
2004/03/12執筆 2004/06/11UP
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Sein Beruhigungsmittel 1 2
[最終修正 - 2024/06/26-15:08]