求めるものは、本心から求めるものは。
あなたのそれは、一体なんですか。

―― en dernier recours 1

「ジェイド、俺は結婚しようと思う」
「……ほう、相手はどちらの姫君ですか、陛下?」
さまざまな青を美しく配置した水上の壮麗な宮殿グランコクマ、その中央。水のカーテンが美しい謁見の間の、真下に位置するピオニーの自室にて。宮殿の青の美しさをぶち壊しにするブウサギたちをはべらせて、にこやかな主がにこやかに言い放った。
部屋の主に呼び出された長身眼鏡も間髪入れずににこやかに返す。口元は微笑んでいるものの目は笑っていなくて、いかにも何か企んでいそうな彼のいつもの笑顔に、けれどピオニーはまるで怯まない。
「……それがだな、何とあのキムラスカの姫を考えているんだ」

わざと一拍おいて、さあ驚けといわんばかりに実に楽しそうに言い放つ。対してジェイドはやれやれと肩をすくめたものの、まあ別に驚きはしなかった。
「考えている、とはまだ先方の意思は確認していないわけですね」
むしろ言葉尻で揚げ足を取る。ピオニーは軽くうなずいて、こちらもまるで動じた様子はなかった。
――昨日今日の付き合いではないので、お互い相手がどうくるかなんて大体予測がつく。
「やれやれ、それだけ信頼されている……ということにしておきますよ。
しかしキムラスカの姫ですか。まあ……休戦間もないですし、これからも何かとごたつくでしょうし。婚姻で関係を深めておくなんて常套手段も、今なら効果はそれなりに期待できそうではありますが」
そもそもしょっぱな一言目でオチが読めたジェイドにしてみれば、ばかばかしい、の一言で斬って捨てたい。けれど相手は仮にも一国の王、自分が仕える王のしかも婚姻話とくれば、無理に切り上げるわけにもいかない。
もはや義務感だけで口が勝手に動いている。

◇◆◇◆◇◆

ため息まじりの彼の言葉に、けれどピオニーはどこまでも楽しそうに、
「だろ? ……でな、相手の姫はいろいろすごいぞ」
「……どういった意味で?」
逃げたがっているジェイドを分かっているだろうに、ピオニーはどうやら黙って逃がすつもりはないようだ。
「まずは美人だ。……キツめのな。性格も顔に似合ってキツいが、そこがたまらん」
「まあ陛下がご所望とあれば、よもやその条件が外れるとはそもそも思っていませんが」
「どういう意味だそれは?
まあともかく、だからといって性格が悪いわけじゃねえぜ? むしろ良いな、うん。王侯貴族よりも市民に慕われてるらしいから、そこは折り紙つきだ」
ジェイドの眉がぴくりと動いた。分かっていて知らないふりをするように、どこまでも楽しそうにピオニーは続ける。
「良いといえば頭もキレる。……そういえば第七音素も使えるらしいな。治癒術を扱うと聞いた」
「第七音譜術士は貴重ですから、我がマルクトに迎え入れるのに文句はありませんが」
「しかもなかなか行動派で、弓術などかなりの腕前とか」
「たとえばどこかの流儀のマスターランクあたりでしょうか」
「どんな困難にあっても決してくじけない気質、と伝え聞いてはいたが、先だっての騒ぎでそれが証明されたな。それを聞いてますます興味がわいたぞ、俺は」
ピオニーの言葉にしばらく無感動に相槌を打っていたジェイドが、やがてその視線をさえぎるように手を上げて眼鏡を押し上げた。

「それでだな、」
「――陛下」
「うん?」
本来はただの臣下に違いないジェイドが、君主の言葉をさえぎっていいはずがない。けれどここはピオニーの自室で部屋には二人しかいなくて、当のピオニーはそういうことにまったくこだわらない。
というか、しかけたいたずらを見守るようなわくわくした目がジェイドに向いている。
「おそれながら。――キムラスカ・ランバルディア王家の姫君をお考えなのでしょうか」
質問というよりも、それは確認の口調で。今までの話からそれ以外を探し出そうとしても、まったくもって浮かばなくて。
苦々しいジェイドに、ピオニーはにたり、と今まで以上に笑みを深くする。
「……そうかもな」
ジェイドは実名を挙げない、ピオニーは断言しない。まったく茶番だ、とジェイドはもはや何回目かも分からない息を、肺全部を空にする勢いで吐き出す。
「――彼女には婚約者がいらっしゃるはずですが」
「俺もそう聞いている」
「かの国の王家の姫君は、彼女一人きりですね。我がマルクトに至っては皇帝の血族は陛下以外おられない。彼女が嫁ぐとなれば、王位継承問題が勃発しかねないわけですが」
「そうなるな」
「ついでに歳もだいぶ離れていますね。……まあ、それはこの際大したことではありませんが」
いつしか互いに笑みが消え、二人、どこまでも真剣な顔になっていた。ふとジェイドが言葉を切って、やれやれと肩をすくめる。
「――陛下」
「何だ」
「楽しんでおられますね?」

◇◆◇◆◇◆

キムラスカ・ランバルディア王家の姫君、弓術と治癒術を使いこなす行動的な才女、キツめの美人で市民に人気がある……もちろん二人がさしているのはたった一人で、他に該当人物はいない。
一度は消えた笑みがまたじわじわ浮かんで、ピオニーの南国の海の色の目がにやにやと細くなる。
「……まあな。楽しめることは楽しむのが、俺の持論だ」
「ロクでもない持論は捨ててください。というか私をからかいたいだけなら、そろそろおいとましますよ?」
「そういうな。……全部が全部、冗談というわけでもない」
本気で退室しかけたジェイドの足が止まる。
「数字にするなら六割くらいは冗談だが、残りの四割は本気だ」
迷惑そうな顔で振り向くのに、またもや真面目顔のピオニーにしぶしぶ身体を正面に向けなおした。

―― Next ――
2006/09/12UP
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[最終修正 - 2024/06/27-10:18]