あなたは誰を求めますか。
義務でも本心でも、あなたは。

―― en dernier recours 2

「先の和平交渉、おまえも言ったが、より強固にするためには両国トップ、もしくはそれに近い――貴族の中でも高位の者同士が婚姻関係を結ぶのが一番だろう」
「……ホドの件もありますが」
「あれは特殊だ、預言が読まれていたわけだからな。今回はそれがない、つまり両者の思惑だけしか関わらない。
……それに件の姫は、国王が目に入れても痛くないほどかわいがっているのだろう? 別に人質というわけではないが、喪ってとりかえのきかない人間であることは確かだ」
「――そう、ですね」
「話を戻すぞ。
国のトップに近い者同士の婚姻ほど、和平の象徴として効力が高い。幸い、我がマルクトのトップ、皇帝の俺は未婚だ。キムラスカ王家ただ一人の姫もしかり。
たかが年齢差一回り程度、しかも男の方が年上ならそこには問題はないはずだ」
「まあ……歴史を見るなら、むしろ近い方だといえるかもしれません。細かいところは私の専門外なので分かりかねますが」
「謙遜はいい。――となると次は婚約者の問題だな?」
「我が皇帝にはいませんね、それに該当する方は。けれどキムラスカの姫君には……」
「いるな、ファブレ公爵家に許婚が。
――だが、いつの間にかレプリカにすりかわって、本物の方は現在行方知れず。話を聞いたところによると、どうやら公爵家に戻るつもりはないらしい。残るはもう一人だが……言い方は悪いが、レプリカの方はあくまでレプリカ、本人や公爵やその夫人はともあれ頭のかたい周囲はそう見るだろう」
ふっと、ピオニーの口元がほころんだ。――それはたとえば、苦笑に近いように。
「俺はマルクトの皇帝だ。のちのちの火種になると分かって側室を持つつもりもない。
本気で求婚したなら、ランバルディア王も無碍にはねつけるわけにはいくまい」

――その「本気」は四割だと、先ほどその口で言ったでしょう。
と、ジェイドはツッコまなかった。
長い付き合いだ、ピオニーの性格は読めている。
もし仮に婚姻が成立したとしたら、そこには嘘や冗談は混ざらないだろう。王として夫として、妻となった姫に誠実に接すると分かっている。――二人の間にあるのがたとえ義務だけでも、ピオニーはそうふるまうと分かっている。
分かっていても、さすがに今回ばかりはジェイドも素直にうなずくわけにいかない。
「……王位継承問題はどうします」
「皇帝がひとりきりのマルクトがキムラスカの姫をめとるなら、そこに問題があるか? ……キムラスカの方は、確か第一位の姫の他に少なくとも三位まではいたはずだな」
「あの騒ぎのあとで、継承権がどう落ち着いたものか知りませんけどね」
「議会が姫とレプリカから王位継承権を剥奪したというあれか。
……仮に姫に王位継承権が戻っていないとして、それはそれでかまわない。別に、王位継承権を持つ者を血統に迎えたいわけではないからな」
「いっそ婚姻することで両国を統合したらいかがです?」
「それで再び戦乱が起こったら元も子もないな。――気がきかない冗談はやめておけ、ジェイド」

◇◆◇◆◇◆

ピオニーの手が、そこにいたブウサギの頭をなでた。ゆっくりなでる手の主を見上げるブウサギと目線を合わせるように、ジェイドから視線が離れる。
「――俺はな、ジェイド」
「はい」
「あの姫を高く買っているんだ。現時点、この世界であの姫ほど王にふさわしい人間を俺は知らない。
一度は奪われた王位を、気品や誇りを損なうことなくあの姫は自力で取り戻した。生まれや血統など邪魔でしかない、そんなものに意味はないとあの娘は自力で証明した。他の人間にそれができるか? たとえば、温室栽培で美しさを競うしかない貴族の姫君に」
「……姫がそうなったのは、そうあろうと努力したのは婚約者の存在が大きいとか」
「入れかわる前のファブレ公爵家の一人息子だろう。
その婚約者は今彼女のかたわらにいない。いるのは、もうひとりの方だ。――横からかっさらわれたくないなら、ちゃんと自力で守ってろ」
「本人は陛下の求婚にうなずきますかね」
くく、とピオニーは笑う。今までとは違う含んだような笑みに、ジェイドの表情は厳しいもののまま、ゆるまない。
「――言ったろう? 彼女ほど王族の義務を分かっている者はいない。
国の益になると判断したなら、そう王が判断したなら、姫はその決定に従うさ。そして俺の姫への求婚は、少なくとも王を真剣に悩ませる程度には魅力的なはずだ」
「彼女を義務に縛るつもりですか」

ピオニーの手が止まる。はずされていた視線がまっすぐにジェイドを射る。
「俺は彼女を幸せにする自信があるぞ。最初は義務だろうが、他に想う男がいようが、それを忘れさせるだけの自信がある。
――あの姫は、幸せになる権利がある。俺ならそれを叶えられる」
「大した自信ですね」
「俺には頼れる部下がいてくれるおかげでな」
向こうからやってきた、一匹だけ特に上等の首輪をつけたブウサギを招きながら、
「――それに、一番ほしいものが手に入らなかったんだ。それ以外はどれも同じだろう」
ぽつり、こぼすようにつぶやいた。うっかり聞いてしまって、ジェイドの口元が苦くゆるむ――先ほどの口ぶりでは、自分は幸せになるつもりがまるでないらしい。

◇◆◇◆◇◆

「陛下がお決めになったなら、私が口を挟むことでもないでしょう」
「……いや、迷ってんだよ本当は。実際求婚したならそれで最後、確実に悩ませるわけだからな、結果がどう出ようと。撤回もきかないし。
てなわけで、おまえはどう思うジェイド? 忌憚なく意見を述べてくれ」
「即答しかねます。――というか、誰にいつどうプロポーズするかなんて自分で考えてください。……これで話は終わりですか?」
「おいジェイド!」
「失礼します、陛下」
「おい!!」
抗議の声を聞き流して、ジェイドはあっさり部屋を出た。すぐに青に包まれて、まるで水中にいるような錯覚に陥る。
そこでほっと、――はじめて安堵の息を吐いた。

さまざまな青を美しく配置した水上の壮麗な宮殿グランコクマ、その中央で思う。
金の髪をしたあの姫は、今ごろどこで誰を想っているのだろうか。

―― End ――
2006/09/13UP
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En dernier recours 1 2
[最終修正 - 2024/06/27-10:18]