「きゃあぁぁぁっ!?」
甲高い悲鳴が上がった。断罪者が地面をすべるように近づいて、両手で杖をメイスのようにかまえたソフィアがもう一度悲鳴を上げる。ぎゅっと目を閉じて身体をかたくして、そんな無防備な少女に凶刃が振り上げられた、その瞬間、
「空破斬!!」
地を走った衝撃波に、断罪者はバランスを崩した。え、と恐るおそる目を開いた少女の肘を掴んで背後に押しやって、駆け寄って来た人影が左のガントレットを断罪者に向ける。
「吼竜破!!」
地から生えた数匹の赤い竜が、ガントレットに示されるままその断罪者に食らいついた。

―― 苦境 [これっていじめ?]

周囲にモンスターの姿がなくなり、ある程度散らばって戦っていたパーティメンバーが、やれやれとばかりにひとところに集まる。
「……、の阿呆!!」
上がる罵声、しゅんと縮こまる少女。
「術使うやつが前に出て、敵が寄ってきたからってぎゃーぎゃー騒いでんじゃねえ!! 術者なら敵から距離とって大人しく呪文唱えてろ! それが嫌なら最低限、向かってきたやつから目をそらすな目を閉じるな!!」
「……はい……」
大体、と続けかけたアルベルのこめかみを、横手から投げつけられた、色々改造を施された結果なんとなく赤黒く汚れてしまった鉄パイプが強襲した。ただ投げつけられただけとはいえ、常日ごろそれで殴られたモンスターがどんな末路をたどっているか目の当たりにしているアルベルは、脊髄反射的にあわててその場にしゃがみ込む。
そこだけ色の濃い彼の髪をかすめて行き過ぎた鉄パイプが、ざっくりと物騒な音を立てて地面に突き刺さった。しゃんしゃんという鎧の音と共にてほてほと近寄った持ち主が、それを地面から引き抜いて肩に担ぎ上げてイイ笑顔を浮かべて、不穏な空気を纏いつつなお爽やかに言い放つ。
「あちこち怪我してぼろぼろになったやつが、無傷のソフィアに偉そうに説教するなよこの露出狂」
カートリッジの確認をずーっと続けている青髪の少女が、やはり銃をいじりながらいつもの冷酷な目でもって鉄パイプ片手の青年の横に立った。
「確かにキミの言葉は正しいけど。でも、正論だけじゃヒトは動かないわよ?
結果的になんとかなったんだから良いじゃない。いつまでも細かいことにうだうだ文句つけてるんじゃないわよ器の小さな男ね」
そんな二人の後ろに立って、下手に逆らうなよあとが面倒ってよりもオレが嫌なもん目にするハメになるんだからよ、などと目で語るクリフがこぶしをがつんと打ち合わせる。
「……うるせえネチネチクドクド吠えてんじゃねえよ阿呆どもがっ!!」
罵声を上げた男に集中する、冷たすぎるいくつもの目線。
不用意な台詞で青髪二人の怒りを煽った結果、一見笑いながらも本気で殴りかかられて逃げるしかなくなった漆黒団長に。先ほどの戦闘時に硬い敵に斬りつけた短刀の刃こぼれの有無を目をすがめて確認していたネルが、それを鞘に収めながらつぶやいた。
「――アホはどっちなんだか……」

◇◆◇◆◇◆

しばらくのち。
実力が自分と似たような相手二人に一度にかかってこられて、むしろ以心伝心ナイスコンビネーションでもって襲いかかられて、結果ずたぼろになって地面に沈んだアルベルの姿があった。そんな彼に、半泣きになって癒しの呪文をかけるソフィアの姿があった。
「……癒し手ができてから容赦なくなったよな……」
「何か言った? クリフ」
「何ならクリフも体験してみる??」
「滅相もないですオレが悪かったですごめんなさい!」
ぼそりとつぶやいたのをしっかり聞きとがめられて、さりげなく武器をかまえながらの台詞に、あわてたクリフが首を大きく横に振る。一人離れた場所にいるネルが呆れのため息を吐きながら、一人今日の野営の準備をしている。

「大丈夫ですかアルベルさん何か言ってください!」
半泣きになった少女の声がする。いっそ花畑とか大きな川とか、その向こうに父親の姿とかを見ていたアルベルが、その声で現実に引き戻される。
掠れたうめき声を上げながら目を開けば、大きな翡翠色の目いっぱいに涙をためた少女の顔のどアップがあった。何だか距離が近い。背中は硬い地面で痛いのに、頭だけが持ち上がっていて後頭部は何だかふにふにやわらかい。ついでに何だか良い匂いが……、
「……?」
「アルベルさん……っ、気がつきましたか痛いところありませんか大丈夫ですか……!?」
一体、何が……。
そのままぼんやりと記憶を探るアルベルは、意識が途切れる直前と現在の状況を照らし合わせて、何がどうなったかを瞬時に正確に把握する。
「……っ!!」
ひざまくらで顔をのぞき込まれている、それに気づいた瞬間アルベルは飛び起きた。血が足りないせいで一瞬めまいを起こして、ぐらりと揺れる彼をソフィアがあわてて支える。
動いた彼女の髪から、良い匂いがまたふわりと香る。
「……あ、」
「? 何ですか??」
「――目が醒めたらとっととソフィアから離れろよ変態プリン」
「だめよソフィア、こんなちんぴらにやさしくなんてしたらツケ上がるだけだから」
何かを言いかけたアルベルを遮って、再び不吉な笑みを浮かべた青髪コンビがずいと距離を詰めた。悪寒で今度こそあわてて立ち上がったアルベルに、やっぱり得物をかまえながら突っ込んでいく。

――以下、エンドレス。

◇◆◇◆◇◆

「……なあ、」
「なんだい」
関わり合いにならない方が良いと(ようやく)悟ったクリフが、何かに耐えるような微妙な顔をして夕食の準備をするネルにぼそりとつぶやいた。あんた暇ならそこらへんの木切れ薪にできる感じになんとかしてくれと言われ、言われたあたりに転がっていた木片を豪快にへし折ったり引き裂いたりしながら続ける。
「好きなだけボコって、嬢ちゃんが癒す時には何も言わないでころ合い見計らってまた難癖つけて殴りかかって……、
あれってイジメって言わねえか?」
「――今ごろ分かったのかい」
あっさりと肯定されて、スープの味つけを見ている彼女を情けない顔で見やるクリフ。
「ま、何でも良いさ。放っておいた方が身のためだよ」
「……そだな」
……愛されてるよなー、嬢ちゃん。
どこか虚ろにつぶやく筋肉男に、ネルのため息が返事をした。そのため息が、彼女がすでにあきらめ切っていることを示しているのだと、クリフはようやく気がついた。

(いろいろな意味で)乾いた風が、吹き抜けていった。

―― End ――
2004/08/05UP
これっていじめ? / ちょっとひねくれた15のお題_so3アルベル×ソフィア_
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
苦境 [これっていじめ?]
[最終修正 - 2024/06/14-14:53]