ジェミティ。どこか何かをあきらめ切ったような無気力人間しかいないFD界で、パーティメンバーが唯一存在意義を見出している、これでもかというほど派手でわざとらしいほどきらきらしくていっそ馬鹿らしいほどの道化的な楽しみを提供する、娯楽施設しかない町。
先を急いでいるはずなのに、来なくても良いその町にけっこな頻度で出入りしているパーティメンバーの目的は。

―― 開幕 [間もなく開始]

「さー今日も稼ぐぞ! 待ってろ折れた魔剣!!」
「……フェイト、「も」じゃなくて「こそ」でしょ……。賭けごとにあんまりパーティのお金つぎ込みすぎないようにしてほしいんだけど」
「そういうマリアは、今日もバトルチェスか? 飽きねえもんだな」
「頭脳戦が性に合っているのよ。何ならクリフも一緒にどう?」
「せっかくのお誘いだが、パスするぜ。今日は大人しく酒でも呑んでクダ巻きてえんだ」
「……チッ」
「あれー何でアルベルちゃん舌打ちするの?」
「……ランキングバトルは無理か……畜生」
「――ああ、そういうことですか。ちょっとびっくりしちゃいました」
「ソフィアちゃんそれってどっから考えついたの?」
「スフレちゃん、なんで分かるのわたしが何考えたのか」
「一座の公演で宇宙中旅してるから! ――あ、アルベルちゃんアタシも闘技場行ってみたい」
「……」
「何で黙り込むのー!? ひどいよっ!!」
「あのあの、わたしも行ってみたいですアルベルさん!」
「…………」

――そんな感じで。
フェイトはバーニィレース、マリアはバトルチェス、クリフは酒場――というかついでにとアイテム調達その他雑用を押しつけられていた。残る三人、アルベルとソフィアとスフレは――、

◇◆◇◆◇◆

薄暗くだだっ広く閑散とした選手控え室で、アルベルは大きく息を吐いた。刀の点検に続いて、ガントレットの調子を見ながらやはり重い息を吐くアルベルに、彼の真似をしてそれぞれの得物の確認をしていた少女二人が頬を膨らませる。
「なーに、アルベルちゃん言いたいことあるならはっきり言いなよっ!」
――その重りつきのケープをぶんぶん振り回しているのは脅しなのだろうか。
「それともシングルバトルにした方が良かったんですかやっぱり」
――武器の点検をしているはずなのに、ストラップ(?)の確認しかしないのはどうかと思うのだが。
色々思うところはあったものの、アルベルはさらに重いため息を吐いただけにとどめた。さらにぷくっと膨れたスフレにアイテム袋を顎で示す。
「……アイテムの確認しとけ。特に精神力回復させるやつが入ってるか」
「……うー……」
不満いっぱいでむくれながらも、スフレは素直にアイテム袋を探りはじめる。アルベルは今度はソフィアに目を向けて、
「精神力は?」
「え、あ、はい全然大丈夫です。再生の紋章もきちんと装備しました」
「……てか、本当に良いんだな?」
アルベルが言いたいことが分からないのだろう、ソフィアが首をかしげた。そんな少女に今度は鎧を確認していた目をちらりと向けて、淡々と続ける。
「――殴り合い斬り合い殺し合い、しかも見せもんになるんだぞ。――良いんだな」
ソフィアがきょとんとひとつ瞬く。

「分かっています。……この前アルベルさんとクリフさんとフェイトが戦っているの、観客席から見ていました」
「それが一体どういう風の吹き回しだ」
多分意味もなくストラップ(?)をいじりながら、ソフィアが困ったように笑った。
「――アルベルさん、いつだって無茶して突っ込んでいくじゃないですか。
この前のランキングバトルのあの時、回復呪文が使えるのはフェイトしかいなくて、でもそんな暇なかったし使える術だってヒーリングだけで……アイテム切れたらもう死んじゃいそうなくらい、みんなぼろぼろになっていたから、」
うつむく。栗色の髪からのぞく頬がなぜか色づいている。
「そばにいたいな、って思ったんです……。そばにいて、癒さなくちゃって思ったんです」
「――……阿呆」
言われた台詞のやさしさに、けれど思わず口から出たのはいつもの悪態だった。内心自分に舌打ちするアルベルに、顔を赤く染めた少女がぶんぶんと首を横に振っている。
「っ、あ、あほで……あほで、いいです……っ!
知らないところで知らないひとが傷ついているのも嫌なのに、知らないところで知っているひとが傷ついているのはもっと嫌です! 知っているところで知っているひとが傷ついているのなんか、それを見ていながら何もできないことなんか、絶対の絶対に嫌なんです!!」

――そんなやさしさを向けられる価値など、自分にはないとアルベルは思う。
強さ、目に見える剣の技量にしか目を向けなくて、ずっとそれしか眼中になくて。数え切れないほどの屍の山をきずき返り血を浴びてきた自分に、そんなやさしさを向けられる価値などあるはずがない。純白のこの少女と同じ場所にいる、同じ空気を吸う価値すら、きっとない。
けれどその言葉自体は嬉しくて、自分にその価値はないと思いながらも嬉しくて、――そんな気持ちを自分に抱かせた少女が、無垢な少女がどこまでも……愛しい。

◇◆◇◆◇◆

「――……ぁ、」
口を開けば悪態の言葉しか出てきそうになくて、アルベルは息を吐いた。抱いた心を言葉にしたいのに、それを何と言えば良いのか分からない、分かったところできっと気恥ずかしくて何も言えない天の邪鬼な自分に呆れる。
語彙の少ない自分に対してのため息だったのに、きっとそうとは受け取らなかったのだろう。うつむいたままのソフィアの肩が、びくりと跳ねた。
「……っ、ごめん、なさい……っ」
素直な謝罪の言葉まで向けられる。
アルベルはさらに息を吐いた。どうすれば良いかとしばらく迷って、いつからか脇で好奇心にきらきら目を輝かせているスフレに気づいて――剣の柄に乗せていた右手をふと見下ろして、
「何でもいいから、とにかく攻撃食らわないように逃げ回ってろ。敵は俺が倒す」
ぽふ、と栗色の頭を軽く叩いて、少女が驚いて顔を上げて、その頬がさっきまでとはきっと違う理由で上気していて、

「ランキングバトル、間もなく開始です。選手の皆さんは――」
タイミングを見計らっていたかのように、アナウンスの放送が控え室に響いた。

―― End ――
2004/08/06UP
間もなく開始 / ちょっとひねくれた15のお題_so3アルベル×ソフィア_
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開幕 [間もなく開始]
[最終修正 - 2024/06/14-14:53]