どんな時でも強がるのは、彼女の癖で。他者に弱みを見せたがらない、無理無茶をそうと思わないでやってしまう、強く在ろうとするあまり自分の中の弱い点を認められない――それも彼女の癖で。
だから、放っておけなくて、目を離すことができなくて。そうと知られればきっと嫌がるから、……気付かれるわけにもいかなくて。

―― 人性 [強がり]

その日、一行はシランドにいた。というか数日前からここにいて、ひたすらクリエイション三昧だった。
どうやら、モノ作りにメンバーの大半が意義を見出したらしい。
若干名、んなちまちましたことしてねえで敵と闘わせろとかなんとか騒いだものの、数の暴力とパーティリーダー及び参謀の爽やか笑顔のごり押しに負けていた。

「……マリア? そろそろやめとかないと明日に響くよ」
「あらフェイト……ああ、もうそんな時間だったのね」
今日も工房にこもっていたのが、夕食を終えてからもあと少しだからとマリアだけ工房に戻ってクリエイションを続けていた。そのまま放っておいたのだが、いつまでも彼女は帰らない。日付が変わるころになって、ずっとイライラと貧乏ゆすりしていたクリフがとうとう宿の床を踏み抜いたので、本人に修理させてフェイトが迎えに行くことにした。
ちなみにクリエイターたちはというと、馬車馬よろしく働かせるつもりですか鬼悪魔人でなし! だの、健康管理をしっかりやることが一人前の最低条件ですよねだのと――つまるところ締め切りに追われない限り、いくら遅くても一日の仕事時間は夕食前まで。あとは各自自由に過ごすものらしい。
ともあれそんなわけで。炉に火が入っただけの静かすぎる工房に――今はフェイトとマリアしかいなかった。

「ずいぶん熱心にやってたけど、なに作ってたんだい?」
「え? ああ……新しい武器の開発よ。あと少しで形になりそうなの」
「へえ……」
ひょいと覗き込んだ先には、――フェイトの目にはいつものマリアの銃、を分解したものにしか映らない細かな部品がばらばらと広げられていた。少なくとも、年ごろの女の子が真剣に向かい合うには、少しばかり華というか色気が足りない気がするけれど。いかにもマリアらしいかな、とフェイトの脳裏の隅がうなずいている。
そのまましげしげと眺めていたら、気を良くしたのかマリアがいろいろ説明してくれた。
……機械いじりはそこそこできるものの重火器は専門外なので、フェイトにはいまいちよく分からかったけれど。
「……うん、だんだん楽しみになってきたよ」
「とはいえ……夕食のときもこんな感じだったの。あともう少しなのに、その手前で足踏みしている感じ」
苦笑したマリアが、常に隙なく在ろうとする彼女にしては、珍しく眠そうに目元をこする。並外れた集中力で根を詰めていたのが祟ったか、女性だけあってフェイトから見ればやや少ない体力に、どうやら限界が近付いてきたらしい。
「――このまま放っておくのも不安だから、組み立てたら戻るわ」
「分かった、待ってるよ」
いくら女王統治下の街とはいえ、深夜に女性一人を歩かせるような常識を、あいにくフェイトは持っていなくて。ああ、だったらなおさら早くしないとねと苦笑したマリアが、改めて部品に向き直った。

しかし。
いくら常日ごろ身近に接しているものでも――よほど眠いのか、半分舟をこぎかけた今のマリアにはそれは少しばかり難易度が高いらしい。何度か部品を取り違えては分解し直して、そうしている間も翠の目からはどんどん力が抜けていく。二回目の分解の時に、そんなに眠いならもう諦めたら? と提案して白い目で批難されたフェイトは、三回目もやはり失敗したマリアにやれやれと息を吐いた。
「……マリア」
「嫌よ。組んでおかなきゃ」
――、意固地になっている。
もう一度息を吐いたフェイトは、今度は何も言わずにマリアに手を伸ばした。どこまでも真剣な、けれど限りなく眠い顔で机に向かっていたマリアが、視界にいきなり現れた手にびくりと身を固くする。
「……指示してくれれば僕が組み立てるよ。まあ、今までの見て大体覚えたけどさ」
机近くにあった椅子を行儀悪く脚で引き寄せて、それに腰を下ろすとマリアの手から取り上げた鉄の塊と格闘しはじめる。マリアは眠そうな半眼でそんなフェイトをしばらくじっと眺めていたが、その手つきが確かに先ほどまでマリアの動きをトレスしたものだということを認めると、ちょっとすねた顔をして息を吐いた。そうしてつまらなそうに頬杖をつくと、彼の言葉どおり組み立ての指示をする。

「……一度分かっちゃえばけっこうできるもんだな、マリア」
ある意味では知恵の輪や立体パズルにも似ている。残りの部品は数点で、もうアドバイスがなくても組み立て終わるだろうと判断したフェイトは息を吐いた。が、さすがに武器相手に気を抜いちゃいけないなと、だらけかけた気を引き締める。
と。
「……マリア?」
「……」
時間が経つにつれどんどん口数を減らしていったマリアが、不意に頭をフェイトの肩にもたれかけさせた。湯浴み後にここに来たため、フェイトの薄手のシャツ一枚ごしにマリアの体温がほのかに伝わってくる。
「……あの……?」
フェイトは不意に、工房には今自分たち二人以外は誰もいないことに改めて気が付いた。
なんというか。密室に若い男女が二人きり。夜。ついでに言えば工房前の通りは昼間でもやたらと閑散としていて。多少の物音を立てても誰も文句を言いに来ないから、少なくともこの近辺に民家はないのだろうなということに思い当たって。
……うわ……。
控えめな温もりと軽く肩にかかった体重。手入れの行き届いた青い髪が窓からの風に揺れて、さやさやと流れては頭がくらくらする匂いが鼻腔に届く。伏せたまつげは想像以上に濃く影を落としていて、ふっくらとした唇がかすかに開いてそこから寝息が漏れている。
……寝息……?
「……まりあさん……??」
おずおずと声を上げたら、その拍子に――危ういバランスでもってフェイトにもたれかかっていた体重がふと消えた。え、と目を瞬いてこわごわそちらを見やって――息を呑むとフェイトはあわてて床を蹴る。

がたーん!
それこそ近所迷惑な音が響いて、とりあえずフェイトは息を吐いた。
「マリア、起きろよ」
床に倒れかかった彼女は、危ういところでフェイトに抱きとめられた。というよりも、クッションになることを選んだフェイトがマリアをかばったおかげで、彼自身はあちこち打ち身を作っていそうだが、少なくともマリアにはかすり傷一つない。と思う。
「マリア」
おーい。ごちゃごちゃとモノが転がっていい加減な掃除のおかげで埃がかたまって、そんな床に寝転んだおかげでせっかく湯浴みしたのに一気に白く汚れたフェイトが息を吐く。後先考えない行動のおかげで荷物のごろごろした隙間にはまった形になっていて、彼女が自力で起きてくれないとどうにも身動きが取れない。
あ、そういえばさっきの――マリアの銃と最後の部品は大丈夫かなとか、そんなことを考えるフェイトは……懸命に思考をそらして今抱き締めているものについて考えないようにしていた。
「……起きてくれよ……」
弛緩して彼の上に乗っている華奢な身体。完全に気を失った相手はたとえ子供でも予想外に重い、とかなんとか昔読んだ本の記述が脳裏に甦る。それが間違っているとは思わないのに、完全に寝入っているっぽい――なかなか大騒ぎをしたのにやっぱり眠りに落ちているらしいマリアは、けれど羽のように、とまではいかないもののやたらに軽いような気がする。
「うー……」
線の細い身体、どこまでもやわらかな感触。彼我の距離が先ほどとは比べものにならないほど間近くなったおかげで、鼻腔に漂う匂いは確実に強くなっていて。なんというか、理性がぎりぎりまで追い詰められている。
一度ためしに目を閉じてみたら、そんな視覚以外の感覚がやたら存在感を増して襲ってきて。いよいよまずいと判断して汗だくになって目を開けて、抱き締めたままの身体に好き勝手這おうとする手を、自分のものではないように不埒な動きをするそれを、根性とかそういうものを総動員してなんとか押さえつける。
「どうしたらいいのかな」
人通りのない工房前の通り。ランプが点いているからと好奇心で覗き込んだ者がいたとして、入口ドアから顔を覗かせた程度ではここは死角。窓からもやはり死角。……自分で選んだわけでもないものの、ちょっと絶望的な気分になってきた。
「マリア、起きろよ……」
つぶやいた声は途方にくれていて、自分のその間抜けさに苦笑することでなんとか思考をそらそうとしてみる。

◇◆◇◆◇◆

――何か暖かいものに包まれている。
マリアの意識が少しだけ浮上した。
――なんだろう。ベッドではない柔らかい、張りのあるものに包まれている。還ってきた、そんな感じがする。ひどく落ち着く。
ぼんやりと思ったとき――不意に何かが頬に触れて這って、その感触が生々しくて思わず目を見開いた。
至近距離にフェイトの顔。いたずらが見つかった子供のような、そんな純粋でいじわるでばつの悪そうな顔。
……え?
「――……っ!? な、なんでフェイ……、ここ、は……」
「やっと起きた。……ごめん、ちょっとどいてほしいんだ。さっきから変な格好でかたまってたから、」
誰にも弱みを見せたくない彼女は、動揺を押し殺してあわてて起き上がる。悲鳴のひとつも上げればよかったかもしれない。そんなことを思いながら、立ち上がって大きく伸びをする後ろ姿に目を細める。
「寝ちゃったのね、私。悪かったわ」
「声かけても起きなくて、肩ゆすろうにも変な風に倒れたおかげでできなくてさ。けっこう早く気付いてくれてよかったよ。あのまま朝まで固まってたら、身体中ばきばきになりそうだった」
机の上に投げ出されていた銃を取って、転がっていた最後の部品をはめ込んで。少し寝たおかげで存外すっきりした頭で周囲を見れば、真夜中すぎに切れるくらいの燃料を入れておいたランプが、タイミングよくゆっくり火を落としていくところだった。

人性 [強がり]

「ところで……何もしなかったのよね?」
「何かしてほしかったら事前にそういってよ。マリアなら大歓迎だから」
「馬鹿」
クリフのような軽口を叩くフェイトを、マリアはにらみ付ける。
――明かりがなくて、良かった。
口ではそういいながら頬に残る感触に。きっと今自分の顔は真っ赤になっているんだろうな、とマリアはため息をついた。

―― End ――
2004/09/11執筆 2004/09/12UP
強がり / 恋愛に関する15のお題_so3フェイト×マリア_
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人性 [強がり]
[最終修正 - 2024/06/14-15:08]