言葉にしなくても通じ合うことがある。目で会話をしたり、あるいはそれさえなくても心通い合うことが。
真紅と翠がふと視線を交わしてそれだけで互いに言いたいことが伝わって。同時にひとつ、うなずいて、

―― 言声 [もう言葉さえも要らない]

「暑い」
青髪のパーティリーダーがつぶやいた。
「暑い暑い暑い」
「「「「…………」」」」
残りのメンバー四人は黙殺した。
「暑い暑い暑い暑い暑い」
じりじりと照り付ける陽光が、まるで間断なく降り注ぐ針を思わせる。そんな炎天下を歩いていれば当然身体中の水分が汗に変換されて、けれどこれだけの暑さの中にあれば、吹き出たそれは流れることもなく瞬時に蒸発する。揮発時にまわりの体温を奪って涼しいかといえば、それを上回る強すぎる陽光と足元の砂の反射光でもって、全身くまなく焼かれていてまるで意味がない。意味がないくせに汗をかいた分体力が削られて、ただひたすら鉛のような疲労感がつのる。
「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑いあつ……」
「うるさいわよフェイト!」
「お前が言い出したんだろうが!! 黙って歩け!」
「まったく時間がないってこと分かってんのかい!?」
「……クソ虫がっ」
――現在地、モーゼル砂丘。宝箱の回収中。
暑さにキレたメンバーに罵倒されて、フェイトの目が虚ろに笑った。
「大丈夫だよ。僕たちがクロセル倒すまで、ストーリーは進まないんだから」
「「「「何の話だッ!!!!??」
そして、とうとう耐え切れなくなったメンバーたちの手によって、彼はお星さまになった。

アクアヴェイルがあろうとなかろうと、モーゼル砂丘の熱気はやはり容赦なかった。というか、むしろ倒れることがない分持っていないよりも苦しかったかもしれない。いや、苦しい。
一行は点在するオアシスでしばらく休憩することにした。
――思いの他バテていたフェイトが、メンバーの集中砲火でボロ雑巾になったフェイトが、まるで動かなくなってしまったというのもあったのだが。
しかし皆心配していない。日ごろの行いの賜物だろう。

◇◆◇◆◇◆

「……まったく」
普段あまり不平不満を口にしないマリアが、珍しく唇を尖らせていた。
「……チッ」
普段から仏頂面のアルベルが、普段以上に顔をしかめて頬杖をついていた。
二人揃って同じタイミングでため息を吐いて、それに気付いて顔を見合わせると、再びそろって息を吐き出す。
飲み水を確保したあとのオアシス、水場のど真ん中に素足のマリアが立っていた。そのほとりにアルベルが適当に胡坐をかいて、やはり素足を水に浸していた。本心を言えば水浴びしたかったのだが、適当に視界をふさいでくれるものが存在しない上に周囲をモンスターがうろついているわけで、少なくともマリアはそんなところで能天気に服を脱ぐつもりはない。モンスターがうろついている時点で、アルベルは装備を手放す気がない。
色気のない話だ。
ともあれそのまましばらくぱしゃぱしゃと水を蹴っていた二人が、また同じタイミングで大きく息を吐き出した。
「……どうにかならないかしらね」
「できるならとっくにしてる」
ぼんやり視線を向けた先には、日陰のこちらとは違って相変わらず太陽光線が全力を尽くしてがんばっている日向。に、転がっているフェイト。ずいぶん渇いてちょっと危険な具合に痙攣しているように見える。先ほどまでしんなりしていたのが今はかさかさしている。そんな風に見える。
でも同情はしない。
視界のすみの金髪やら赤毛やらもやっぱりまったくあわてた風もなくのんびりくつろいでいるから、向こうもやはり心配していないのだと思う。
「……日ごろの行いって大切よね」
「――……ああ」
しみじみつぶやけば同意が返ってきて、マリアは嬉しくなって口元をほころばせる。視線の先の干物と化しているリーダーなど、どうでもよくなっていた。

「――ねえ、クロセルってどんなドラゴンなの?」
「あ?」
穏やかな空気をなるべく持続したくなって、ふとマリアの口が紡ぐ。色気のない話題にそれこそため息を吐きたくなったけれど、アルベルが食い付いてくれそうな他の話題が見当たらない。
「「公爵級」って……ええと、アーリグリフ王のドラゴンは確か「男爵級」よね。ドラゴンに身分制度が存在するのかしら」
「――んなわけねえだろ阿呆」
ため息。足音に向けていた視線を彼に移せば、面倒臭そうにというか機嫌悪そうに胡座の脚を組みかえている。ひょっとして話題の選択を間違えたのかと少ししょんぼりすると、そんなマリアに気付いたとは思えないものの、アルベルが億劫そうに再び口を開いた。
「ひょっとしたらドラゴン独自の何かそういうのがあるかもしれねえが、少なくとも俺の知る範囲、アーリグリフの人間でそういうの知ってるやつはいねえ。
ただ強さの目安に、人間が勝手にそう呼んでるだけだ」
「ふぅん?」
「やつらの場合長生きすればするほど強くなりやがるからな。強さ、とあと年齢の目安か」
「……つまりかなり強くて、さらに長生きしている分狡猾ってわけね?」
「ここいら近辺でクロセルより上のドラゴンはいねえはずだ」
そうでなかったら、「星の船」対抗手段、交戦準備の一部にその名前が挙がるはずがない。
なるほど、と納得したマリアがじゃあ、と続けようとして。――気付いた。

「――……あ」
ずっとぼんやり顔を向けていた先。マリアの位置からはアルベルが胡座をかく向こう、もはや完全な干物になっていたフェイトがふと風に流された。さすがに見失ったら面倒ね、などと薄情なことを彼女が考えながら見守っていると、運が良いのか悪いのか、ずっと遠くにかすかに見えていた別のオアシス、水場に落ちた。
「……乾燥ワカメ……?」
「あ?」
「……いえ、こっちの話。というか簡単に復活したわね」
「化けもんだな」
落ちた水場の水を吸ってみるみるうちに復活して、しかしそのオアシスでたまたま羽を休めていたハーピィに見つかったらしく、何だか攻撃されている。遠く遠く目をすがめてそれを眺めて、しかしやはり落ち着き払った会話をかわす二人。
日ごろの行いは大切だと思う。
「助けに行った方が良いかしら」
「――平気じゃねえのか。負けたところであいつが死ぬとは思えねえし」
「ハーピィって肉食だったような気がするけど」
「あー……さすがにはらわた食われたら死ぬか」
「……死ぬかしら」
「いや、そこは死ぬべきじゃねえか。人間として」
……本当に、大切だと思う。

◇◆◇◆◇◆

結局。ぼろぼろになりながらも無事(?)ハーピィを撃退したフェイトは。そのころにはすっかり装備を整えた四人の元に、まったく普段どおりにほてほてと歩いて戻ってきた。
――だから心配されないのだ、と本人は分かっているのだろうか。まあ、こたえている様子もないから、分かっていようがいまいがどうでもいいのかもしれない。
ひょっとしたら、フェイトがあまりに苦戦していたら一応助けに行くつもりで装備を整えたのかもしれない四人は。ともあれ、いつでも出発できるぞとっととくだらない用事なんかすませやがれ、といった目付きでそんな彼を出迎えた。ほてほてほてほて、急ぎもせずにのんびり歩いて帰ったフェイトは、仲間四人ににこやかに口を開く。
「考えたんだけどさ」
よくもまあそんな余裕があったものだ。たったひとりで死闘をくり広げたんじゃないのか。
のんびり装備を整えながら彼の死闘を生温かい目で見守っていた四人が、心の中でツッコミを入れる。それに気付いているのかいないのか、誰からも返事がないので彼はそのままの調子で続けた。
「脳味噌煮えるくらい熱いところに来たから、みんな短気になったんじゃないかって」
「「「「…………」」」」
それは違う。いや、まったく関係ないとは言わないけれど、それだけの理由ではない。それがメインの理由ではない。
それに関してはむしろきっと分かっていながら、フェイトはさらにほがらかに、
「だから今度は寒いところ、アーリグリフの地下水路に行こうと思うんだ。あそこにも回収できてない宝箱あるから」
「「「「……………………っ、」」」」
四人の奥歯がぎしりと音を立てた。
「暑いのと寒いので、きっといらいらも相殺されると思うんだ」
――名案だろう?

言葉にしなくても通じ合うことがある。目で会話をしたり、あるいはそれさえなくても心通い合うことが。
真紅と翠がふと視線を交わしてそれだけで互いに言いたいことが伝わって、ついでに紫やら青やらとも通じ合って。まったく同じタイミングで、四人がひとつうなずいて、
どうせならこの熱気をどうにかしてくれ的無駄に爽快感100%な笑顔を浮かべる青年に。
今度こそ本気で確実にその息の根を止めてやろうと、むしろ死体は骨も残さず焼き尽くして、二度と復活できないよう大陸各地にばらまいてやろうと、いやいやそれよりもそこいらのモンスターに食べさせた方が環境に優しいんじゃないかとか、埋めるのと焼くのと流すのと食わせるのと色々な方法で処理した方がいいんじゃないかとか、そんな、物騒という言葉がなんと平和なことだろうと普通に思うことができる提案でそれぞれ頭の中をいっぱいにして。
――とにかく。パーティメンバーは全力でリーダーに殴りかかった。

―― End ――
2004/10/17UP
もう言葉さえも要らない / 創作さんに15のお題_so3アルベル×マリア_
OFP
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言声 [もう言葉さえも要らない]
[最終修正 - 2024/06/14-15:15]