どうしてなのかは知らない、難しいことなんか考えたこともない。
ただ。
どうしてもどうしても――、
フェイトが世話になったというウィプル村にやって来た。当時村から搾取していたレゼルブの馬鹿を、フェイトが――そしてクリフが倒したとかで、彼の連れという一行は最初から友好的に迎えられたけれど。土産として持参した酒類に村の大人連中が反応して、さらに熱烈大歓迎を受けた。
現金なものだ。
そうしてどんちゃん騒ぎの末に、一人また一人と沈没していって。
それなりに強いはずのマリアやアルベルも、やがて酔いつぶれて。
「うー……」
アルベルはふと目を醒ました。むくりと起き上がってぼーっと周囲を見回して、ふと喉の渇きを覚えてふらふらと水場へと移動する。
空はまだまだ暗く、沈みかけた満月が白々と空にあって。双子の月を無意識に探して見付からなくて、そういえばここはアーリグリフではないのだと、寝起きのぼんやりした頭で思いながら水を呷った。
足元を見ればマグロと化した仲間および村人が累々と転がっている。見覚えのある筋肉な後ろ姿だけがいまだ延々呑んでいて、そりゃ常日ごろ何だか自慢しているのを聞くが本気で底なしなのかよ、とぼんやり思う。
思いながら寝心地の良さそうなところを探して、長く青い髪を広げてうつ伏せになっている細い人影を発見した。迷わずその脇のスペースを確保して、華奢な身体を抱きしめる。ふわふわするいいかおりに、半覚醒だった頭はあっという間に眠りに落ちる。
――ここは、とても安心する。
腕に抱き締めた彼女は、しばらくするともぞもぞと動き出した。九割がた眠りに囚われながら、彼の意識のうちほんの少し起きていた部分がそれを知って、
――逃がしたくない。
アルコールと眠気に捕らわれた心がはじき出す。眠りについた理性はストッパーにならない。
痛くないように苦しくないように、けれど絶対に逃がさないように。ぎゅっと腕に力を入れて、やわらかな肢体を包み込んで。抱き締めた彼女がやがて諦めるまで、彼は力を緩めない。
ぼんやりと瞬けば、じっと翠が彼を見上げていた。緩慢に瞬いて、それでも逃げようとしている彼女に、
――淋しさがこみ上げる。
どうしてなのかは知らない、難しいことなんか考えたこともない。
ただ。
どうしてもどうしても――、
ほしかったのはその温もり、華奢な中の強さ、脆い中のしなやかさ。彼が目指して、けれどいまだ手にしていないもの。技能だけではない、本質に備わっている強さ。
マリア・トレイターの名を持つ、弱くて強い青い髪の乙女。
「……逃げるな」
アルコールが眠気が、理性を意地をプライドをねじ伏せる。どこまでも素直に、だから彼は懇願する。
「行かないで、くれ」
じっと見つめ合って、やがて翠が細くなって。ふわり、薔薇色の唇がほころんだ。
「――あなたが甘えるなんて、明日は雨かしら」
細い手がおずおずと伸びて、彼の髪を梳く。心地良くて、アルベルは再び眠りに落ちる。
理屈ではなくきっと本能で。
――欲しがっていたものが、彼の腕にあった。
