口と態度が悪いのは彼の悪いところで。いつだって不必要に生真面目で頑固なのは彼女の悪いところで。それはお互いの個性のひとつだし、色々な個性があるからこそ世の中やら人生やらが面白いのは事実だし、逆に判を押したように同じ性格や趣味思考の人間だけしかいなかったらいっそぞっとするものの。
まったく違う個性が一緒にいれば、当然衝突もするわけで。
「てめえな、朝っぱらからしかも屋内至近距離で必殺技ってどういう了見だ!?」
「やかましいね!! 声かけたりだとか揺すったり叩いたりとかじゃ全然目を醒まさないあんたが悪いんじゃないか!」
「だからっていきなり得物片手に全力攻撃はどうだっつってんだよ!!」
「はっ! よりにもよってあんたが常識説こうだなんてね!! 片腹痛いじゃないか!」
「……っ!!」
「――……っ!?」
……ぎぃん!
「……おはよーフェイト。……なんだか今日のケンカは派手だねぇ」
「あ、ソフィアおはよう。……うん、なんだか珍しく色々被害が出そうで、弁償代どこからひねり出したらいいのか考え中なんだ」
「ウォルター老あたりに話振ってみましょうか。色々意見も聞けるでしょうし」
「意見ってーかアルベルの野郎の個人情報とかな」
鉱山の町、宿屋「アイアン・メイデン」。のんびり身支度を終えてきたソフィアにいつもこまめに付けている出納帳片手のフェイト、それを覗き込むマリアと朝っぱらからエールなどを手にしたクリフが――そろって息を吐いた。
宿の人間は青い顔で八割方本気で泣いている。
騒いでいる二人は、狭い空間で器用に斬り結びながら時々必殺技までくり出していた。どう見てもかなり本気に、もしくはムキになっているように見えた。実際にはどうだか知らないが、なにしろとりあえずそう見えたので、
「痴話喧嘩なんて本当に仲が良いですよねー」
などとソフィアがつぶやいて、
「「どこが痴話喧嘩だっ!!!!」」
――という青筋立てながらの素敵にハモった反論をもらった。
そのソフィアの一言がよほど心外だったのか、喧嘩はそこで中断になって。どうにか物理的損害を出さずにすんでいかにも胸をなで下ろした人間と、えーもう終わりなの面白くないな的反応をした人間に別れたりして。
それはさておき。
殴り合いの喧嘩は中断したものの、根本は解消できていないために。現在地、モーゼルの古代遺跡。ずかずかと道を行きながら、件の二人は今もってヒートアップ真っ最中。
「……まったくどういう癖なんだい、ひたっすら人を抱き枕にしてるなんて」
瓦礫が転がって空気が埃っぽくて外の砂漠が少しずつ侵食している。
日常とは正反対と言ってもいいだろう中を歩きながら、しかし日常くさいことをぼそりと口にするネル。ひと一人分スペースを空けながらその横を行くアルベルが、フンと馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「……コト終わった後に擦り寄ってくるのはてめえの方じゃねえか」
「やかましいね、それからどれだけ時間が経ってると思ってるんだい馬鹿。あんたが人並みに朝起きるなら別に文句も問題もないんだけどね」
ほっとけばいつまでだってぐだぐだしてるじゃないか。
「文句あるなら力ずくで抜け出せよ。こっちは寝てるんだろう?」
「できるならとっくにやってるさ。意識ないくせに力は強いわ引き剥がした片っ端からまたくっついてくるわ……」
「――知らねえな」
ぼそぼそぼそ。
彼らの後ろ、ぎゅっと杖を抱えるソフィアが顔を赤くしている。本人たちは声を潜めているつもりでも聞くつもりがなくても、聞こえるものは事実聞こえる。
「……大丈夫? ソフィア」
「あんまり大丈夫じゃないというか……どんな反応すれば良いんでしょう? 聞いているだけで恥ずかしくて」
彼女の横を行くマリアがさらりと髪を掻き上げて、ふゥ、ともの憂げな息を吐き出した。
「これで当人たちに痴話喧嘩の自覚がないのがどうしようもないのよね」
――というか、今話している内容は別に「喧嘩」じゃなのでは。
ぼそりと反論しようとしたソフィアに、その二人が揃って振り向いた。ひょっとして聞こえたのだろうか怒られるのだろうか。身を硬くした彼女をはじめ仲間たちに得物を抜き放って、
「敵襲だよ」
ネルが言い放ってアルベルがにやりと笑って、遺跡の隙間から入り込んできた陽光に引き抜かれたばかりの刃物がぎらりと光って、
「凍牙!!」
「剛魔掌!!」
「――ヒーリング!」
「空破斬!」
「てめえ、悠長に回復してる暇あるなら攻撃のひとつもしろよ使えねえやつだな!」
「あんたが無茶するからじゃないかほら邪魔だよ次!!」
それこそ喧嘩のように言い争いながら、的確に敵を屠っていく。周囲に殺気を振り撒きながらどこか楽しそうに、仲良くコンビネーションをくり出している。
「プレス!」
でっかいバーニィ像をどこからともなく喚び出したソフィアが、ひたすら感心した顔でそんな二人を見ている。
「エイミング・デバイス!! ……どうかしたソフィア?」
「いえ、あの二人やっぱり仲が良いなあって」
ふむ、とうなずいたマリアが新しく銃をかまえる。
「喧嘩もコミュニケーションの一つだしね。あの二人の性格からして、嫌い合っていたら口すらきかないだろうし……実際アルベルが合流したあたりの時はそんな感じだったし。
それ考えると、まあそんなこと考えなくても。普通に仲が良いわよね」
言いながらマリアが放った銃弾が敵の頭蓋に命中して、ほらあまり気を散らさないでと怒られたソフィアが呪文を詠唱して、
「ディープフリーズ!」
「……以心伝心できる仲間を見付けるって、そういう相手を見付けるって、どれだけ幸運なことなのか分かっているのかしら」
「……どうなんでしょう?」
おっとりと二人が眺める先、なんだか険悪ムードになった二人が敵をざくざくやりながら柳眉を吊り上げている。
とりあえず、かなりシュールだ。
「あんた馬鹿みたいに突っ込んで行くの止めて少しは頭の怪我どうにかしな!」
「うるせえ邪魔だどけ魔光閃!!」
頭部に一発食らって一瞬のけぞって、何とか踏みとどまったアルベルが、だくだく流血しながら八つ当たり気味に刀を振り回す。眉を寄せたネルが回復呪文を唱えようとすると、それより先にあれどうにかしろとこれまた八つ当たり気味に怒鳴る。
ソフィアはきゃーきゃー逃げ惑いながらそれなりに術を唱えて、マリアは鈍足なりにバックステップをくり返しながら技を放って、いつもの爽やかスマイルでフェイトが斬り込んで、雄叫びを上げながらクリフが拳やら蹴りやらを放って。
これだけ大騒ぎをすれば次々モンスターを呼び寄せているも同然で、さすがにちょっとだけつらいかもしれない。
「……阿呆! 考え込んでる暇あったら攻撃しろ攻撃!!」
「防御とか回復は思い付かないのかいこの馬鹿!! そんなんじゃいつか絶対ぶち倒れるよ!」
「うるせえ阿呆」
口と態度が悪いのは彼の悪いところで。いつだって不必要に生真面目で頑固なのは彼女の悪いところで。それはお互いの個性のひとつだし、色々な個性があるからこそ世の中やら人生やらが面白いのは事実だし、逆に判を押したように同じ性格や趣味思考の人間だけしかいなかったらいっそぞっとするものの。
まったく違う個性が一緒にいれば、当然衝突もするわけで。
――それでもうまくいっていけるのは、良いことだと思う。
――なんとか戦闘終了後。
「あのさ、あんたに頭使えって無理なのかもしんないけどさ……本気で馬鹿みたいなんだけど攻撃攻撃ってそれしか言わないってのは」
結局言葉通り攻撃しかしなかったため、相変わらず頭部から出血を続けるアルベルが髪の隙間から血の筋の間から、剣呑な目を向ける。ネルが大袈裟に息を吐いて、きれいな布を渡して傷口の圧迫止血を指示しながら、自分は顔についたその血の痕やらを拭き取っていく。
「これだけ人数いるんだ、本当にヤバくなったら適当なところで引っ込んで回復しときゃすむだろうが」
「あんたにその見極めができるとは思えないね。体力限界でぶち倒れてから後悔するに決まっているじゃないか」
「決め付けんな阿呆」
「事実だろう無茶してばっかりで……ヒーリング」
淡い光が傷を癒して、半眼になったアルベルがほっと息を吐いたネルの腕を掴んだ。止血用にしていた布がぱさりと落ちる。ネルが紫の目を見開いている。
「――無茶はどっちだ。他人の怪我よりまず自分の心配しろ阿呆、腕――折れちゃいねえが、ひねったな。動きがおかしい」
「や、かましいね……」
「あぁ!? てめえの世話もできねえやつに言われたくねえな」
「あんた自分のこと言えないだろう!!」
ずがーん!!
「ちょっとネルさんアルベル! せっかく一息ついてたんだから騒ぎ起こしてモンスター呼ぶの止めろよ!!」
「こちとら回復まだ終わってねえんだよ、っておいお前らせめて喧嘩は全快してからやれって……ぅおぁ!?」
どごーん!
……ちなみに二人が仲直りしたのは二日後の夕食時前で。その夕食後には別のネタでまた喧嘩を開始していて。
喧嘩するほど仲が良いをきっと実践しているのだろうが。
いい加減にしてくれ、とパーティメンバーはそれぞれこっそり思ったりしていた。
