その日、別に気候がどうとかいうわけではなくて、戦闘がなかったから余計な体力を使わなかったというわけでもなくて。それ以外の、しっくりくる理由はなかなか思いつかなかったものの。
全員が全員なんだか寝付けない女性陣が、ごそごそと起き出した。

―― 嫌棄 [あれは嫌いです]

いろいろな話をした。今までのこと、これからのこと。この戦いがどうとかの重苦しい息苦しい話はナシにして、情けないおっちょこちょい話とか、ことが終わったならやりたいことの話とか。
納得できる話題もあったし、意外な告白もあった。思わず吹き出す失敗談もあったし、思わず同情して肩をたたく話もあった。
夜は長くて話題は尽きなくて、とうとうアルコールさえ出てきて、

◇◆◇◆◇◆

どういう流れだったか、
「……うちの男どもって、けっこうそれなりに良い男が揃っているはずなのにね……」
マリアが遠い目をしてそんな風にぼやいた。
「まあ、ね……人それぞれ個人の趣味ってあるけどさ、一般的な目で見りゃ外見整ってるよねえ」
つぶやきめいたぼやきめいたそれに、ネルがうんうんとやけに深々同意する。
「性格も、そんな特にあげるほどどうしようもないのは、ないはずなのに……」
あごのあたりに人さし指を当てたソフィアが、ぽつりとつぶやいてうーんと小首をかしげて、
「でも恋愛対象にはしたくないわよね」
「肝心なところが抜けてるからね」
「もうちょっと分かってくれても良いと思います」
三人が三人とも、ミもフタもないことをばっさりずっぱり言い切った。

◇◆◇◆◇◆

マリアの持つ空のグラスに、ソフィアがいそいそおかわりを注ぐ。顔や耳や首すじどころか、手や足まで全身真っ赤になったマリアが、礼をつぶやくとせっかく満たしたそれをぐいーっと空ける。
ソフィアは酒が苦手で、ネルはまるきり呑めない。一人呑んでいるマリアはペースが早い。
――一応、残る二人もジュース入りのグラスを抱えてはいたけれど。
ともあれ、一気呑みでグラスを空けたマリアはぷはーっと息を吐いた。
「……フェイトって、悪いやつじゃないんだけど。分かっているけど、恋人にはしたくはないわね」
「あれ、マリア? なんだかあいつ探すために大騒ぎしてたって話を聞いたんだけど……、」
「たしかにそうだけど、あれは「仲間」がほしかっただけ。情報があったのはフェイトだけだったから、結果的に彼を追いかけ回すハメになったけど。
……憧れた時期も確かにあるわよ。けど、現ブツはまあ、ああだから」
さわやかで頭も回ってやさしいけれど、――腹を開いてみたらかなり黒かったから。

微妙に虚ろに笑う彼女に、新しくグラスを満たしながら勢い良く激しく同意して、
「あー分かります分かりますっ! いろいろ分かったつもりになって多分親切のつもりかまたは何も考えないで突っ走るんですよねっ!! なんだか一番腹立つことを!
暇だからって、何で人の部屋のゴミ箱の中身なんか凝視したりするかなあ!?」
「きれいだからって腕いっぱいの花束抱えてきたときはあきれたよ。明日は町を発つって夜に、一体何考えてんだか」
「そんなことがあったんですか?」
「ペターニだったから、部下たちに押し付けたけどね……あれってアミーナの花だったかな……違うか」
「クリフたちに悪戯するときより、悪意がないときの方がタチが悪いわよ。しかも喜ばないとすねるから、面倒臭いったら」
実は意外と腹黒でも、女性にはほぼ例外なく親切だけれど。
――それぞれ思うところがあるのかいっせいにうつむいて、やがて同時に息を吐いて、

◇◆◇◆◇◆

「……ソフィア、グラス空じゃない」
「あ、悪いね気付かなかったよ。……よ、っと」
「ありがとうございますお二人ともっ!」
――マリアの持つ瓶がアルコールだと失念したソフィアは、二人から同時になみなみ注がれたそれをこくんと呑んで、すぐに重く大きく息を吐いた。さっそくほほが赤い。
「何?」
「……クリフさん」
「ああ……」
そのまま両手に抱えたグラスの中身をちびちびやりながら、自覚なく酔ったソフィアが困った顔をする。
「……確かに、頼りになるんですけど、」
「せくはら? だっけ、言動のどこかに必ず……どうしてああも、」
「いつまで若いつもりかしら……三十六よ? 普通に私くらいの子供いてもおかしくないのに、いっつも何かしでかしてはミラージュにこてんぱんにされてて」
「ええっ!? そんな、三十六歳なんですかクリフさんっ!!??
見えないっ、わかーい!」
「若々しいってより、ガキなだけよ。何回失敗してもまるで学習しないんだから」
またグラスが空になって、手酌でやろうとするのを止めたネルが今度はマリアに勺をする。あ、瓶が空きそうですこれも、とソフィアがマリアのグラスにそれも入れる。
ジュースでも呑むように遠慮なくマリアがそれを傾けて、ネルは荷物入れをがさがささせて手近なフルーツを取り出した。どこからともなく取り出したナイフでそれを切り分ける。

「どさくさにまぎれて触ってくるのをどうにかしてほしいね。あとはいちいち変な方に話持っていく、変な茶々入れる癖。……ひょっとして自覚がなかったりするのかい?」
「どうかしら」
「ぜーんぶ計算みたいな感じもしますけど。それはそこは格好良いと思いますけど。
……けど、
なんでああもやらしい目で見てくるんだろう……この前なんて、」
「ああ、あれはソフィア、あんたが悪いさ。風呂上りに白い服一枚でうろつくもんじゃないよ」
「一枚じゃないですよっ、その下にもう一枚着てましたっ!!」
「一枚に見えたら同じよ。……まあ、見ていて得した気分になったけど」
にこり、マリアの笑顔にソフィアのふくれっ面が凍り付いた。ずさっと一歩引いて腕で身体を隠すように、
「……冗談なんだけど」
「マリアさんって冗談と本気の境目分からないですよぉっ!! 本当はどんな目でわたしを見てるんですか!?」
「……あんたの使う術ってどんなからくりだい? 紋章刻んでないよねえ??」
「あーんっ、ネルさんまでぇっ!!」
なんだかからかわれて、酔っ払いソフィアの目に本気の涙が浮かんで、

◇◆◇◆◇◆

「――こういう反応するから面白いのよ」
中身入りの封を切った瓶は全部ジュースだと知ったマリアが、新しい瓶に手をのばした。その彼女に切り分けたフルーツを押し付けるネルが思案顔。
「あのアルベルも似たようなこと言ってたねそういえば」
「闘い以外に興味のないあいつと? ……微妙な気分だわ」
「みんなしてひどいーっ!」
すすめられるままにフルーツをかじりながら、マリアがまじまじソフィアを見た。何か考えて考えて首を振って、
「なんですかっ!?」
半べそに噛み付かれて苦笑する。
「……アルベルこそ、うちのパーティの男そのままかしら、って思っただけよ。
見た目は良いのに腕も良いのに、趣味が変」
「…………そうだね」

「――あの服装、何なんですか? アーリグリフの人見ましたけど、あんな寒い国であの服着ている人って他にいなかったです」
「安心しなソフィア、カルサアも、他の町でもそうさ。
あいつだけが、あんな変な格好してるんだ」
手持ち無沙汰なのかジュースを手酌しだしたマリアが、
「だから「歪の」なのかしらね?
となり歩きたくないし歩いてほしくないわあんな変な格好したやつ」
「ああいうのを変態っていうのさ」
「ネルさん言いますねーっ」
ジュース入りのグラスを突きつけられて、それを乾すネルが苦笑する。先ほどまで半べそだったソフィアが、なんだかきゃらきゃら笑っている。

「あの格好と、わざわざ喧嘩売る言動がなければって思うようになってきたよ。
前は殺しても飽きたらなかったけどさ」
「え?」
「ソフィアは知らなかったかしら? シーハーツとアーリグリフって戦争してたのよ」
「ばんでーんのごたごたで和平会談までいったけどね」
「そうだったんですか……。
平和って、怯えないですむって、いいことですよね……」

◇◆◇◆◇◆

しんみりした空気に、最後のフルーツに手をのばしかけたソフィアがくすりと笑った。指についた果汁を舐め取っていたネルがちょっと目を上げて、何ごとかと瞬く。
多分空気を変えようと思ったのだろう、ことさら明るい声と顔が、
「――じゃあ、パーティの中から一人、パートナーを選べっていわれたら、どうします?」
「……究極の質問かい……?」
「そう言うソフィアなら誰選ぶのよ。……無難にフェイト?」
「恋人としてなら、イヤです」
すっぱり。
思わずまじまじ顔を見合わせて、三人は、笑った。
「どうしてもって言うなら、マリアさんかネルさんで!!」
笑っていた二人の顔が、なんだかきらきらしたソフィアの顔に思いっきり引きつった。

◇◆◇◆◇◆

そのまま長い夜は更けていって。
翌日、いつまで経っても起きて来ない女性陣にサンドバッグはいっつもオレかよとぼやきながら部屋のドアを開けたクリフは。
アルコールに気分良く寝入るマリアと、
部屋に充満したそのにおいに当てられて、すっかり目を回しているソフィアと、
何かの間違いで呑んでしまったらしく、一暴れしたらしく。すっきりさわやかに撃沈したネルと、かなりどっきりびっくりな部屋の惨状を目の当たりにしたりした。

「……へーくしょぃっ!?」
なぜかくしゃみが止まらなかった昨夜の男部屋メンツのその理由を、
とりあえず窓を開けて換気をして、床に転がっている三人をベッドにまで運んでやるクリフはじめ。食堂で待ちくたびれて、とっとと食事をはじめたアルベルとぼんやり階上を気にするフェイトは。
……多分一生、知る機会はないだろう。

◇◆◇◆◇◆

――恋人には、嫌だけど。
――良い男揃いよね。

出発は翌日に延長。
女性陣三人は、ベッドで天使もかくやの極上の笑みを浮かべて眠っている。

―― End ――
2005/10/15UP
あれは嫌いです / 創作者に15のお題_so3CP混合_
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嫌棄 [あれは嫌いです]
[最終修正 - 2024/06/14-15:27]