二者択一で、どうしても何があっても選ばなければならない状況ならまだしも。
パーティメンバーで酒盛りをした。
名目は、まあいつものとおり特に何かあるわけではなく。とりあえずメンバー全員生きて町に着いて良かったね、とかせめて無理やりくっつけるならそのあたりだろう。誰が何を言うこともなく、旅の合間に町に寄ったならその日は無礼講、はいつものことだったし。誰かがそうやって酒が入って大騒ぎすることに文句を付けることなんて、今までになかったしたぶんこれから先もないだろうし。
彼だって、確かに馬鹿らしいと思う一面がないわけではないけれど、決してこの空気が嫌いなわけではないのだ。
ないのだ、けれど。
「…………」
「ちくしょーうらやましいぞアルベル、女性はべらしまくってさあ」
「そーそー、あーそうだもちっと嬉しそうな顔しろって。そーすりゃ遠慮なくどつき倒せるってもんだ」
顔どころか全身真っ赤になったフェイトと、こちらはまるきりいつもと変わらないクリフが双方にこやかに声をかけてくる。二人の手にはグラス、言われたアルベルの手にもグラス。中身は言うまでもなくアルコールで、酒宴がはじまってそれなりに時間が経過して、そんなわけでメンバー全員にそれなりにアルコールが回っていた。
――うらやましい、というならいつでも代われこのクソ虫ども……!!
口に出すとろくなことにならないと経験ずみのため、なんとか声に出さないでしかし鼻の頭にしわを寄せて低く低く唸るアルベル。なんだかんだと相当呑まされているために、見た目はあまり変わらないものの視界はぐらぐらしている。
そんな彼の背後にはネル、脇にソフィア、反対がわの脇というかそれよりは少し前にマリア。ああ、確かにパーティ女性陣をはべらせている、ということにはなるだろう。その構図だけ見たならば。
……しかし実際のところは、
「……ちょっとさっきから何揺れてるんだい、動くなって言ってるだろう。切れても知らないよ?」
彼の背後からまるで首に抱き付くようにして――そうやって彼の首を確保して、喉元にくないを突きつけるネル。
「アルベルさんわたしやっぱりうらやましいですよぅ、大してまともな手入れしてないくせに、いいなあ、この髪……もうちょっとちゃんと手入れしたらもっとしっとりするかなあ、枝毛なくなるかなあ」
彼の脇に寄り添うように身を寄せて好き勝手ぶちぶち言いながら、手だけはちまちま手早く動いて、彼の髪を編んだりしばったりリボンがどこからともかく生えてはそれを巻きつけたりなんだり。確実に彼の髪をおもちゃにしているソフィア。
「次はこのへん持ち上げてみようかしら。なんだったっけ、ソフィア? あの、ほら……髪を編んでそれでここ持ち上げるの。名前なんてなかったのかしら」
ハタから見たならしなだれかかっているように見えるだろう至近距離で、喜々として彼の髪をいじくりまくるソフィアに次々と指示を与えるマリア。
普段から実はこういう席ではそれなりに呑むマリアは、見た目からして十分に酔っている。普段は呑まないネルとソフィアも、何があったのか騙されたのか、今回アルコールが入っている。
ついでにいうならここは呑み屋で他にも客がいて、その視線までもが――アルベルの向かいに座るパーティ内男性陣のものによく似た――実際言葉どおりにうらやましがっているのが二割、自分がその役ではなくて安堵しているのが一割に、残りは面白がっている、そんなものに統一されている。
やわらかに身体に回る感触、触れてくる動き、くらりと頭の芯を酔わせる香り。触れる手は細くまろく、耳に響く声はどこか甘く、たとえば噛み付いてみたならどれほど甘く芳しいことだろう。
それらは、彼自身含めた男がまず間違いなく持ち合わせないもので。
だからこそ本能が求める類のもので。
ひょっとしたら自覚していないどこかで、アルベルだって今の自分のこの状況を歓迎していないわけではないかもしれないような気がするような気もしないでもないかもしれないけれど。
見方を変えるならそれは確実に「酔っ払いに絡まれている」わけでそういういいかたなら断固として喜ばない。喜ぶはずがない。
不本意でも何でも、この状況から尻尾を巻いて逃げたいとさえ思う。
今彼にこうしてはべっているこの女性陣がたとえばもしも野郎どもだったなら、それはもう確実に瞬殺している。近寄ってきた段階で彼と距離を詰めようとぴくりと動いたところで、彼の刀がガントレットが血に染まっている。
本能的な観点から、男よりは女に寄られることの方が抵抗は少ない。それは事実にしても。
二者択一で、どうしても何があっても選ばなければならない状況ならまだしも。
――だからといって、こうしておもちゃにされるというのは。
――しかも、酔っ払いに。
……短くはないここしばらくの旅で、このメンバーで旅をするようになって。学習したわけだけれど。この女性陣にヘタに逆らったなら後々までエラい目に遭うことを、学習した彼だけれど。
だから女をはべらせているという事実、以上に逆らうな逃げるなと自分に言い聞かせている彼だけれど。彼自身アルコールが回りきっていてなんだかこう、動きが鈍いのもまた事実だけれど。逃げようとして逃げ切るだけの自信がなくて無様な醜態をこの男性陣に見せるくらいなら我慢するほうを選んだ彼だけれど。
けれど。
……そろそろ逃げた方が良いかもしれない。
……というか、せめて嫌がっている意思表示は大袈裟にして見せた方が、
「ソフィア、あなた化粧道具持ってる?」
「持ってますよ、当たり前じゃないですか。まあ本格的なのはさすがに無理ですけど……あ、ネルさんは?」
「あたしは、言うほどには持ってないね。身だしなみとして最低限、今は荷物もないからちょっと直すくらいのしか」
――髪をいじるだけなら飽き足らず、今度は化粧までしようと言い出した女性陣に。
「あははー。美人にしてもらえよアルベル!」
「意外と似合うかもなあ、ほら、お前女顔だしな!! オレならごめんだけどな!」
どこまでも無責任に確実に面白がっている男性陣に。ついでに、なんだか集中していたほかの客および店員の好奇心丸出しの視線に。
「ふ・ざ・け・ん・なぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁああぁっっ!!」
もろもろの計算を蹴り飛ばして、他にもいろいろ放り出して、硬直しようとする身体を叱咤激励したアルベルが――怒鳴り声を上げた。
むしろ悲鳴だった。
涙声だったかもしれない。
――その後の彼が結局どうなったかは、各自のご想像にお任せすることにする。
合掌。
