パーティをしよう。
美味しい料理と、お酒もちょっとだけ。
みんなで笑いながら、大騒ぎをしよう。
たまにはささやかに、大騒ぎをしよう。

―― 聖誕 [Very Merry Christmas!]

「ねえねえフェイト、今日、いつくらいに町に着くかなあ?」
「え? ああ、うん……ペターニまでか。どうだろう??
まあ、夜中までには着くよ。宿の心配は別にしなくてもさ、」
「違うのっ! ……うー、どうしても、夜? もっと早く着けない??」
いつもは聞き分けの良い栗色の髪の少女に珍しく食い下がられて、フェイトは眉を寄せると少し考えてみた。現在地とか出没する敵の強さとか地理地形とかその他。いい加減この星に長くて、大体の予想くらいは立つけれど。
「……多分、無理じゃないかなあ。戦闘しなければ夕方くらいには着くかもしれないけど。アルベルがいるから、無理だろうしさ、そんなこと。
ソフィアからあいつに言ってみるか? 多分鼻で笑われて終わりだけど」
「……うー……」
低く唸って、そんな少女に小さく笑う。笑ったフェイトに気が付いたのか、これまた珍しく素直に怒った目が向いて、
「今日、クリスマスなのにっ! パーティの準備、できないじゃない!!」
そんな風に怒鳴ると、ぱたぱたと走り去っていった。

◇◆◇◆◇◆

「あの、マリアさん? 今日、早めに町に着くことってできませんか??」
「……? ペターニまで、ここから??
早めって言っても、いつもの感じからして夕方あたりがせいぜいじゃないかしら。それすらあやしいかもしれないわね。戦闘で時間くわないなら大丈夫だろうけど、敵を見て避けていくなんて、あの血の気の多い男が納得するはずないし」
なにやら必死な様子のソフィアに訊ねられて、マリアは流れてきた髪を後ろに流しながらひょいと肩をすくめた。きっとその答えを予想していて、けれど納得できないのだろう。むー、唸る少女が少し考えてから、
「……アルベルさん、ですか?」
「そうよ。私だって先を急ぎたいけど、まあ、この地に暮らすなら少しでも敵を減らしておきたい、のは分かるし。アルベルがそんなこと考えているかは分からないけどね」
「マリアさんから、じゃあ、言ってくれません……よね……?」
「私が言ってどうにかなる男なら苦労はしないわよ。無駄なことはしたくないの、第一、人に頼る前にまず、」
「分かりましたっ!
クリスマスパーティしたいんです、がんばります!!」
説教でもされると思ったのか、少し大きめの声を上げてマリアの言葉を遮って。ぱたぱたと駆けていく少女に彼女は肩をすくめた。その動きでまた前に流れてきた髪を、さらに後ろに流しなおす。

◇◆◇◆◇◆

「ネルさん……あの、アルベルさんに、」
「? あの男がまた何かしでかしたかい?? まったく、しょうがないやつだね、」
ネルがきっぱりとした動きで背後のアルベルに向かいかけたのを、そのこぶしがなんだか硬く握り締められていたのを。ソフィアはあわてて止めると、とりあえず主張してみた。
「いえ、そうじゃなくて!!
今日、出来るだけ早く町に着きたいなあって思って。フェイトに言ったら、戦闘しなければ夕方くらいには、ってことだけど、それは無理だろう、って」
「ああ……まあ、無駄に血の気の多い男だからね……」
「マリアさんに言ったら、自分の国に出る敵なんだから倒したがるのも分かるって、」
「――それはないね。
あいつのことだ、単に戦いたいだけだよ。……で、単純に戦いたがってるだけだから、こっちが何言っても聞きやしない」
やれやれ、肩をすくめてまた同じことを言われて。きっとまた同じことになるんだろうなあと思いながら、ソフィアはおずおずと、
「ネルさんでも、無理ですか?」
「いっそ戦闘不能になるまでどついた方が早いと思うよ。どうせ今日中に町に着くんだ、それなら協力するけど?」
「い、いいですそんなやっぱりいいですっ! そこまで、ものすごく切羽詰まっているわけじゃないですし!! クリスマスパーティと人命なら、人命の方が大切ですから!!」
物騒な提案にあわてて首を振ると、大丈夫ですからね、と念を押してぱたぱた走り去っていく。引き抜いて逆刃にかまえてみせた短刀をかちんと鞘に戻して、ネルは苦笑した。
まさか本気で仲間を半殺しにするほど、……するほど?
物騒な考えに少し本気になりかけて、脳裏に浮かんだ涙目の少女の顔に、あわてて首を振って追い出す。

◇◆◇◆◇◆

「クリフさん……あの、今日、早めに町に着く方法ってありますか?」
「うん? ……フェイトか誰か護衛に先に行っとくか?? ここいらあたりの敵なら別に二、三人でも、」
「……うー……」
なにやら思いつめた顔の少女に、クリフは思い付いたそのままを提案してみた。唸ってがっくり細い肩を落とすのに、そんなに変なこと言ったか? と自分の言葉を反芻してみる。
「別に何も問題ないだろうぜ、嬢ちゃんのことだ、何かはずせない急用が、」
「それじゃあ意味がないんです!!」
――ある、とか納得するんじゃねえのか?
言いかけた言葉は遮られて、ソフィアはさらにがっくりと、
「……みんなで、町に戻って。みんなでやらないと、意味がないんですよ……」
「何が?」
「クリスマスのパーティ……。スキャナのカレンダー見たら、今日だったんです。エリクールの暦って地球と違うし、スキャナ持っているのもフェイトとマリアさんとクリフさんだけでしょう? ずっと気付かなくって、でも……、」
すっかりしおれた少女がなんだかかわいそうだけれど、けれどクリフには何をどうしようもなさそうで。何かを提案しようにも、何も思いつかなくて。
「みんなで、パーティしたかったのにな……」
「あのな嬢ちゃん、別に今日でなくても、」
「今日じゃなきゃ、それこそ意味ないじゃないですか!! クリスマスは、誕生日なんですから! 動かしたら意味がなくなっちゃう!!」
気にするなと言いたかったのに、珍しく噛み付かれて、どうしたものかとクリフは迷う。何をどうフォローしようにも、どうにも感性が違いすぎるので何も言うことができない。
「ありがとうございました! じゃあ!!」
迷っているうちに彼女はぱたぱた走り去って、何もできなかったクリフは髪に手を突っ込むとばりばりとかきむしる。

◇◆◇◆◇◆

「アルベルさん、今日は戦闘しないで、」
「……あぁ!?」
ぼそぼそ言われて聞き取れなくて、唸ったならなんでもないですごめんなさいと少女が走り去っていった。まったく何がなんだか分からなくて、アルベルはむっとする。

――分からないことだらけだ。
――何かたくらんでいるらしい青髪の二人も。
――それをフォローするつもりらしい金髪筋肉男も赤毛の女隠密も。
――仲間内だけでとっとと計画をすすめて、まるで除け者にされているようで気分が悪い。
――……まあ、たくらみに放り込まれたところで面白くないのは一緒かもしれないけれど。

どうしようもないことをうじうじ考えていることが馬鹿らしくなって、アルベルはひとつ息を吐いた。視界の向こうに敵の影を見つけて、これで憂さ晴らしができるとばかりに刀を引き抜く。

◇◆◇◆◇◆

――結局、フェイトの言葉どおりになっちゃった。

すっかり暮れて、青から藍に、黒に染まる空をソフィアは恨めしく見上げる。
全員に話しかけて、それから約半日。敵を見るたびに止める間もなくアルベルが突っ込んでいって、戦闘になれば仲間を見捨てるわけにもいかない。数えてみて、三回ほどだったか。ずいぶん消費した精神力のせいで、やる気まで出てこない。

……みんなで、パーティしたかったな……。
……いっつも怖い顔してるみんなと、せめて今日だけでも笑いたかった。
……プレゼントとか用意しあって、わいわい騒ぎたかった。
……今日くらいは、お酒、呑んでみたかった。

しょぼんとするソフィアに、じゃあ、あたしが宿確保しとくね、とネルが足取り軽く走っていって。ああ、アイテムの買い出し今日中にすませておきましょうか、とマリアが早足で去っていって。
しおれたソフィアは、なんだか不自然なそれに気付かなくて。

「ソフィア、とりあえず工房行ってくれ」
「え……? まずは食事じゃないの??」
「いーから、行きゃ分かるってよ」
フェイトに言われて、クリフが畳みかけて。きょとんと瞬いたソフィアは、言われたとおり工房に向かう。
――クリエイターたちはどうしたのだろう。
――中には灯りさえともっていないのに、一体何が、

首をかしげた彼女の手が、ドアノブに触れた。
開こうとする直前、ドアの方が勝手に開いて、ぱっと視界が明るくなって、同時に、

◇◆◇◆◇◆

「ベリーメリークリスマス!!」

にこやかな大合唱、広くはない工房内になんだかたくさんいる人たち。クリエイターたちと、クレアとタイネーブとファリン。狭い中、よくもまあと思うほど、工房内は人で埋め尽くされていて。おいしそうな料理のにおいも、なんだかさりげなく流れてきて。
びっくりして助けを求めるように振り向けば、大成功、とばかりにフェイトが笑っていた。
「いつもありがとう。ソフィアのことだからさ、絶対に忘れないと思ったんだ」
「フェイト……」
「口実は何でも良かったのよ。まあ、あれだけメンバーに回っているのを見れば、ずいぶん楽しみにしていたんでしょう? 事前に根回ししたかいがあったってものね」
「マリアさん……」
「意外と大変だったよなあ? 嬢ちゃんに気付かれないように計画練るのとか。用意そのものはクリエイターのやつらに大半任せるにしてもよ」
「まさかこのあたしに伝令の真似をさせるとはね」
「クリフさん、ネルさん……」
「……これを企んでやがったのか……俺をダシにしやがって」
「アルベルさん……」
みんなが笑っていて、明るい笑顔がすべてソフィアに向けられていて。いつもがんばっているから、そのお礼をしたかったんだよとフェイトがどこか自慢そうにもう一度ささやいて。
ソフィアの目に、みるみる感激が涙の珠を結ぶ。

パーティをしよう。
美味しい料理と、お酒もちょっとだけ。
みんなで笑いながら、大騒ぎをしよう。
たまにはささやかに、大騒ぎをしよう。
ベリーメリークリスマス。
大騒ぎの、聖なる夜を。

「みんな……、ありがとう……っ」
涙声の感謝の言葉に。笑顔の花が満開になる。

―― End ――
2005/12/19UP
Very Merry Christmas! / クリスマスに7のお題_so3CP混合_
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
聖誕 [Very Merry Christmas!]
[最終修正 - 2024/06/14-15:55]