――本当は、いつだって怯えている。
――離れていってしまわないか、いつだって怯えているんだ。

―― 我説 [ワガママを言う]

「アルベル、ちょっと付き合って」
「あァ?」
特に何もやることがなくて、やる気が起きなくて。部屋でまったりくつろいでいたアルベルを、入口にひょい、とはえた顔が呼んだ。
物憂げにゆっくり目をやれば、何やらマリアが呼んでいる。
「いらないアイテム売りに行きたいのよ。他のメンバー誰もいないの、あなた暇でしょう? 付き合いなさい」
「……命令するなク、」
「何か言ったかしら」
――クソ虫が、と続けようとしたらいつの間にか間近に立っていた女が極上の笑顔で見下ろしていた。
その手には、わざとらしいほど重そうに抱えたアイテム袋。実際見た目どおりの重さがあるとすると、この位置からぱっと手を離されたなら、みぞおちにそれが刺さってなかなかに痛いというかいっそ苦しい思いをしそうだ。
「……脅しか」
「あら、そんなことないわよ?」
にっこり、微笑む彼女は整った顔立ちもあって本当に愛らしいと思うのに。
どう否定されようが確実に脅されているアルベルに、その笑顔は見た目どおりの笑顔に映らない。

◇◆◇◆◇◆

仕方がないので、付き合って「やる」ことにした。
億劫そうに立ち上がって、身を引いて先に外に向かおうとした彼女の髪をひょい、とすくう。つん、いくらか痛い思いをしたのか迷惑そうに振り返ったので、黙って手を差し出してやった。
「何よ」
「貸せ」
「え?」
分かっていない様子にちっと舌うちをして、その手からアイテム袋を奪い取る。何もなくなった手のひらをなぜか不思議そうに見つめているのを、ずかずか歩きながらその細い肩をがしっと抱いて。二歩目ではや我に返って三歩目でもがきはじめて四歩目で逃げ出した彼女に。にやにやと笑いかけてやる。
「阿呆」
「かっ……! からかったわね!!」
ぼっと耳まで顔を染めて、悔しそうに唸る姿が面白くて。他の人間に多分見せないだろうその顔が何だか嬉しくて、くつくつ笑いながら。立ち尽くす彼女にわざとらしく振り返る。
「来ないのか?」
「いっ、行くわようるさいわねっ!」
そうやってムキになるマリアが。
やはり、どうしても楽しい。

◇◆◇◆◇◆

ワガママというか、からかいというか。そうやってマリアに接するたびに、実のところ本当は少し怯えの気持ちがある。
――からかうことは面白い、ムキになる姿は楽しい。
けれど、それが元で嫌われないか、それは、そう思うことはやはり怯えを伴っていて。
どうやら遠く遠くからやってきた彼女が、離れて行ってしまわないか。そう思うことはどうしても怯えを呼び寄せて。

ずっしり重い袋を肩に担いで、アルベルは口の端を持ち上げる。

――阿呆、は、俺だ。
――そんなに怯えているなら、もっと好かれることをすれば良いのに。
――もっと、マリアが喜ぶことをしてやれば良いのに。
――嫌われることを、わざわざしなければ良いのに。
――分かっていて、結局やるのは、

◇◆◇◆◇◆

「待ちなさいよっ! アルベル!!」
――待っていてくれても良いじゃない、とか、
――もっとゆっくり歩きなさいよ、とか。
足の遅いマリアが息を切らせて追い付いて、ぶつぶつ文句を言っている。そうしてあらかた文句を吐き出したのか、ひょい、と翠の目が彼に向く。
「悪いわね」
「何が」
本気で何のことを言っているのか分からなくて眉を寄せれば、彼女はやけに愛らしく小首を傾げて、
「好きで部屋でのんびりしていたのに、駆りだしちゃって」
「……やることなかっただけだ、」
「そう?」
――気にするな、の言葉が言えない。そんなアルベルににこりと笑いかけて、マリアがてててっと少し前へ行く。遠ざかろうとする彼女に、反射的にその細い手をつかみ止めようとして、なんとか理性でそれを押さえ込んで。そんなアルベルの葛藤にきっとまったく気付かないマリアが、くるりと振り返ると、笑う。

「助かるわ。重くない?」
「こんなのいちいち言うほどのことか」
「だって、私には重かったわよ? 隣の部屋からあそこまで運んだだけなのに」
「鍛え方が足りねえんだよ」
何気ない会話、笑っているマリア。何かをしでかすたびに、すねる彼女を見るたびに。今度こそ見限られたのではないかと怯えて、けろっと忘れて笑う彼女にいちいち安心して。

◇◆◇◆◇◆

「あ、でね、アルベル。これ打ったらそのお金で、ついでに買いものもしたいの」
「それを俺に持たせるつもりか」
「別に、嫌なら無理は言わないわよ? 私が持てるだけしか買わないことにするから」
「……ちっ」
そういう言い方をされると、意地でも荷物持ちを買って出てしまうアルベルに。きっと分かっていて、わざわざそういう言い回しをするマリアが、さらに華やかに笑った。
「いつもワガママ言って、悪いわね?」
「……てめえのワガママなんざかわいいもんだろうが」
「あら、そう言ってくれるの?」

そうして華やかに笑う彼女は、アルベルの目にまるで輝いているようにさえ見える。
マリア自身は、絶対にそんな自覚などないに決まっているけれど。

――本当は、いつだって怯えている。
――離れていってしまわないか、いつだって怯えているんだ。
――だから、ワガママも好き勝手に言えばいい。
――できるだけ、かなえてやるから。
――そのかわりに、俺のワガママにどうか離れていかないでほしい。
――別にその全部を、聞けとまでは言わないから。

◇◆◇◆◇◆

何を思ったのか、周囲に人影がないことを抜け目なく確認したマリアが、アルベルの腕に抱きついた。
荷物とマリアで両腕をふさがれながら、それでもアルベルが。

まるで苦笑するように、それでもにやりと、

笑う。

―― End ――
2006/01/03UP
ワガママを言う / 好きだから5のお題_so3CP混合_
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我説 [ワガママを言う]
[最終修正 - 2024/06/14-16:00]