白い息を吐いて、どこか遠くを見て。
そんな姿を見ていたくなかった。
そんな、きれいな姿を見せられるくらいなら。
――どこまでも堕としてやりたい、穢してやりたい。

―― 望 [君が望むなら]

この街に入ると、なぜだかマリアはふっと姿を消す。――それに気が付いたのがいつなのか、覚えてはいない。
今日昨日ではない、それでもそんなに昔でもなかったと思う。
ふと横を、周囲を見やってはじめて気が付くマリアの不在。普段は気配を消すのが格別上手でもないくせに、その時ばかりはなぜか見事で。けれどだからといって特に何かあるわけでもなく。ふとした拍子に気が付けば、何ごともなかったようにそこにいる。
ただ、考えてみれば。
けれど彼女を得て、――いやそもそもマリアと出逢ってからそう大して時間が経っていないわけで。そうしてみると、ずっと長い間気付かなかったというわけでもないだろう。

――ない、だろうけれど。
けれど一度気付けばそれはなんだか面白くないから。

だから、今度姿を消したときは、それに気付いたときには。気付いた瞬間からマリアを探そうと思った。どこにいても見つけ出してやる、と。なぜか半ば以上ムキになって、そんなことを思った。
……まったく、阿呆だと思う。
自分が、マリアが。
本当に阿呆だと思う。

◇◆◇◆◇◆

「……クソッ」
毒づく。下手に口を開けると冷たい空気を吸い込んでしまうので、自然ほとんど口を開かないように愚痴る。
アーリグリフ。
いつでも雪と氷に覆われたこの国はこの街は、今日も当然のように吹雪の中にあった。吹き付ける白い切片は雪なのか氷の粒なのか、どのみち冷たいことに違いはなくて、それが肌を裂くように錯覚させることに違いはなくて。
……まあ、そんな中を歩く彼の格好が激しく間違っているのはさておくとして。
「どこだ……っ」
口の中でつぶやいて、立ち止まると寒さに凍りつきそうなのでただ目と気配で周囲を探る。
目当ての人間は山ほどの人間の群れの中にあっても勝手に目が吸い寄せられるから、そういう意味で自信があったのに。その自信を粉々に打ち砕くように、見えないところにいなくなると、まるで気配が見つけられない。

◇◆◇◆◇◆

名前を呼べば、出てくるかもしれない。
あるいはこの風に乗った彼の声が、彼女の元にまで届いて。

……寒さに凍りつきかけた脳みそがそんな夢物語を思い付いて、そんな自分を彼はあざ笑った。
――ありえない。
――あのマリアが自分で隠れようとしているならのこのこ姿を現すはずがないし、
――この風は音を運ぶことなく、唸るような音の中に声を隠してしまうだけだ。

彼が信じるのは、ただ自分だけだから。
昔はもっと別のモノも、たくさんのモノを信じていたかもしれないけれど。あの日を境に信じるのは自分だけになって。それでも最近ようやく、今探しているあの青髪の女だけは少しだけ信じるようになったばかりで。

愚かな自分をだからあざ笑って、
夢物語を忘れて、探すことに没頭することにした。

――見つけたら、どうしてやろうか。

物騒なことを考えながら、探すことに没頭することにする。

◇◆◇◆◇◆

そしてアルベルは。
うらぶれた小さな教会に目当ての彼女の姿を探し出した。

――ここにいたのか。

毒づこうとして、声が出なかった。

――とっとと帰るぞ寒ぃんだよ。

ずかずか歩いて細い腕をつかんで、引きずってでもと思ったのに。
足が身体が、動かない。

◇◆◇◆◇◆

くたびれた薄い絨毯が敷かれた床、すべてが貧相な中唯一奮発したような白い像の前にただ立っている。細い背中を覆う青い髪は、蝶番が壊れているため吹き込んだ雪で止められているため、動かない扉から吹き込む風にときおりさらりと揺れて。

別に、偶像の神に祈っているわけでもないだろう。
ただ、その場に立っているだけなのだろう。

分かっているのに、声は出ない身体は動かない。
いつもどことなく儚いマリアが、さらに儚く消えそうになっているのに。
――そう見えるのに。
なぜ、それを止めるだけのすべてが封じられている。

ぎしり、奥歯がきしんだ音を立てる。
鉄臭いにおいが口の中に広がっていく。

白い息を吐いて、どこか遠くを見て。
そんな姿を見ていたくなかった。
そんな、きれいな姿を見せられるくらいなら。
――どこまでも堕としてやりたい、穢してやりたい。
凶悪な感情が鎌首をもたげて、

それなのに、

◇◆◇◆◇◆

そして腕の中に閉じ込めた身体はどこまでも細かった。力を込めて、いっそ抱きつぶしてやりたいと思うのにそれ以上力が入らなかった。
「……アルベル……?」
「こんなとこで何してやがる」
不思議そうに身じろぎをする、それであらわになった首筋に噛み付いてやりたいと思う。
……思うのに、思ったとおりに身体が動かない。雪の中を歩くうち身体が凍りついてしまったのだろうか。

――だって、あなたの邪魔をしたくなかったのよ。
――あなたはこの国の将軍でしょう?
――この街にいるときくらいは、机くらい温めなさい。
――私がいて、その邪魔をするくらいなら。
――そう思って、だから、……ねえアルベル、聞いてるの??

マリアが何かを言っているのに、聞き取れない。

――ああ、俺は何を望んでいる?
――ああ、こいつは一体、何を望んでいるのだろう。

望むならすべてを叶えるのに。

――その望みが、見えない。

―― End ――
2006/02/10UP
君が望むなら / 雰囲気的な5つの詞:想_so3アルベル×マリア_
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望 [君が望むなら]
[最終修正 - 2024/06/14-16:05]