ああ、けれど。
それはきっと最初から。
分かりきっていたのだと、思う。

―― 偽 [もう偽ることはできない]

「……なんでだろう、なあ」
工房にこもって、真っ白な紙を前にペン先で空中をかき回しながら。フェイトはぼそりとつぶやいた。
――青、と白と翠と黒。
彼の頭の中は、今そんな四色がいっぱいに占めている。
美しい顔立ちではなく、聡明な頭脳でもなく。
思うのはたった一人なのに、浮かぶのはそんな色の印象。

◇◆◇◆◇◆

あのとき。
黒衣の彼女がシランド城の白に舞い降りた。
さらりと青い髪が風になびいて、それよりも強い印象を残す翠の目が。
きれいだと、思った。

それまでどんな感情を抱いてきたのか、一方的に彼を知っていた彼女の視線はなぜか冷たくて。冷たいのに、その奥に何か、別の何かがあるような気がする。
彼には分からないけれど、何かがあるような気がする。
のぞく込めば逃げられるのに、不快感全開でにらまれるのに。
それなのに、隠されたそれが気になって仕方がない。

◇◆◇◆◇◆

「……なんだろうなあ……」
書くことなんか何も浮かばないで、けれど他の誰か、たとえばクリエイターの手を借りようとも思わなくて。文字にさえならない、自分でもわけの分からないミミズが数匹、紙の上にのたくっている。
ペン先でそれをつつきながら、フェイトはまたひとつ息を吐く。

◇◆◇◆◇◆

好意ではない感情をぶつけられて、気分が良いはずもない。
顔立ちの美しさだけではなく彼女は人の目をひきつけて、そんな彼女に敵視されるのは嬉しくはないはずだ。
頭ではそう思うのに、なのに彼女に対して嫌な感じはしない。
もちろん冷たくされたその瞬間はさすがの彼だって凹むけれど、
けれど凹むのはその場でだけで、今もこうして思い返す分には。

◇◆◇◆◇◆

「……うーん」
うなる、……ミミズに毛が生えている。
ぐしゃぐしゃと塗りつぶして、また別のところにミミズが生まれる。

◇◆◇◆◇◆

誰がどう見ても美人で、
強いまなざしは気圧されるほどで、
回転の速い頭は感心する以外なくて、
断定するのが癖なのか、きっぱり言い切られればいっそ小気味よくて、

そんな彼女に、今はどう見ても好意とは違う感情を。
けれど彼を特別と認識されている、それはなんだか、

◇◆◇◆◇◆

「……いや、違うから……」
ぶつぶつつぶやきながら、当然執筆なんてまるで進まない。書きたいことは最初からなくて、そして現状こんなんでは。きっと一生かけたところで、意味のある何かが生まれるなんてない。
それで生活をしているクリエイターたちがそろそろそんな彼をにらんでいる。
いるような気がするけれど、執筆なんて、

◇◆◇◆◇◆

シランドに彼女が降り立った瞬間、話ではなく実物の彼女に出逢った瞬間。
彼の心のどこかが、なんだか回転をはじめた。
彼女以外のすべてが色褪せて、彼女だけが華やかな色をまとっていた。
一目で彼女を「特別」と思った。

彼女が彼をどう見ているのか、その冷たい目で分かったけれど、
けれどそれではめげない何かが、彼の心に生まれていた。
いや、いっそ無関心ではない感情を抱かれていることに歓喜したのかもしれない。
ゼロからの出発ではなく、方向を変えるだけで良いではないかと。
自分でも呆れるほどポジティブな心が、そんなことを思ったのかもしれない。

特別な、きっと一生涯出会う人の中で一番に特別な誰かを見つけた。
誰よりも何よりも、特別な誰かに出逢った。
――幸せを願う、幸せにしたい。
純粋なその想いさえまるでかすんでしまうほどに、強烈な感情を自覚した。

青と白と翠と黒。
色の印象だけが鮮烈に残って、それ以外の印象だって何一つ取りこぼしはない、忘れるはずがない。
――だって、彼女は彼の特別だから。

そう思った、それは一体なぜなのか。
次に彼は、何をしたら良いのか。

◇◆◇◆◇◆

フェイトの口元がほころぶ。苦笑によく似た、けれど笑いのかたちにほころぶ。
目がやさしくなって、想像の彼女に無意識に笑いかけている。

誤魔化すとか、偽るとか。そんなつもり最初からなかったけれど、
そうだ、きっと今はっきりした。
明確な言葉にしたならきっと褪せてしまうこの心を、
けれど今、くっきりと実感した。

ああ、けれど。
それはきっと最初から。
分かりきっていたのだと、思う。
無意識の奥は知っていたのだと思う。

だから、それは発見した喜びではなく、きっと腑に落ちてすっきりした爽快感で。

そして彼の手が動きはじめた。
今度は明確に意思を持った動きが文字の羅列を、
たった一人にあてた文字の羅列を、生み出していく。

―― End ――
2006/02/13UP
もう偽ることはできない / キミにシタイ5題_so3フェイト×マリア_
OFP
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偽 [もう偽ることはできない]
[最終修正 - 2024/06/14-16:16]