抱きしめたなら、頼りないほどに細くてやわらかくて。
――失いたくない、と。
ただ強く思った。

―― 離 [もう離さない]

買出しはパーティ中彼の役目になっていて、その日も、だから町の中をアイテムを抱えてうろうろしていた。本当はこんな面倒なこと好きでしているわけではないけれど、彼以外の男性陣に財布を握らせるには不安だし、女性に重い荷物を運ばせるのはフェミニストの彼にはなんだか許せなくて。
だから、しぶしぶ不要なものを売り払って必要なものを買い込んでいた。

◇◆◇◆◇◆

「フェイト」
「?」
そんな中名前を呼ばれて、それが幼馴染の少女の声で。なんだろうと思って顔をそちらに向けたなら、路地の隙間からにこにこ手を振る彼女の姿。
ヘルアで分かれたきり音信不通で、先ほどようやく合流できた少女の姿。
「……?」

――何だろう、いや、それは良いけれど。
この星は地球並みに治安が良いわけではなくて、この町は比較的安全だけれど、路地裏までそうかといわれればあまり素直にうなずくことはできない。それなのに幼馴染の贔屓目を差し引いても可愛らしい彼女があんなところに、
考えがまとまる前に脚が動き出していた。少しだけ表情の厳しい彼に、けれど少女は――ソフィアは変わらずにこにこ笑って招いている。

◇◆◇◆◇◆

「フェイト! ごめんね、呼びつけたりし、」
「……ダメじゃないかソフィア」
それは彼女の身を案じてだったけれど、開口一番叱りつけられてソフィアの目が丸くなった。ぱちぱちと瞬く彼女に、ここはあんまり無条件に無防備になれる場所じゃないんだよ、何かあってからじゃ遅いだろ、と自分でも口やかましいことをつらつら説明する。
丸くなっていた彼女の目がやがて三角になって、笑っていた口元がきゅっとすぼめられるとむっと不服そうに突き出される。
……ああ、これは人の話を聞いていないなとフェイトが悟ったころにはもう完全にへそを曲げて、頬をぷくっと膨らませるとそっぽを向いていた。

「……ええと。だからな、ソフィア、」
「知らない! フェイトのばかっ!! フェイトのことなんてもう知らない!」
やばい、と思って猫なで声に切りかえたけれど、そんなことでは一度怒った彼女の機嫌はとうてい直らない。どうやらずっと抱えていたらしい何かがばしっと投げ付けられて、反射的にそれを受け止めるころにはぷりぷり怒ったソフィアが路地の奥へと、
「ソフィア!」
呼んでも、たとえ聞いていたところで立ち止まらないと分かっていたけれど。それでも呼びかければ予想通りそれは無視された。ミニスカートからのびた脚がずんずん奥へ奥へ、ひょっとしたら犯罪者がひしめくかもしれない暗がりへ行ってしまう。
――また、彼女を……見失う……?
狭い路地を追うにはきっと邪魔な、先ほど購入したばかりのアイテム入りの紙袋は投げ捨てた。そうしてまだ見えている、けれど気付けばずいぶん離れてしまった背中を追いかける。「路地裏は危険かもしれない」はいつの間にか彼の中で断定に変わっていて、だから余計に焦って。
可能な限り全力で、たとえ変にせり出した壁で肘あたりをすりむいても、悠長に痛がってなんていられなくて。

◇◆◇◆◇◆

早足とはいえまだ歩いているソフィア、恥も外聞も振り捨てて全力疾走するフェイト。
もともとのコンパスの差があるし、最近この星に降り立ったばかりの少女に比べればまだフェイトの方がこの町にいた時間が長い。土地勘がある。
追い付くのは当然で、その間に何かが起きないかが心配だった。それでもどうにかフェイトの杞憂は大ハズレして、細い肩に手が届く。無理にもつかみ止める。
「……待てよソフィア!」
「何よばかフェイト! わたしがどこで何しようとわたしの勝手でしょ!?」
きっと感情が高ぶったせいだろう、振り向いた彼女の目には涙が浮かんでいた。虚を突かれて思わず彼女をつかむ手から力が抜けて、するりと逃げられかけたところであわてて我に返る。
今度は簡単に逃げられないように、抱きしめる。
――思わずそうしてから、フェイトは小さく息を呑んだ。

見た目からして細いことなんて分かっていた。本人は気にしているようだけれど、時々それをネタにからかっていたけれど。こうして抱きしめてみたなら見た目の想像よりもずっとずっと、彼女は細くてやわらかかった。
意外性に息を呑む。力を込めたなら抱きつぶしてしまいそうで、あわてて腕から――彼女が逃げ出さない程度に、力を抜く。
暴れる力さえ脆く儚い。骨格、骨からしてきっと彼のものよりも絶対に細い。
当然その上の肉だって皮膚だって細くてやわらかくて頼りなくて。
そんなことを思う脳裏から、言葉が蒸発していく。

◇◆◇◆◇◆

「はなしてよフェイトのばか! えっちすけべヘンタイ!!」
彼の動揺にきっと気付かないソフィアが暴れていて。力で敵うわけがないのに、元気に暴れていて。
……どうしよう、僕は、一体どうするつもりだった……?
真っ白な脳内を必死に探るのに言葉が出てこない、どうすればいいのかが、
「――こうやって襲われたら、お前、逃げられないだろ」
「そんなことないもん! も、紋章術が使えるんだから、」
「集中できないかもしれないだろ。大体、一発外したら次までに時間かかるじゃないか」
分からないのに口が勝手に動いて、ああ、そんなつもりはないのにどんどんソフィアを怒らせている。怒らせてしまう。

◇◆◇◆◇◆

――彼女を、また見失うかと思った。
――また失ってしまうかもしれないと、そう思ったとき心臓が確かにぎゅっと縮まった。

素直に言ったならきっと喜んでもらえるその台詞が、けれど口から出てこない。
素直に言ったなら、またキザなこと言って、と呆れられるその言葉がけれど口にできない。
黙り込むフェイトに、腕の中の彼女がますます暴れるのに。
どうしたら良いのか、頭の中がいよいよ真っ白で、

――行かないでほしい。
――もう二度とあんな思いしたくない。
――ソフィアがつらい目にあっていないか、哀しい涙を流していないか。
――案じるだけで何もできないのは、もういやだ。

思うのに、思うのに。脳裏は真っ白で声が出せない。
ソフィアが怒っていてそれをなだめようと思うのに、思うくせにどうしたら良いのかが見つからない。
知っているのに分からない、それがもどかしくて仕方がない。

抱きしめたなら、頼りないほどに細くてやわらかくて。
――失いたくない、と。
ただ強く思った。
――もう離したくない、と。
ただただ強く、

そんなことを、思う。

―― End ――
2006/02/15UP
もう離さない / ラブラブな5つのおだい_so3フェイト×ソフィア_
OFP
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離 [もう離さない]
[最終修正 - 2024/06/14-16:23]