許してくれるなら、もしも許してくれるなら。
きみを望んでも良いだろうか。
きみが望むなら、僕は王子にだってなってみせるから。
僕の望みを、きみに叶えてもらいたい。
「ソフィア、どうだい?」
「いらないってば。しつこいよフェイト」
……そうだったかな?
つんとそっぽを向いた幼馴染の少女に、フェイトは小首を傾げた。片手には空のグラス、反対の手には中身が半分ほどの酒瓶。決して弱くはないそれを瓶半分一人で呑んだのは彼で、それだけ呑めば当然酔う。視界がぐらぐらする。
ぐらぐらしている視界にグラスを満たして、一口含んで考えて、
――酔っているせいだろう、自分が一体何を悩んでいたのか瞬間彼は見失った。
現在地、エリクール。
ここしばらく真面目に動きすぎたのだろう、メンバー一同なんだかどことなく疲れていて。こんな状態では今後いろいろ支障が出そうだと、フェイトがリーダー権限でもって三日間の休養を決定した。
青髪の女参謀他から不満の声が上がったけれど、その本人からして癒しきれない疲労に顔色がおかしくて。
だからもう決めたからの一点張りで、フェイトがワガママを押し通した。
その休養日の初日。
各自用があるとか我を通した彼の顔を見たくないとかその他の理由で。前日まで泊まっていたその宿に、今はパーティリーダーの彼と幼馴染の少女しかいなくなっていて。
やることがないからという理由で昼間から呑みはじめたフェイトが、へらへらと笑う。
「これは甘いよ? マリアのお墨付き……うん、甘い」
「何度も聞いたってば。フェイト、呑み過ぎだよそんなことも覚えてないの?」
「うーん、覚えているようないないような……」
「大体、わたしはまだ高校生なんだから。未成年なんだから。堂々とお酒呑んじゃいけないんだよ?」
「こっそりとなら良いだろ。
ここはエリクールだし今日は誰かに見つかる可能性なんてないし。僕とソフィアが誰かに言わなけりゃそんなことバレないし、僕は言わないし、ソフィアが言わないなら誰にもバレない」
「そんなこそこそしたこと、しなくないですよーだ」
ベーっ、とばかりに舌を出されて、そんなソフィアがかわいいと、酔った頭にフェイトは思った。
――色ボケと笑いたければ笑えばいい、ソフィアはかわいい。世界一かわいい、宇宙一かわいい。
そのかわいいソフィアに、フェイトは笑いかける。
「呑めよソフィア。くらくらして楽しいし、お前の口に合うと思うんだ。この酒甘いし」
「しつこいってば!!」
――怒った顔もまたかわいい。
酔いの回りきった頭でフェイトは真剣に思う。
「昔のことなら謝るからさあ。呑もうよソフィア、一人は僕、淋しいよ」
「どの口が言うのよ。フェイトのバカ。大体昔のって、どのこと謝るつもり?」
――ふくれてそっぽを向いた顔だって、ソフィアはどんな顔をしてもかわいい。
いつの間にか空いたグラス、ふちをなめながらにやにやとフェイトは思う。
――嫌なら、この部屋から出て行けば良いのに。
――メンバーが減ったからと他の部屋は引き払ってしまったけれど。
――だったら宿屋にいなければいい。
――たとえば工房とか、他のメンバーの誰かも確か行くとかいっていた。
――他に行くところがあるのに、こうして同じ部屋にいるということは。
――少しは自惚れてもいいのかな。
酔ったフェイトの頭が思う。
――ソフィアが大切でいとおしくて好きでたまらない自分の気持ちが、
――少しは通じているのかな。
自惚れにそう思う。
――照れくさくてどうしようもなくて。
――大袈裟に、芝居がかった軽薄な「好き」の連発しか言えないけれど。
――どこかで見た演劇のマネゴトの、大げさで芝居がかった態度しかとてもとることができないけれど。
――少しは本気が通じていればいい。
――思う気持ちは本物だと、通じていたらいい。
「……ソフィア」
「呑まないってば」
「抱きしめて良い?」
軽い調子で訊ねたなら、暇つぶしにだろう何かを縫っていた彼女の手が止まって。呆れた目を彼に向ける、その頬がけれどみるみる赤くなる。
「……バカ」
「本気なんだけどなー。ほら、別に変なことする気はないし」
「抱きしめようってそれだけで変なことじゃない」
染まった頬が愛しくて、酔った頭は難しいことを考えられなくて。瓶とグラスを適当に置いて、さあ、と大きく手を広げてみる。
さっと目を伏せてさかさか手が動いて、けれどそんなソフィアの頬が真っ赤になっているのににやりとする。
「ソフィアちゃーん? 呑めって言わないから、抱きしめさせて??」
「フェイトのバカ!」
罵倒されるけれど、気にしない。酔った頭に気にする余裕はない。
ソフィアをいとおしいと思う心でいっぱいで、それ以外を考える余裕なんて。
――本当は、甘いモノ全般が苦手で嫌いで。
――だけどひょっとしてソフィアが呑んでくれるかも、などと期待して甘い酒を無理して呑んで。
――酔ったせいではない、甘ったるい重ったるい気持ち悪さが胃のあたりにわだかまっていて。
――もしもソフィアが抱きしめさせてくれるなら、ついでに口直しをしたいと思う。
――どうせ甘いものを口にするなら、酒よりもソフィアが良いと思う。
――嫌がられたら、無理強いはしないけれど。
――絶対に、しないけれど。
――許してくれるなら、もしも許してくれるなら。
――きみを望んでも良いだろうか。
――きみが望むなら、僕は王子にだってなってみせるから。
――僕の望みを、きみに叶えてもらいたい。
他でもない甘いきみを、
いつくしみたい、いつくしませてほしい。
「……ソフィア」
――好きだよ?
うつむいた彼女の顔は、きっと今どうしようもなく真っ赤なのだと思う。
前髪からのぞく頬に、酔ったフェイトはぼんやり思う。
大きく広げた彼の手に、誰より愛しい彼女が。
――やがてゆっくり立ち上がる。
