ちゃんと生きていて、良かった。
わたしが力を貸したことで、ちゃんと生き返って、
生き返ってくれてお礼を言ってくれて、それが。
それがとても、とても――嬉しい。

―― 倒 [見えないところで倒れてた]

その日は、なぜかパーティの自称保護者、クリフの姿を見なくて。朝――はまあ、起こさない限りいつも遅いので気にしなくて、昼も朝のかねあいでたとえ見なくてもいつものことだった。
けれどそのまま午後いっぱい、一度も彼の姿を見ないのはおかしい。夕食の時間になってもテーブルに彼の姿がないのはおかしい。

誰に訊ねても、知らないという答えしかなかった。知らないけれど、まああいつのことだからほっといても平気だろうという答えしかなかった。

いつもならうっかり納得していたかもしれないけれど。
その日のソフィアは、なぜだかクリフの不在が気になって気になって気になって。

◇◆◇◆◇◆

「……!? く、クリフさん!!??」
だからせめて、宿と工房あたりだけでもと捜しに出かけて。陽もすっかり落ちてこんなに暗い中、彼女が外に出ようとするのにあからさまに眉を寄せたメンバーにも気付いていたけれど、それでもやはり捜しに出たくて。
宿の、彼女の出入り可能なところにはどこにもいなかった彼が。
工房の、それもすみの方にひっそりとノびている姿を発見したのは――発見することができたのは。虫の知らせ、とか、たぶんそういった種類の何かが働いたのだろうと、あとになってソフィアはそう思う。

ともあれ。
――何があったのだろう、とか。
そんな原因になど悠長にかまっている余裕なんてなかった。
ひょっとして調合か何かで変なものを混ぜてしまって変な気体が彼の倒れているあたりにわだかまっていて、そうするとあわてて駆け寄ったソフィアにも危険があったのかもしれなかったけれど。
そんなことを思い付く余裕さえどこにもなかった。

◇◆◇◆◇◆

「クリフさんクリフさんクリフさん! しっかりしてくださいクリフさん!!??」
大声でわめきながら駆け寄って、揺り起こそうとする寸前、頭に怪我をしていたらそれは危険だと何かがささやいた。それもそうだと思ってしまったのでそうすると揺り起こすわけにはいかなくなって、迷いながら筋肉におおわれた肩のあたりをぺしぺし叩いて。
そう一度大きな声で、
「クリフさん!?」
「……」
ぴくりと眉が動いて、何だかけわしい顔が少しだけ動いたような気がして。よくよく見たなら少なくとも胸は上下していて――つまりは呼吸をちゃんとしている。ちゃんと、生きている。
気付いた瞬間安堵に大きく息を吐いて、もう一度ぺしぺしやりながら、
「クリフさん!! 大丈夫ですか何があったんですかわたしにできることありますかねえクリフさん!!??」
――まるで悲鳴のような声だ、と頭のどこかが冷静に呆れて。
「……く……っ」
今度こそ気のせいでも何でもなくて、クリフの額の縦じわが、深くなる。

◇◆◇◆◇◆

とりあえず解毒の呪文を唱えたなら、白かった顔色が目に見えて血の気を取り戻した。
安心しながら今度は治癒の――体力回復の呪文をかけて。
ばちっと開いた目に、ちょっとびっくりする。
「クリフさん、あの……大丈夫ですか……?」
――そういえばこれが病気か何かのせいだったなら、治癒の呪文なんてかけたなら逆にマズいことになっていたかも。
思い付いたことに青くなりながらおどおどと話しかければ、霞がかった青が彼女の方を向いて、曖昧だった焦点がちゃんと調整された。
「嬢、ちゃん……?」
「クリフさん……よかった」
掠れた声に安心したなら、何度も瞬きながら思い切り顔をしかめて――本当は飛び起きたかったように見えたけれど、結局はゆっくりと起き上がる。
「あの、大丈夫ですか……? 治癒の呪文なら、」
先ほどの思い付き、風邪だったらどうしようと熱を計るために彼の額にてのひらを押し当てて。おとなしくソフィアのなすがままになりながら、やがてクリフがぼそりと、

「……くそっ、あいつら……!」
「あいつら?」
――熱は、ない。
それに安心して、ただ吐き捨てるような声にわけが分からなくて瞬けば、ぐるりと向いた青い目がなんだか困ったように、
「……あの?」
「あー、つまりだな……」
彼にしては珍しく、なんだかぼそぼそと、

◇◆◇◆◇◆

「ちょっと何考えてるのよフェイトのバカ! マリアさんも!!
クリフさんになんであんなひどいことして、しかもほっといたの!?」
ばたばた宿屋に駆け込みながら大きな声で罵倒する、彼女にしては珍しい姿に。なじみになった宿屋の受付の人が目を丸くしているけれど、そんなことにかまっていられない。
ロビーでゆったりくつろぎながら何ごとか談笑していた青髪の男女がさっと目をそらせたのに、ずかずかぷんぷんと怒りながら大またで近付く。

――マリアとフェイトがな……なんだかオレの限界を見てみたいとかなんとかほざきやがって、
――アルコールを濃縮圧縮したやつを、よりにもよって静脈注射してくれたんだよ。

「あんなことしたら、いくらクリフさんでも死んじゃうかもしれないでしょう!?」
「――あ、生きてたんだ。良かった良かった」
「倒れてびくびくしている姿見たときにはさすがにまずいと思ったけど。……さすがクリフね、不死身だわ」
「感心するようなことじゃないでしょう!! ていうかそんなことしておきながらさっき知らないなんて言って、人の生命に関わるような嘘、吐くんじゃないわよちょっと聞いてるのフェイト!!??」

――あー、さすがに三途の川を見たな。
――嬢ちゃんの解毒がもう少し遅かったら、ヤバかったかもしれないなあ。

「……いや、そんなに怒鳴らなくてもほらオレはこうして生きてるわけだし、……嬢ちゃん?」
「死んじゃってたらどうするんですかそんな呑気に笑っている場合じゃないですよクリフさんもちゃんと怒ってください!!」
「……自分よか怒ってる人間見ると、ほら、怒りって削がれるもんなんだよ」
「そんないいわけはいらないです!
フェイトもマリアさんも、ちゃんとクリフさんに謝ってくださいもうこんなこと二度としません、って!!」

宿屋に駆け込んできたソフィアとは対照的に、もうすっかり回復しながらのんびり戻ってきたクリフが苦笑している。他の人間にはともかく幼馴染には容赦のないソフィアが小さな手で彼の襟首をつかみ上げてがっくんがっくん揺さぶりながら。
わめくその脳裏に、ただあるのは。

――助かったぜ、嬢ちゃん。
――ありがとな。

つい先ほどまで死にかけていたくせに。そんなこと微塵も感じさせない、笑顔。

この頬が熱いのは、きっと怒っているせいだと、怒鳴っているせいだと。思いながら、けれどソフィアの心は喜びで浮ついている。

◇◆◇◆◇◆

――ちゃんと生きていて、良かった。
――わたしが力を貸したことで、ちゃんと生き返って、
――生き返ってくれてお礼を言ってくれて、それが。
――それがとても、とても――嬉しい。

「聞いてるのフェイト! 謝りなさいってば!!」
「……ええと、今酸欠か何かで泡吹いているけど……」
「じゃあマリアさんがまず謝ってくださいあとでフェイトにはちゃんときっちり謝ってもらいますから!」
「落ち着けって嬢ちゃん。いや、怒ってくれるのはありがたいんだけどよ?」
「呑気に笑ってちゃダメですってばクリフさん!!」
わめきながらそれでも。
ぽふりと頭をなでられたことがソフィアには嬉しかった。
怒っている心の、けれど裏がわは。

いろいろな嬉しさに、揺れている。

―― End ――
2006/02/27UP
見えないところで倒れてた / 5題 Number02_so3クリフ+ソフィア_
OFP
中国語・無断転載禁止 ハングル・無断転載禁止
倒 [見えないところで倒れてた]
[最終修正 - 2024/06/14-16:33]