たとえばそれはきっと、
時間経過でしか癒すことのできない傷。

―― 況 [なんだこの状況]

身体中が痛くて目が醒めた。瞬いたならクリフの顔がまず見えた。
驚いてまずは身を起こそうとしたなら。
がっちりと彼に抱きかかえられている自分を確認する、そんな彼に馬乗り状態の自分を発見する。クリフはどうやら気を失っているようで、そんな彼にさえこうして抱きかかえられては身じろぎさえ満足にできなくて。
驚きのあまり、舌がこわばって声さえ出なかった。
驚きのあまり脳みそが凍り付いて、何をどうすればいいのかまるで思い付かなかった。

――どうしよう。
――そもそも、一体、何が……?

パニックが、ああ、まともにモノを考えることさえ邪魔をする。

◇◆◇◆◇◆

「……く……あ゛ー、ってえ、……何だ……?」
身体中ばらばらに引きちぎられるような痛みに顔をしかめて、それで気を失っている自分に気が付いた。眉を寄せて目を開けたなら、まず見えたのは栗色の髪の少女。

――?

どうやらわけが分からないのは彼女も同じらしく、めいっぱいの困惑顔で、まったく力の入っていない腕がそれでも身体をつっぱろうと、

……おや?

目に映したモノを、ようやく動き出した頭がその内容を理解しはじめた。
自分は仰向けになっていて周囲はどうやら狭い場所で、ソフィアを腹に乗せていてそんな彼女を他でもない自分が押さえ込んでいる――自分の胸に、まるで押し付けるように、

――なんだこの状況。

分からなくて、丸きりわけが分からなくて。

……何が何が何が、

ロクに働かない頭をなんとか動かして、無理やり動かして記憶をたどる。

……ええと……?
…………ええと……??

「……あ」
上げた声に、それまで彼が目を醒ましていたことにさえ気付いていなかったのだろう。ソフィアがそれこそ驚愕全開の顔を、がばっと音さえしそうな勢いで、上げる。

◇◆◇◆◇◆

ここは惑星ストリームで、地殻変動というか大きな地震が頻発した結果周囲の地盤は脆く崩れやすくなっていて。
今まで闘いに無縁だった彼女が、そうそう他メンバー並みの基礎知識やら身体能力やらを持っているはずがなくて。
確かに忠告はしておいた。けれど結果は。
うっかりなのか気付いていなかったのか。崩れやすい地盤に見事に間違えてソフィアが乗ってしまって、当たり前のように脆くなっていた岩盤は崩れて、足元がなくなればその上に乗っていたソフィアも物理法則にしたがって一緒に落ちていく。
きっと反射的に全員が同じタイミングで、そんなソフィアに手をのばして。
身体の大きさの関係がきっと大部分、届いたのはクリフの手。けれど引き上げるには彼の足場も悪かった。
ので、一緒に落ちながら彼女をかばった。

いきなり唐突に思い出したそれを、ゆっくりソフィアに話して聞かせることで自分も耳から説明を聞く。
――なるほど。
分かってしまえば身体の痛みも当然で、彼女を抱き抱えているのも当然で。自分以外の人間をかばいながらも双方大怪我しなかったのは、実力だろうかはたして偶然だろうか。もしかしたら単なる強運だったのかもしれない。

……大怪我、してねえよな……?

確認してばたばた身体中を探って、真実怪我をしていないとようやく納得した。
そんな彼を見て、不安そうだったソフィアの顔もやわらかくなってそれにもほっとする。

◇◆◇◆◇◆

「……で、だ。ええと、嬢ちゃん少し待っててくれるか。メンバーの目の前で落ちたんだ、いくらなんでも捜してくれてるはずだから、」
「いやです!」
「?」
「!!」
クリフの言葉を遮っての悲鳴のような声に、誰よりソフィア自身が驚いていた。
元いた場所とは高低差があって、けれどごつごつしていて、体力その他のしっかりしている彼なら確かにのぼることができるだろう。彼一人ならのぼることができるし、一人でのぼることのできないソフィアはお荷物だし、さすがのクリフもそんなソフィアを抱えてのぼるなんて芸当はできない。
でも、だからといって二人仲良くこんな場所で、いつとも分からない救助を待つ余裕なんてないのだ。

分かっている、頭では分かっている。けれど口から上がったのは悲鳴のような拒否の言葉、今は、
――今はがたがた全身が震えている。

……なぜ。

分からない、まるでわけが分からない。
困惑するしかないのに、手がしっかりとクリフの服を握っていた。いつの間にか握っていて、はなそうと思っても手は動かなかった。
分からない疑問がまたひとつ増えて、混乱から涙が出そうになって。
そんなソフィアの頭をぽふりとたたくようになでたのは、当然、

◇◆◇◆◇◆

「……ああ、そういやこの前までとっ捕まってたんだよな、サメもどきに」
「え、あ……」
「一人で置いていかれるのが不安でしょうがない、か。……まあ仕方がねえやなあ」
「その、……あの、」
「それじゃ仕方ねえよな。フェイトたち信用して、しばらく待ってみるか」
「クリフ、さん……?」
「ああ、気にすんなよ? 大丈夫大丈夫、なんとかなるって」
にかりと笑顔、それを見てぶわりと浮かんだ涙の珠。
不安をほぐして苦笑気分を高める彼に、感情豊かで感受性が高くて涙もろい多感な少女。

――心に負った、見えない傷を。
――時間経過でしか癒すことのできない傷に。
気が付いて許して、包み込むやさしさに心が揺れて。すがり付いて全面に頼ってくれる存在に、知らず心が揺れて。

◇◆◇◆◇◆

遠く二人を呼ぶ声がした。スペースの関係上密着状態からそれ以上どうにもはなれられない二人は、
そんな状態で、ただ。

安堵の心と一緒に、ほんのひとすじ――もう少しこの状況が続けばよかったのに、と。
そんなことを、思っている。

―― End ――
2006/03/18UP
なんだこの状況 / 5題 Number02_so3クリフ+ソフィア_
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況 [なんだこの状況]
[最終修正 - 2024/06/14-16:33]