どれほど素直なのか、
心はきっと言葉のはしばしにいつだってにじみ出ている。

―― 言伝 [さりげない言葉が]

「……おや、珍しいこともあるものですね」
「んだよ、おれが何してようとおれの勝手だろ」
「それはそうですけどね。武器の手入れ、ですか。……以前のあなたならこういう細かなことは、まず人任せにしていたでしょうに」
「自分の使う武器くらい自分で管理するのが普通ってやつじゃねーか」
「ははあ、察するに誰かの入れ知恵ですね。ま、がんばってください」
「ジェイド、あんたな!!」

ごそごそやっている気配に何ごとかと思って覗き込んで、納得して、散々からかったあげくジェイドは彼に背を向けた。しばらくぶつくさ続く文句を背中で聞き流して、やがて諦めたらしいことを感じ取って何気なく顔を向ける。
彼へ向けた文句はどうやら諦めたにしろ、どうやらまだまだ気はおさまっていないらしく、口の中でぶつぶつもごもご続けている青年。その中に彼女の名前を何回か聞いて、これはこれはどうもご馳走さま、などとジェイドは声に出さずにつぶやいた。

◇◆◇◆◇◆

もともと会った当初からそれらしい兆候はあったものの、髪を切ってからのルークの言葉には実際ティアのことがよく出てくる。分かっていないのは気付いていないのは、確実に自覚がない彼本人と、意外とというかことこういった面にだけか、驚くほどに鈍い彼女本人だけだろう。
最初の方こそつつくと面白いかもしれない、と思っていたものの。やがてあまりに鈍感な当事者たちにいっそ馬鹿らしくなって、たとえばジェイドさえそこを指摘するのはやめることにした。
……というか、ひょっとしたらこれはある種の惚気なのだろうか。

何をしたところでもう二度と取り返しのつかない、それほど大きな罪を引き起こした彼。本人には責任がないものの生真面目な性格から、背負わなくてもいい後悔を背負う彼女。
背景はひょっとしたらシリアスかもしれないのに、実際二人と接しているとそんな認識はものの数秒で頭の中から消し飛んで、やがて出てくるのはやれやれという――けして悪い意味ではない、呆れの吐息だけになる。
見ていて微笑ましくはある、もどかしくなることもある。けれど口出す気は起きないし、たとえ起きたところで実際に口を出したところで、それで二人の何が変わるとは思わない。
時間さえ状況さえ許すのなら、多分そのうちこの二人はくっつくだろうと確信めいたものがある。どちらかが想いを自覚したなら、ひょっとしたら事態は急展開するかもしれない、その可能性はかなり大きいと思う。
ここのところさらに顕著に頻繁に言葉の端々に出てくる互いの想い人の名は、もしかしたらその発露なのかもしれない。

彼の中に、未熟だったころの愚かな自分の姿を見た。呆れても呆れても突き放さない彼女の甘さは、きっと美徳なのだろうとはじめて自発的に思うようになっていた。
けれど恋も愛も、本当のところ分かっていない自分には。
きっとこれから先も、多分一生理解することのない自分には。
……いや、たとえこんな自分でない誰かだとしても。
ことこういった面に関しては――見守る以外、することがないのだろう。できることがないのだろう。たとえ何かをしてやりたいと思っても、あるいは何も思うところがなくても。
思うことができなくても。

◇◆◇◆◇◆

「ティア? あとで気が向いたらちょっとルークを見てやってくれませんか。
武器の手入れをしているらしいんですが、あれでは時間がかかるだけでいつまで経っても終わらない」
「ルークの……? 分かりました、これがもう少しで一息つくので、そうしたら。
でも大佐、気付いたのなら……」
「ちなみに私は気が向かないので口出しするのをやめたんです。あなたも、別に無理にとは言いませんから。
――まあ教えられる方だって私よりあなたの方が嬉しいでしょうし」
「大佐っ、からかわないでくださいっ!!」
「いえいえ心外ですねえ、からかってなどいませんとも」
「……っ!」

瞬時にかぁっと耳まで赤くなった彼女が、ぱくぱく口を動かしてそのうちふいっと彼に背を向けた。多分怒りはルークにぶつけるつもりなのだろう、大またで早足で歩いていく細い背中にジェイドは笑みに似た息を吐く。
「……似たもの同士、なのでしょうね。まったく二人とも素直この上ない」
そんなことをつぶやいてみる。

どれほど素直なのか、
心はきっと言葉のはしばしにいつだってにじみ出ている。

◇◆◇◆◇◆

そしてきっと身に覚えのないことを怒られたルークが、きっとムキになって二言三言何かを言い返していた。そのまま見ていれば予想通りに口喧嘩に発展して、けれど何のきっかけだったのか、気が付けば二人は気まずい心のままの苦笑に似た笑みを浮かべていて、見る間にそれは本物の笑顔に変わっていって。

特別なひとに呼ばれる自分の名はきっと特別なものに聞こえるのだろう。ただ名前を呼び合う、それでさえ想いを深めることになるのだろう。
実体験したことはなかったし、多分これから先だってすることはないと知っている。
それでもそれはそんなものなのだと、知ってはいる。

だからジェイドはひそやかな笑みを浮かべて二人に背を向けた。

――くっつくならとっととくっついてしまえ、
きっとこの心は、そんなことを思っているのだろうと冷静に分析してみる。

―― End ――
2006/08/22UP
さりげない言葉が / 安心をくれる人へおくる5題_toaルーク×ティア_
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言伝 [さりげない言葉が]
[最終修正 - 2024/06/14-16:35]