焔というよりも血のような色の髪、鋭い印象の強いあの目。
――あいつは今、何を思っているのだろう。

―― 想念 [あの人を想う]

ケセドニア、砂と物流の街。最後の戦いのための最後の小休止に、あまり深くは考えていなかったはずだけれど、ガイはキムラスカがわの港に向かっていた。
港は世界中どこでも港で、特に国が同じだからか、そこはバチカルのあの港とよく似ていた。沈む夕日に凛と立つ背中、オレンジに染まる視界にそんなことをふと新発見する。きっとだからこそ彼女はこの場にいるのだと、そんな風に思って、自分はそんな彼女を捜しに来たのだろうかと自問して、
「……あの馬鹿」
そして彼は小さくつぶやいた。

つらい思いをしてつらい出来事をいくつも乗り越えて、それでも変わらず王女のナタリアを、どこまでも凛とまっすぐな強い彼女をアッシュは護りたいのだろうと思う。すぐ近くで、あるいは遠く離れても。
たとえ自身の生命にかえても、彼女を護ることができるならアッシュは本望なのだろうと思う。
今彼が世界を護ろうと必死になっているのは、彼女が生きる世界だから。国も民も大地も世界も、彼のすべてはナタリアを中心に回っていて、幼いあのころから、そして今でもきっと、それはまるで変わっていないのだろうと思う。
想いはどこまでも純粋で。
透き通るようなそれは心地よいもののはずなのに、

……けれどナタリアはそんなものを求めていない。ガイはそれを知っている。

◇◆◇◆◇◆

一緒に育ってきた。
歳の近い同性の世話役として、出会った当初すでに王族としての自覚が芽生えていたアッシュを、ずっと間近で見続けてきた。従姉弟として婚約者として彼のそばにいたナタリアとも、そうだ彼はずっとずっと一緒に育ってきた。
自分より幼いくせに、あのころから自分を押し殺して、周囲の期待に応えようと努力をしていたアッシュを知っている。そんな彼を誇りに思って、誰よりも彼にふさわしくあろうと、努力をしていたナタリアを知っている。
子供なのに子供らしくない彼が嫌いだった。一族の仇をそのままミニチュア化したような彼が、だから嫌いだった。けれど嫌っていたからこそ彼を見続けて、アッシュが――当時はルークだったけれど、彼がこのまま王になったらキムラスカはさぞや栄えるだろうと思っていた。そんな彼にナタリアが寄り添っていたなら、この国はきっと道を間違えたりしないと分かっていた。
あの誘拐のあと、別人のようになったルークに対する思いとは違った意味で。
今思い返したならあのころからきっと、自分は本当に仇を討つべきか迷っていたと思う。

子供なのに子供らしくない彼が嫌いだった。
自分以外の誰かのために自分を押し殺す彼が嫌いだった。
間違っていないかもしれない、けれど正しくもない自覚がない彼が嫌いで、
今だってこれほど一途に想っているナタリアを、これほど哀しませているアッシュが嫌いで。
嫌ってはいないけれど憎んではいない、憎ませてはくれない彼が大嫌いで。

◇◆◇◆◇◆

――ナタリアが哀しんでいるぞ。
――おまえの大事なナタリアが、おまえのせいで哀しんでいる。
――そばにいてやれよ、哀しませるなよ。
――彼女の笑顔を想うなら、おまえが彼女を笑わせてやれよ。
――そばにいて、ちゃんと護ってやれ。
――護られなくても強いナタリアだけど、折れそうな強さをおまえが支えてやれ。
――他の誰にもできない、おまえにしかできない。
――分かってるのか、アッシュ。
――ナタリアが泣くとしたら、きっとそれはおまえに関することだけなんだ。

夕焼けの広がる空、ルークの、アッシュの髪の色。金よりも赤が強い空に、今彼にこの細い背を向けるナタリアが想っているのは、きっとアッシュのことだろう。
世界のことよりも、きっと今は、今だけは。
この空の色の髪を持つ、あのひねくれ者のことを想っているのだろう。

◇◆◇◆◇◆

焔というよりも血のような色の髪、鋭い印象の強いあの目。
――あいつは今、何を思っているのだろう。

そんなことを思いながら、ただガイは歩を進めた。
いまだに触れられないけれど、もしも手をのばしたなら彼女に触れることができる距離まで、

……あと、ほんの数歩。

―― End ――
2006/08/29UP
あの人を想う / 忘れられない人へおくる5題_toaアッシュ×ナタリア_
OFP
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想念 [あの人を想う]
[最終修正 - 2024/06/14-16:39]