幼いその目が。
けれど生よりも死を見つめていることを知っていた。
生きるためではなく死ぬために生きていると、あの目はそう思わせた。

―― 決戦 [決着のあとには]

「最期まで導師を呼んでいたらしいよ」
「……そうか」
鮮やかな色の髪の少女の死を、聞いた。導師をえさに散々利用した立場でその死を悼んで良いものか、そんなことに悩みながら、報告した導師と同じ顔をした少年にうなずいた。
彼はすぐにくるりとヴァンに背を向ける。

その背に――ふと問いかけていた。

◇◆◇◆◇◆

「おまえは、この闘いが終わったあとどうするつもりなのだ?」
いつか、たわむれに少女に訊ねたことがある。無垢な紅い目は一度きょとんと瞬いて、そしていつものぬいぐるみに顔を埋めた。
「アリエッタは、分からない……アリエッタは、イオンさまのそばにいられればいい」
それは、その言葉はまるで。導師が死んだなら自分も死ぬと、導師がいない世界で生きている意味はないと。まるでそんな風に言っているようで。
まっすぐな無垢な目は、そのまままっすぐ己の死をさえ見つめているようで。

少女を拾ったのはヴァンだった。導師に引き合わせたのも彼だった。
少女にとってきっと人生を変えた二つに、彼は関わっていて。だからすべてを分かっているなんていうつもりはなかったけれど、彼の知らない目に、深淵を無邪気に覗き込むような少女にぞくりと肌があわ立った。

結局はあの問いに意味はなかった。なくなった。
闘いが終わる前に導師は死んだ。レプリカの導師は、レプリカと少女に知られることなく消え失せた。
闘いが終わる前に少女は死んだ。導師の死を受けて彼の元を離反して、離反したままこの世から去った。
問いに意味はなくなり、答えに意味はなくなった。

――けれど仮にこの闘いに生き残ったなら。彼女は何を思い、どう生きただろう。

◇◆◇◆◇◆

「おまえは、この闘いが終わったあとどうするつもりなのだ?」
そして、ただただ預言を憎み、第七音素をこの星から消すことのみを求めてきた少年は。望みがかなったあと、どう生きたいのだろうか。
彼の言葉に何を思ったのか、ぴくりと肩を震わせると立ち止まる。
「考えてないよ、そんなこと。ヴァン、アンタには悪いけどボクは未来なんてどうでも良いんだ。人が滅びようと星が壊れようと、それだってどうでもいい。
過去のためにむざむざ生きてきたんだ、未来のことなんか考えてない」
「では、仮に考えてみろと言ったなら?」
「無理だね」
振り返る気配はなかった。顔は、今は仮面に隠されていないその顔はきっと振り向きさえすれば見られただろうけれど、少年はそれを知ってか知らずか結局振り向かなかった。
けれど多分、嗤っていたとは思う。
昏いくらい深淵をかためたような、あの被験者の導師の虚無をさらに濃密にかためたような、あの昏い目で。昏い笑みで。

幼いその目が。
けれど生よりも死を見つめていることを知っていた。
生きるためではなく死ぬために生きていると、あの目はそう思わせた。

それは、きっと間違いではなかったのだろう。

◇◆◇◆◇◆

「……シンク、おまえも死んだのか」
いや、消えたというべきかもしれない。
風の中に、もう聞くことのない彼の揶揄の声を聞いたような気がしてヴァンは口の端をゆがめる。これで満足だろう? あるいは彼ならそんな風に笑ったかもしれない。

少女の死を知ってから、彼の抱える虚無はさらに深くなっていたように思う。気のせいだろうと思いながらも、他の仲間を喪うごとに、それ以上に、少女を喪ってからのシンクは本当に虚無のかたまりのようになっていた。
元から過去だけを見て、過去のためだけに生きていたような少年だった。
一瞬、少女と接しているほんの一瞬だけ、まるで光のきらめきのように生への実感を見たような気がしていたけれど、あるいはそれを知っていたからこそ少女の死にさらに衝撃を受けたのかもしれない。
生きていることが苦痛かと、訊ねたならそうだよと応えただろう少年。
死ぬことが救いになっていなかっただろうか、彼にとって死だけが唯一の救いになっていなかっただろうか。そう思うと、封じたはずの心の底の何かがずきりと痛みを知らせる。

結局はあの問いに意味はなかった。なくなった。
最後の六陣将として、闘いが終わる前にシンクは死んだ。虚無を抱えたまま虚無以外を見ないかたくななさは解かれないまま、結局は死んで、消え失せてしまった。
闘いが終わったらどうするとも応えなかった少年、過去のために生きているとただ応えた彼。
問いに意味はなくなり、答えに意味はなくなった。

――けれど仮にこの闘いに生き残ったなら。彼は何を思い、どう生きただろう。

◇◆◇◆◇◆

来なかった未来をそこで断ち切って、ヴァンはまっすぐに前を、この場に出る唯一の階段からあの赤い髪が見えるときを待つ。シンクが倒れたということは、その時はもうすぐそこのはずだった。
――この闘いが終わったなら。
多分全力で挑んでくるかつての弟子は、未来のために生きようと足掻いている。
幼いまま散った二人は過去しか見なかった、死ぬためにしか生きなかった。

ひょうと風が吹いて、悼む心は多分その風に散っていく。

―― End ――
2006/09/05UP
決着のあとには / 戦う人へ5のお題_toaシンク×アリエッタ_
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決戦 [決着のあとには]
[最終修正 - 2024/06/14-16:42]