そうして彼の目に。
にまり、いかにも小悪魔めいた笑みが向けられて。
「アニス! お疲れさまー。ありがとうね?」
「はいはいどういたしまして。フローリアンのおねがいには逆らえないなあ」
大盛況のうちに劇は終わった。本来のいたずら悪魔役のはずの子供も、ちゃんと楽しそうに、少しだけ悔しそうに劇を見ていたことをちゃんと知っている。
だからフローリアンは、もう何回目かも分からないお礼の言葉を、とびきりの笑顔と共にアニスに告げて。その回数と同じ数だけ、アニスの、大好きなアニスの困ったようなくすぐったいような苦笑によく似た笑みを返してもらっていた。
ぽかり、その笑顔のたびにフローリアンの胸に何かあたたかいものが浮かぶ。
やわらかくてあたたかくて、ああ、本当に本当にアニスが大好きだ、と。
そのぬくもりと、そう思うことができる、この心が。うれしくて、自分にそんな心を知らせてくれたアニスが、
「あーもーいきなり何やらせんのー! とかって怒ろうにもさ、フローリアンがそんなに喜ぶと文句も言えないよ」
「え? ……ダメだった??」
「重要な役どころだし台詞も振りも覚えることいっぱいで、しかもなーんのお金にもならないし。いつものアニスちゃんだったなら笑顔で蹴ってたね」
「……ぼく蹴られてないよ?」
「うん、フローリアンだからしょーがない」
慣れない劇がそんなに負担だったのか、笑顔のアニスの顔には少しだけ、疲労。
ふと気付いて罪悪感がむくむくわき起こるフローリアンに、けれどアニスの笑みは、確かにそれは多少疲れていたものでも、それでも笑みそのものは消えない。ずっと浮かんでいる。
「フローリアンだからだよ? おねがいされて、しょーがないなってそのおねがいかなえて、そんでこれだけ笑ってられるのは。フローリアンだからだよ??」
元から血色の悪くないそのふっくりしたほほに、なんだかさらにじんわり赤が広がるのは。
ますます彼の胸に同じ色のぬくもりを与えて、それを大きくして。
「アニス、大好き」
笑う彼女の手を、触れてみればこんなにも小さくて壊れやすそうな彼女の手を、両手でそっと取り上げた。大きな目をまっすぐに見つめて、ため息のようにささやくように、けれどはっきり声が出ていた。
ぱちくり、またたいて、
「――うん、知ってるよ」
ふわりとほほを染めてアニスが笑って。
心にあるこのぬくもりは、いつか心なんて小さな殻を破ってしまいそうで。――それもいいと思う、それがいいと思う。
アニスに、このぬくもりを見せることができるなら。
そうして彼の目に。
にまり、いかにも小悪魔めいた笑みが向けられて。
「でも、あたしがフローリアンを大好きって気持ちにはきっとかなわないから」
はっきりと届いた言葉、けれど盛大に照れているアニスに。
――この胸のぬくもりは、どこまで大きく育っていくのだろう。
思いながらフローリアンもにっこり笑い返した。
「負けないよ!」
「だーれに勝負ふっかけてるのかなー?」
そしてなんだか楽しくて同時にふき出して、二人、くすくすと笑い合う。
