きらきらゆれる、色とりどりの。
丸くて甘い、夢のかけら。
「あ、アニス! おかえりー!! 今度は長くいられる?」
教壇の扉をくぐって、とたん、静謐な建物にはあまり似つかわしくない心底明るい声が上がった。別に張っているわけはないと思いつつも、いつだって特にここ最近、ダアトに、ここに帰ってくるたびに彼女は真っ先にこの少年に出迎えられる。
悪い気分ではない、けれどどうにも気恥ずかしくて。
「フローリアン。……ダメだよっていっつも言ってるじゃん。いちおーここでは静かにしてなきゃあ」
「知ってるよ! アニス、それでいつまでいられる??」
「……分かってないじゃん……」
集中する教団員の信者の目線に、さすがのアニスもなんだかいたたまれなくなって。
「フローリアン、こっち」
ぐい、と手を引いたなら、たぶん勢いに押されたのだろう。意外と上背のある彼の身体がぐらりと揺れた。
そのまま引きずるように図書室とは反対がわ、一般信者には立ち入り禁止区域にずかずかと大またで歩いていく。我に返ってもしも踏ん張られたならそれにきっと逆らいきれないけれど、とりあえず彼はおとなしく従ってくれる。
ふっと振り返ったならむしろにこにこと、満面の笑みが浮かんでいた。
……これはこれでなんだかやりにくいなあ。
気恥ずかしい頭がそんなことを思う。
扉一枚で、一気にひとけが切れる。たったすぐそこなのに、人ひとり引きずるのは意外とけっこう疲れる。
少しだけ息を乱したアニスが振り返ったなら、そこにはやはりにこにこ笑顔のフローリアン。
――文句を吐く気力が失せた。
がっくり肩を落としてそのまま懐に手を突っ込んで、わくわくした無邪気そのものの顔に白旗をあげる。
「フローリアン、手、出して」
「?」
好奇心いっぱいの目がくるくるして、素直に出された両手に、アニスは取り出したものをそっと乗せた。
目がそれに落ちて、うわあ、と声が弾む。
「おみやげ」
「これ何? きれいなのがいっぱいある」
「んー。……単なる飴玉なんだけど」
この前エンゲーブに行ったときにおまけだともらったもの。両手に包み込むことができる程度の丸いガラス瓶いっぱいに詰まった、色とりどりの飴玉。
甘いものは好きだけれど、旅の荷物にはこれはかなり邪魔なので。
――もらった瞬間、速攻アニスの頭には彼へのおみやげにすることが決定した。
「エンゲーブって村の話はしたことあったよね? そこの村長のおばちゃんからのもらいもの。……もらいもので悪いけどさ、受け取ってくれると助かるなあ」
「たべもの?」
「そ、おかし。……まだ手をつけてないんだ、けどたぶん色ごとに味が違うはず」
「へー」
きらきらゆれる、色とりどりの。
丸くて甘い、夢のかけら。
――誰かにあげようと考えた瞬間、真っ先に浮かんだのは目の前の少年。
――思いついた瞬間から、ほかの誰にも渡したくなくなった飴いりのガラス瓶。
多分生まれてすぐザレッホ火山に棄てられた彼で。その後何とか生き延びて、他の世界を知らないまま教団につれてこられた彼で。
バカにするわけではない、ただ説明をしたほうがいいかなと。
「くるくるってふたを回してね、そうそう。食べてみて?」
「んー。……あ、甘くておいしい」
「ゆっくりなめてくのがいいよー。かんでもいいけどさ」
「アニスも?」
「うん、じゃあいっこもらう」
元から機嫌のいいフローリアンの顔が、にぱっとさらに笑顔になったから。
アニスも笑った。
――彼からもらったピンクの飴玉は、どこか懐かしくてやさしい味がする。
