たとえみえみえのうそにだって。
あなたになら、そのかわいらしい心に引っかかってあげてもいい。

―― 礼貌 [だまされてもいいかもね]

「たっだいまー、あれ、久しぶりじゃんフローリアン」
「あっ、アニス……!」
ローレライ教団の一角、タトリン一家に割り振られた部屋の前で。なにやらこそこそと部屋から出てきた少年に、アニスはにこやかに声をかけた。
びくりと大きくはね上がって、振り返った彼の顔には露骨な決まり悪さ。
部屋の前、廊下が曲がったあたりでそれを目にして、アニスの足がふと止まる。
「……? どしたん??」
「なっ、なんでもないよ!? あ、アニスに見せたいものがあるんだっ、ちょっとぼくの部屋に来てよ!!」
「ほえ?」
瞬いているうちにひょいひょい駆け寄ってきた彼にぎゅっと手をつかまれ、それはまるで引きずられる勢いで。アニスは来た道を引き返させられた。

◇◆◇◆◇◆

……多分タトリン一家のあの部屋に、サプライズ的な何かの用意でもしているのだと思う。
……用意はきっとまだ途中で、だから完了するまではアニスを部屋に入れたくなくて。
「……けどさあ、発案者で総監督がこんなとこにいちゃダメじゃんねー?」
「なっ、なになにアニス!? えっと、ぼく、」
宣言どおり彼の部屋まで連れて行かれて、果たして誰が教え込んだものか、ものすごく不器用な手つきだったけれどお茶が出された。アニスならもっとおいしく淹れられる、けれど心遣いの嬉しいそれをすすりながらぼそっとつぶやけば。
ぎっくん、大げさなまでに彼の背がはね上がる。
――アニスのいたずら心がうずうずと刺激される。
「フローリアンでしょ? あたしをここに連れてきたの。見せたいものってなに??」
「え!? ええっと、あっ、そっ、そうだったよね!!??」
ぎくぎく、彼女の言動にいちいちびくつく反応が面白い。一挙手一投足、全部を息をつめて見つめられたなら、くすぐったいけれど少しかなり嬉しいものがある。

にこにこ笑顔で見つめたなら、フローリアンはさらに動きが怪しくなって。目が泳いで声にならない声に口をぱくぱくさせて、ほほが赤くて薄く汗がにじんでいる。
……面白い。
……けれどさすがにかわいそうになってきた。

「どこかにあるの? 持ってきてくれる??」
「うっ、うんっ!! 分かったアニス、ちょっと待っててねっていうか待たせちゃうけどごめんね!?」
「はいはーい。楽しみにしてるから☆」
「取りに行ってくるねー!?」

◇◆◇◆◇◆

そしてまるで嵐のように彼がいなくなって。いきなりなんだか広くなった部屋にふっとため息をひとつ。
彼が淹れてくれたお茶を、すっかりぬるくなってしまったそれをアニスはずずっとすする。
「……ついからかっちゃったけど、さ」
つぶやいて息を吐いて、その先を声に出すのはやめる。

――たとえみえみえのうそにだって。
――あなたになら、そのかわいらしい心に引っかかってあげてもいい。
「さすがにそんなこと、独り言でだって口に出せないけどね?」

さて、それを見せられたらちゃんと驚かないとな、なんて思いながら。
お礼に、ほっぺにちゅーくらいはしてやってもいいかなとか。

そんなことを思って一人くすくすと笑った彼女の耳に、
ものすごい勢いで近づいてくる足音が、やがて届く。

―― End ――
2006/10/31UP
だまされてもいいかもね / 罠かもしれない6題_toaフローリアン×アニス_
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礼貌 [だまされてもいいかもね]
[最終修正 - 2024/06/14-16:45]