偽ることに、いつか慣れきった身には。
まじまじと見つめられる、それはそれだけできっとダメージになる。

―― 装假 [何が見える?]

いつかの火山で、いかにも怪しい自分は自覚していた。仲間たちが不審がっていることも、それでも彼女を愚かに信じて決して踏み込んでこないだろうことも。
あの、おそろしいほどに強く赤い目が、始終彼女を見据えていたことも。
自覚していた、知っていた。
分かっていた、甘えていた。
あるいは、踏み込んでくれるかも暴いてくれるかも、と、甘い期待をしていたことだって。その期待を知って、けれど叶えてくれないあの赤だって。
多分全部、分かっていた。分かってしまった。
そろそろ、限界なのだと。
この細い糸は今にもちぎれてしまいそうなのだと、その糸を踏む足は今にも踏み外してしまいそうなのだと。ちっぽけな自分のちいさなちいさな心は、どれほどおおものぶってみたところでしょせんちっぽけに違いなくて。
破滅はすぐそこにあるのだと。
悟らないでは、いられなかった。

◇◆◇◆◇◆

さくり、草を踏む音がする。さくさくとそれが近付いてくる。その気になったなら完璧に殺すことのできる気配を足音を、ふりまくようにしてわざわざ近付いてくる。
相手も、その理由もその意図も分かっていた。
だからアニスはトクナガを背中に膝を抱えて動かない。
もう何回もくり返された野宿の夜。渡る風は涼しいと表現するには少し厳しい、しばらくここにいれば肌はすっかり温度を奪われて、二の腕に立った鳥肌はおさまる気配がない。
「……風邪を引きますよ」
「アニスちゃんを馬鹿にしないでくださいよぅ。こう見えてちゃーんと鍛えてるんですから」
足音は気配は脇に立って、いつもの声が降ってきた。おちゃらけた返事をして、けれどアニスは声の主を振り仰がなかった。振り仰ぐことができなかった。
きっと確実に赤い目が待ちかまえている。にらむでも哀れむでもなく、ただただ待ちかまえている。
知っていた、だから動くことができない。後ろめたい身では、後ろめたいことを思い出した今は、後ろめたさを押し殺すことのできない今は。あの赤は、どこまでも見透かしてしまうあの赤は、とてつもなく怖いものだから。
「……アニス?」
「何ですか、大佐?」
静かな声に、間髪入れない返事。その声がかすかに震えていることに当のアニスは気付いていて、ジェイドがそれに気付いているかどうかは判別できない。

気付かないでいてほしいと思う。
気付いて、気付かないふりをしてほしいと思う。
気付いて、指摘をしてほしいと思う抱えているすべてを吐露するきっかけになればと思うそうして彼女を捕らえているあの「黒」から解き放ってくれればと。――思ってしまえばそんな風に動く相手ではないと思い知っていて、無様な自分に自嘲の笑みが漏れる。

悪いのは自分だった。
大切なひとがいて、大切なひとに仕えていて、大切な人を裏切っているのは自分だった。
全幅の信頼を置いてくれる仲間がいる、何かをすれば笑顔が苦笑が反応が返ってきて、居心地のいい仲間たちをこれ以上ないほど裏切っているのは自分だった。
理由はある、いいわけはある。けれど心の弱さは事実で、それを否定することはできない。今さらそれを否定したいとも否定できるとも思えない。そんな都合のいいこと、思いたくもない。

◇◆◇◆◇◆

「……大佐、ほら。星がきれいですよー」
「ほう、そんなに地面ばかり見ているのに、そこから星が見えますか」
「み、え、ますよ……ほら、アニスちゃん心がキレイだから。心のキレイなニンゲンには、地面にうつった星が見えるんですよ。大佐知りませんでした?」
「初耳ですねえ」
苦しいいいわけを、馬鹿げたでっち上げを。否定してくれない相手が、悔しくて嬉しかった。裏切り者の自分を誰よりも信用しないでいてくれる相手が、反発だらけの心で何より安堵していた。
どこまでも誰よりも冷酷で冷静な、悔しいほどいつだって自分のペースでいられる相手が。けれどそれでも今、自分と関わっていてくれている、事実が。

振り向けば赤を仰いでしまえば、その奥には果たして何が見えるだろう。
完璧な道化の仮面をかぶった自分を、そこに見つけてしまうだろうか。
泣きそうで、それでも泣くことができない自分の姿でも見つけてしまうだろうか。
死に瀕した老人のように疲れきった姿を、そこに見つけてしまうだろうか。

偽ることに、いつか慣れきった身には。
まじまじと見つめられる、それはそれだけできっとダメージになる。
望んで怖がって身動きが取れない自分は、

きっと誰よりも愚かで醜い。

―― End ――
2006/12/28UP
何が見える? / Desire10題_toaCP混合_
OFP
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装假 [何が見える?]
[最終修正 - 2024/06/14-16:49]