いつもそばにいることが、その喜怒哀楽を間近で見ることが。
「日常」になったのは、いつからだろう。

―― Ergreifen die Stern 2

たった今までクリフやミラージュとクォーク関連の小会議をしていて。さすがに「こちらに詰めっぱなし」だと処理することがたまるわね頭が痛いわ、などと思いながらマリアが女部屋を開けると。
なにやら元気いっぱいのソフィアとやけに意気消沈のアルベルと嬉しいやら淋しいやらの微妙なネルがいた。
――というか、女部屋になぜアルベルがいるのか。
……というのは今さら疑問に思うことではないけれど、だったらなぜソフィアまでここに、

◇◆◇◆◇◆

ぱちぱち瞬くマリアに、ありあまった元気そのまま駆け寄ってきたソフィアが。がしっと彼女の手を取った。
きらきらした目でぺらぺらと説明があって、
「――というわけでっ!
出発までの、今日――が残り少しですけど、それと明日まるまる!! アルベルさんがネルさんに触らないでいられるかどうか試してみようかなってっ!」
「……無理に決まってるでしょ」
――無駄な労力割くんじゃないわよ。
あまりの馬鹿馬鹿しさにマリアがばっさり斬り捨てると、それでもめげないソフィアがやはりにこにこにこと、
「わたしもそう思いますっ!」
……おい。
「ソフィア……あなたね、」
「思いますからちょっと考えましたっ!」
「?」
判断材料がさすがに足りなくて、マリアが少し眉を寄せる。にこにこソフィアはどこまでも嬉しそうに、
「この前ルイドおばーちゃん誉め倒してミスティ・リーアおねーさん誉めちぎって、三人でいろいろがんばってみたんです!」
「……何かごちゃごちゃやってたわね、そう言われてみれば」
「はい!!
そんなわけで試してみましたそのとき開発した!」
ばっと片手だけはずして、やはりどうリアクションをとるべきなのかどこか上の空の二人を示して、
「特製の催眠術です!!」
「……ソフィア。あなた知らないかもしれないけど、アーリグリフの大きな軍の団長とシーハーツの隠密よ。この二人。訓練の一環で克服してるはずじゃない催眠術なんて……」
マリアの言葉が途切れた。

――やけに意気消沈のアルベルと嬉しいやら淋しいやらの微妙なネル。

……まさか。
「……――かかったの……?」
あきれきった、いっそ哀れみさえ浮かべた沈痛な顔でマリアに見下ろされて。
「うるせえ阿呆……」
蚊の鳴くような声でアルベルが悪態を吐いて、そっぽを向いた。
――図星なのか。
「……こねくしょん、の効果をどうとかで……さすがに防ぎようがないよ、アレは」
ネルがフォローするようにつぶやいた。
改めて言葉にされて、アルベルががっくりうなだれる。

◇◆◇◆◇◆

「ええと、ルールの説明しますっ!」
いつの間にゲーム扱いになったのか、どうしてこうも元気なのか。むしろ生き生きと笑顔のソフィアがさらに輝きそうなほど極上の笑みで、
「この説明終わって、わたしとマリアさんが部屋から出た時点で開始です。ストレスたまってキレたら――というか、叫び声上げたらそれがわたしかマリアさんに聞こえたらアルベルさんとネルさんの負け、時間まで耐え切ったら勝ちってことで!」
「……術は解けるんだろうなクソ虫がっ」
「虫じゃないですっ、で、解けますよ。大丈夫です! でもわたしにしか解けません解き方知りません!!」
「――で、なんでいきなりこんなことを?」
「はい!」
冷静に訊ねるマリアに、ソフィアが無駄に元気良くうなずいた。何もしていないけれどどうしようもなく疲れきったネルはもう何も言う気力がなくて、ベッドに腰かけたまま目だけで少女を見れば、
――というか、あれ、あの書類ってどこやったっけ?
重要機密書類の行方に首をかしげて、ともあれソフィアを見れば、
「……ソフィア、それって確かロジャーの家にあった……」
「はい! 村長さんに頼んで借りてきました!!」
にこやかにソフィアが掲げたのは、年端も行かない子供向けの童話集だった。それも女の子用の。
その中で、少女が開いたページに載っていたのは、

「……「七夕伝説」?」
「そうです!
不思議ですよね地球にも似たような伝説あるんですよさすがに細部まで一緒じゃないですけど、大筋は同じなんです!!」
――たしか権力者の父親に言われるまま結婚した生真面目な娘が、やはり真面目と評判だった男と結婚したとたん、二人そろって遊びはじめて。再三の父の忠告も無視したので、とうとう怒った父親が二人を引き剥がした、とか。
そんな話だったような。
「で、これとそれとどんな関係があるのよ?」
「はい! 一年に一回だけ会うことを許された恋人にあやかって、「触れる」の大切さを心底思い知ってもらいたいなって!」
……「心底思い知る」のか。
ネルがちらりと見やれば、がっくりしていたアルベルがなんだかわなわなと震えている。
「……ああ言われたからってここでキレるんじゃないよおとなげない。
いい機会じゃないか、心底十分思い知りな」
「うるせえ……!!」
ネルの忠告の甲斐なく、アルベルがキレた。
「部屋を出たら」の条件上いきなり失格になることもなく、ただ一同ばたばたと部屋中駆けずり回るハメになる。
鈍足のマリアは狭い部屋を計算に入れて最低限度の動きでよけて、言いだしっぺソフィアが無駄にきゃーきゃーわめきながら部屋をひたすら走り回って。怖がっているんだか、喜んでいるんだか分かりにくい。
――というか、いくら腹が立ったとしても仲間相手に刃物を振り回すのはどうかと思う。

ネルはひっそりと息を吐く。

◇◆◇◆◇◆

「それじゃあ!」
「ま、せいぜいがんばることね」
逃がした。しとめそこなった。
先ほどの「催眠術」といい、自己嫌悪に陥りかけたアルベルはふとネルに振り向いた。
ぎゃーぎゃーやかましいわどたばた床まで揺れるわの騒ぎの中、まるで我関せずといった様子だったのは知っているけれど。現在はというと、先ほどのどたばたでソフィアが取り落とした本を、この騒ぎの元凶の話が載っているページを真剣に読んでいる。
「……何かあったか?」
――解決策とか、そのヒントになるようなこととか。
言いながら細い肩を包もうとして、けれど包もうとした手は自然に右腰に落ち着いていた。それはごくごく自然で、まるで違和感も疑問もなくて。けれどしようと思ったこととは違うから。
アルベルは改めて手を伸ばしてみた。今度は髪に手を突っ込んでばりばりやっていた。
何度試してみても、やはりどうにもならない。

たとえば何の道具もなしに、ひとが空を飛ぶことが不可能なように。たとえば何の術もなしに、ひとが壁を床をすり抜けることが不可能なように。
そんなレベルで「ネルに触れる」ことができない。

―― Next ――
2005/07/07執筆 2005/07/09UP
アルベル×ネル
OFP
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[最終修正 - 2024/06/21-11:15]