「……んだよ、まだ支度終わってねえじゃねえか阿呆」
悪態。いかにも面倒臭そうに息を吐いて、ぎろりとクリフをにらむ鋭い紅。今度のターゲットはアルベルだと、この際だからこれ以上ないほどに心を込めて言ってやろうと。そんな決意で彼に向き直ったマリアは、瞬間、確かに凍り付いた。

―― Aprilscherz 3

「……なに、あれ……」
「「万愚節」とか「揶揄節」とか、そういうつもりだった……」
呆然とつぶやけば、すぐそばで虚ろな告白。遠い目というか疲れた笑顔でもって、生暖かい目で「それ」を眺める養父の姿。
マリアは眉を寄せる。
「……馬鹿なことして笑われたい、って?」
「だってよお……誰もこんなになるとは思わねえだろ」
「……笑えないわよアレ」
「わーってる。でも時間もなかったし、身構えてるやつ相手に嘘言ってもなあ」
ぼそぼそと言い合う父娘をよそに、当初こそかなり凍り付いていたもののいつしか立ち直ったらしいフェイトが、どこか喜々としてクォッドスキャナーのカメラ機能をオンにした。
なぜかマリアにはそれは見えた。
「アルベルー写真とるから笑ってー」
「あぁ!? 何しやがるどっかいけこの阿呆!」
「……すごいわフェイト……」
「ある意味「勇者」だよな……」
マリアはこっそり拍手した。クリフはただ呆然としていた。
問題のアルベルの顔には、化粧が施されていて。――妙に似合っていた。
「……クリフとアルベル、二人まとめてクリア、かしら」
「バレたらオレ殺されるよな……」
この雨の中どうやら化粧品一式買い込んできたらしいクリフは。「何で適当に冗談でやったのにああなるんだ……」などとぼやいている。

◇◆◇◆◇◆

そうしてばたばたしているのに気付いたのか。
「全員そろったかい? あとは料理並べるだけなんだ、席についてくれ」
「…………あ?」
ひょい、と調理場から顔を出したのは、なぜかメイド服に着替えたネルだった。化粧をしたアルベルを見てさすがに一瞬驚いたものの、
「アルベル、あんたはこっち」
……なんでもなかったように、どころか笑みまで浮かべて彼の腕を取る。
上座に。
「ね、ね、ね……! ネルさてはお前混乱中か!?」
「回復アイテム……っ、ソフィア!!」
仲間になってだいぶ経つものの、いまだわだかまりを捨てられないはずのネルの、その行動に。むしろクリフとマリアが混乱状態に陥った。その二人の肩をがっしとつかんで、いつの間にか移動していたフェイトがぼそぼそと、
「「オール・フールズ・ディ」ての教えたんだよネルさんに。さすが隠密、演技派だよな」
邪気のない笑みを向けられて、アルベルが戸惑っている。そんな彼を強引に席につけて、そそくさと調理場にもどったネルが今度は大皿とパンかごなどを持ってくる。同じようにさらをかかえたソフィアが、こちらは事前に聞いていたのかネルの行動にまるで驚かないで、てきぱきと残りの席に皿を並べていく。
「フェイト、冷めちゃうよ」
「あ、うん。ネルさん、僕らの席は?」
「それは適当で」
「……分かったわ」
「おう」
三人が席に落ち着くまでの間に、メインだけでなくサラダやらスープやらその他もろもろがすべてきれいに並べられて。デザートだけは最後、とつぶやくソフィアにネルがうなずいていたりして。
「それじゃ、いただきまーす!」
フェイトの声で、夕食がはじまって。

◇◆◇◆◇◆

「……おい。てめえ一体何考えて……」
「フェイトに訊いたんだ。「オール・フールズ・ディ」ってやつだよ。
主賓を後回して一番どうでも良いヤツの給仕からはじめる。上座に道化を置いたりね」
隣に座って自分の食事もそこそこにかいがいしく世話を焼くネルに。げんなりしたアルベルがつぶやくと、にこにこしたネルが淡々と告げた。言われた言葉の意味が分からなくてアルベルの動きが止まって、
「――俺は「どうでも良いヤツ」なのかよ!? つーか俺が「道化」だと!!??」
「何反論してるのさ馬鹿」
「ネルさんにとってはね」
アルベルが吠えて、すぐさまネルとフェイトに冷静なツッコミを向けられて撃沈した。そのままフェイトが、どこまでも爽やかににっこりと笑う。
「ソフィアのは「ポワソン・ダブリル」てことでサバ料理フルコース、だよな?」
「うん! さすがフェイト、よく分かったね」
「……ちょっと待て、ここは海から……」
「遠くないけど、近くもないね……」
「距離なんか関係ないですよ。「コネクション」使いましたから」
「さっきの質問て、それ……?」
「はい!! マリアさんのおかげで助かりました!」
――便利だな「コネクション」……。
呆然とつぶやいたのは誰だったのか。
とりあえず「さっきのが嘘ってわけね……まんまとやられたわ」などとぶつぶつつぶやくマリアがいたりした。

◇◆◇◆◇◆

「マリアさんが「不義理の日」、ネルさんが「オール・フールズ・ディ」、クリフさんとアルベルさんが「万愚節」と「揶揄節」、わたしが「ポワソン・ダブリル」……じゃあフェイトは?」
食事後。先ほど取った写真を嫌がらせで大判に印刷してきたフェイトに、というかそこに写っていたものに。まったくカケラも「それ」に気付いていなかったアルベルが激怒した。多分そんなもの最初から予想の範疇だったのだろう、諦めきったクリフがおとなしくボコられて、その反応がさらにアルベルの怒りに油を注いで。
というか、ネルの行動の「どうでもいい奴」やら「道化」やらに憤慨していたやつあたりも多分に混じっていそうだったけれど。
ボロクズになったクリフをさすがに気の毒になったのかソフィアが癒して、それをまた攻撃しようとしたアルベルをマリアとフェイトが二人がかりでとめて。そういう馬鹿なことはせめて宿屋の外で化粧落としてからやったらどうだい迷惑だよ、のネルの台詞に再びアルベルがなにやら落ち込んで。
現時刻、そろそろ「今日」が終わるころ。一階ロビーのソファでフェイトがぼーっとしていたところ、静かに歩いてきたソフィアがやわらかく微笑んだ。
「言いだしっぺなんだから、フェイトも何か考えていたんでしょ? もうすぐ「今日」が終わっちゃうよ」
「うん、分かってる」
受付には誰もいない――周辺に「未開惑星」の人間がいない。だからだろう、クォッドスキャナーをいじるフェイトの手は止まらない。
「だーれも気付かないんだもんな。ネルさんやアルベルはともかく、ソフィア、お前とか抜け目ないはずのマリアまで」
「? 何に??」
きょとんとするソフィアに笑いかけて。フェイトが、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「……うん、0時ジャスト。さてソフィア、今日は銀河標準時で何月何日でしょう」
「……四月二日じゃないの? 昨日が一日だったんだし」
「本当に?」
言われて、ソフィアはごそごそと自分のクォッドスキャナーを取り出した。自動時刻合わせ設定をしてある時計画面を呼び出して。目を瞬く。
「……あれ……?」
今日、は。
「昨日は三月三十一日だったんだよ。僕の嘘は、それ。自動じゃなくて手動設定だってできるしさ、これ。
まあ、この星にいたりFD界にいたりする以上、日付感覚なんて銀河標準時とズレても当然だし特に問題ないけど。まったく誰も気付かないんだもんなあ……」
かくれんぼしていて、うまく隠れすぎて鬼に見付からなかった時の気分だよ、と笑うフェイトに。ソフィアは居心地の悪さを感じて、きゅっと首をすくめた。そうしてから、くるりと彼に背を向ける。
「騙されてたんだ、って分かったらなんだか疲れちゃった……もう寝る」
「ん。おやすみソフィア」
背中にひらひらと手を振っているだろう幼馴染は、ソフィアには見なくても分かる。
分かる、はずだったけれど。
嘘が見抜けなかった手前それが間違っていそうで、怖くなって振り返ったら。背もたれに腕をかけたフェイトが優しく笑いながら想像通り手を振っていて、少し嬉しくなった。

フェイトの夜は、クォッドスキャナーを枕元に置くことで終わる。眠れない日などは、何となくそれをいじって眠気が訪れるのを待つ。
それはもはや「癖」と言ってもいいかもしれない。
「……おやすみ」
そんなわけで、その日も彼はスキャナから手を離すと、ぼーっとつぶやいて目を閉じた。みんなに「昨日」の「嘘」をどう説明しようかと、そんなことを考えていた。

―― End ――
2005/04/04UP
パーティ
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[最終修正 - 2024/06/26-14:45]