全員のこころはその時ひとつになった。
――これはもう、笑うしかない。
むしろそれ以外にどうしようもない。
「……ィトぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉ……っっ!!」
遠く轟いた悲鳴まじりのそれに、彼はぼんやり覚醒した。
――ここしばらくの大体の事件は、誰かが自分の名を呼ぶことではじまる。
寝起きそのものの覚醒しきらない頭がそんなことをつぶやいて、けれどいつまでもぼんやりしていたら自分の生命が危なくなることは哀しいかなすでに学習ずみだった。
フェイトはもそもそと起き上がって、まだ眠り足りない目元をこすりながらとりあえず窓の方を向いてみる。
「……まだ夜……? いや、一応朝……??」
ぱっと見空はまだ暗くて、けれどよくよく見たなら東の方だけはうっすら明るくなっているし、そういえば暗いと思っていた空の色も「黒」よりも「紺」かもしれない。耳をすませたなら、朝の早い鳥の声もなんとか聞こえるような気がする。……声しか聞こえないけれど、いくら目を凝らしても飛ぶ姿はどこにも見当たらないけれど。
ともあれ、こんな時間に起きているような人間は、彼の名前を轟くように呼ぶ人間は。
パーティ内に、該当するのは。
「フェイト! お前またやりやがったな!?」
「……何をだよ」
どばたん、と派手な音を立ててドアを開けつつ派手な声を上げたクリフに、フェイトはとりあえず手近な鎧をぶん投げながらうめいた。よほど動揺しているものか、普段ならあっけなくキャッチするそれに顔面を強打されてうずくまる姿に、なんだかようやく頭も働きだした気がする。
「つかうるさい。近所迷惑だろ」
働きだした頭が思い出したので文句をつけたなら、うなり声が返事をする。
そして、空が白みはじめていよいよ誰もが「朝」と認める、それでも「早朝」に違いないくらいに時間が経過したころには。相部屋のいないツインのフェイトの部屋に、パーティ全員が……いや、寝起きの悪い一名をのぞいての全員が集合していた。
全員が朝も早くからたたき起こされた不機嫌さで部屋の主をにらみつけていた。
――いや、自力で朝の早い某金髪と某赤毛はそれほどでもなかったけれど。
とりあえず、ベッドに腰を下ろして批難の目の集中砲火を浴びているフェイトは首をふる。
「……僕じゃないよ」
「お前以外に誰がいるんだよ。こんないたずら」
襟首つかんでつるし上げそうな勢いで、とりあえずはそんな勢いだけで実際には腰に手を当てた状態でクリフがうなれば、残るメンバーがそろってうんうんとうなずいた。それに少しばかりこころが傷付きながら、外見上はなんでもない風に肩をすくめて、
「僕なら女性を怒らせるだけの馬鹿な真似はしないよ。もしくは、フォローのきかない大事になんかしない」
そこでなるほどとさらにメンバーが揃ってうなずいたのは、果たして喜ぶべきかそれとも哀しむべきか。判断に困ったのでつっこんで考えないことにして、フェイトはやたらと寝癖を気にしているマリアに顔を向ける。
こういう時真っ先に声を上げる性格の彼女が何も言わないのを不審に思ったからで、けれどそんなことまさか言えるはずもない。なので、別の方法で水を向けることにして、
「……マリアは?
ていうか、僕がこのいたずらやるとして可能かなあ??」
「無理じゃない?」
即座にさらっと否定されたのに、それこそ喜ぶべきか哀しむべきか悩む羽目になった。
「ちょっと待ちなよ。マリア、ならあんたは誰が犯人だって言うのさ。いや、そもそもフェイトが犯人じゃないっていうなら、あんた、なんでここに……フェイトの部屋なんかに集まったんだい?」
「さっきすごい勢いでクリフが騒いでいたからに決まってるじゃない。手綱を引くためよ。
……あんな近所迷惑の関係者だって知られるくらいなら、とも思ったけど、ほっといた結果ことが大きくなったりしたら目も当てられないし」
先ほどのマリアの一言で固まったままのフェイトをよそに、脇から不審な顔全開でつっこんできたネルに彼女は肩をすくめてみせた。周囲の目がフェイトから自分に移ったことを自覚しながら、はねている髪を相変わらずいじくりつつなんでもない口調で続ける。
「寝る前にベッドの枕下に置いたのよ。さっき起こされたとき確認したら、そのままの場所にあったし、私は枕からずり落ちるほど寝相も悪くないわ。ついでにいうなら、眠りも深いほうじゃない。
犯人は、そんな私に気付かれないように部屋に侵入して部屋をあさって、最後まで私に気付かれないまま目的を達して部屋を出ていったことになるでしょう? で、それは私に限らないパーティ全員に対して。隠密のネルにも気付かれない、無駄に鋭いクリフも知らずに寝ていた。
……少なくともフェイトには無理でしょう。足音も気配もいまだに消せないんだし」
すらすらと並べたなら、けれどネルはひっかかりを覚えたらしい。
――さすがに頭の回転が早い。
感心していると、けれど相変わらず感情を表に出さない癖のためか彼女は、ねえ、と小首をかしげて、
「その理屈だと誰も彼もが無理なんじゃないかい? 被害者がひとりだけってんなら、当の本人の狂言もあるけどさ」
「能力的な目で見るなら、この六人のうち可能なのは……むしろフェイトを除いた全員になるわよ?」
そして冷静な彼女の言葉に。
部屋の空気が不穏に逆巻く。
