まさか、……そんなまさか。
けれどはや落ち着きを取り戻した彼女は冷静に、

―― Mir war lacherlich zumute. 3

「おい! ま、」
「――ソフィア、回線繋げる?」
くってかかろうとしたフェイトをさえぎるように上げた手のひらだけで黙らせて、いわれたソフィアがこくこくとうなずいて、クリフには後頭部しか見えていないマリアはどうやら口元だけで笑った。
どこに繋げるものか、クリフには分からなかったけれど。取り出したスフィアの力を借りてソフィアが繋げた空間の先には、FD界はスフィア社、映るのは見知った人影。
――まさか。ああ、けれど。
「ブレア」
『……あら? どうしました、みなさん??』
けれど、そうだ。目的はともあれ、彼女には、彼女たちには。それは確かに可能かもしれない。あるいは、マリアのアルティネイションやソフィアのコネクションの能力よりも、ずっとずっと簡単に。具体的に何をどうするのかは知らない、あるいは理解できない。けれど戦闘で削られた彼らの体力を、この女性の同僚は指先一つで一瞬で、完璧に「なかったこと」にしてみせた。
そう考えたなら。――たとえばプログラムにたった一行付け加える程度の労力で、こんなことを引き起こすことだって。

◇◆◇◆◇◆

「――これって、あなたの差し金かしら」
寝起きのまったく止まった頭に、宿の従業員が他のみなさまがお集まりですよと案内を申し出た。まるで何も考えないまま相変わらず思考が働き出す気配もなく、ここですと言われてくぐった扉からは、マリアのそんな、確認するというよりは断定する声が流れてきた。
「……?」
一体何ごとだ。
アルベルが眉を寄せるのと同じく、何の理由だか呼び出されたブレアもなんだかどうやら不思議な顔をした、ようだった。――これ? などと訊き返す声も、もしかしたらあったかもしれない。

けれど仕入れた情報が脳に伝達される前に、何か白いひだの連なったようなモノに強襲されて。
アルベルの意識は闇に沈んだ。
――今ごろのこのこ起きてくるんじゃないよ! などと怒鳴ったネルの声が、彼の最後の記憶になった。

◇◆◇◆◇◆

ようやくのお目醒めで顔を出すなり、ネルに容赦なくドツかれて床にぐてっとノビたアルベルに、彼をそうしたソレを肩に担ぎ上げたネルがふんと鼻を鳴らす。向こうのブレアはぽかんとした顔を見せて、それから困ったように小さな笑みを浮かべた。
『……もしかして、みなさん、怒って……?』
「怒らない理由があるかしら。突然、こんなことになって」
『でも、……見た目と使い方に多少違いが出ただけで、使い方は各自分かるでしょう? 効果も変わりないですし』
「たとえそうでも、さすがにいただけないねえ」
整った口元が浮かべた小さな笑みというか弱々しい笑みは、アレだ、人間困ったときに無意識に作るような、あの笑み。
つまり、犯人は反抗を認めたということで、
届かないと知っていながら、それでもばきりと指を鳴らしながらクリフが一歩前に出たなら向こうのブレアが一歩引いたらしい。弱々しい笑みをまるきり取り繕うものに変えて、話を転換させたいのだろう、彼女にとっては画面外に消えたアルベルをどうやら指差しながら、

『認めないわけじゃないけど、話がずれるけど……。
……ええと、言いにくいのだけれど。見た目はともかく、数値上の強さは変わっていないのに……彼、思いっきりどつかれて、大丈夫かしら……?』

「……アルベルっ!?」
「っきゃあぁっ、アルベルさん白目むいてますよっ! わたしわたし、ええと、……このままじゃ治癒の術使えない!?」
「ちょっとアルベル起きな! あんたやっと目を醒ましたと思ったらまた寝てるのかい!? いい加減にしなよ!!」
「その、こいつをそうしたのはネルさんですが…‥」
指摘されて目をやって、実は展開されていた事態に気付いてさすがにあわてる一同。動揺で通信がおざなりになったソフィア、控えめにつっこむフェイト、ソフィアの同様の余波をくらってがたがたになった画面の向こうから決まり悪さとおろおろが混ざっているブレア。および、さらにその向こうにちらちらのぞく社員が数名。
「――一応、理由を訊いてもいいかしら」
『その、……最近、流行ってるの』
ひとりだけまったく何ごともなかったかのようなマリアが、今までと本当に何ひとつ欠片も変わりのない冷たい声で、ずばっと訊いた。
「――何が」
動揺の割に、これは平静な声でブレアが答える。

『オワライっていう、化石文化』

◇◆◇◆◇◆

まさか、……そんなまさか。
けれどきっかけさえあったならあっという間に落ち着きを取り戻した画面の向こうの彼女は、そのままお笑いについて熱く語りだした。
そしてその時全員のこころはひとつになる。
――これはもう、笑うしかない。
むしろそれ以外にどうしようもない。
……だったら、笑うしかないだろう。




ある日、起きたら武器がハリセンに化けていました。




◇◆◇◆◇◆

説得して、あるいは拝み倒して。どうしようもないプログラムの編纂を、何とか元通りに修正させて。
彼らの世界に存在する武器の類が再び元の姿を取り戻したのは。

――数日後、だったらしい。

―― End ――
2007/06/08UP
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[最終修正 - 2024/06/26-14:46]