……だってもう、他にどうしようもない。
だったら、笑うしかないだろう。
「えと……マリアさん……?」
頭の回転が速くてきっぱり凛々しいソフィアあこがれの佳人は、自覚ないままにぽつりとつぶやいた彼女をちらりと見やると、いつものとおり肩をすくめてみせた。まるでなんでもないことのように。先ほどの一言でソフィアにとっては呼吸さえ苦しくなるほどに空気が張りつめたのに、誰よりも強いマリアにとってそれは本当になんでもないのかもしれない。
分からないけれど。
「おい、マリア……、」
珍しく怖い顔をそんなマリアに向けたクリフがその細い肩に手をのばして、けれど一瞬包んだと思った瞬間にはそれは跳ね除けられていた。冷酷なまでに冷静な目が、動揺の収まらない一同をぐるりと見やる。
「能力的には、よ」
――あくまでそれは、可能かそうではないか。
言って、腕を組んでいつもどおりのどこか挑発的な笑みすらくちびるの端に浮かべて。すっかり全員の目を集めながら、マリアはどこまでも自信たっぷりに、
「犯人の目星はついているけど。
――それはこの中にはいないわ」
いっそ、勝ち誇るように。
けれどどこまでもどこまでも、それはいつもどおりのマリア。
「フェイトは、さっきのとおり気配も足音も消せないから無理。でも逆に、それをいうならクリフやネルには可能でしょうね。アルベルにも。……クリフの場合は私の生活パターンなんて知ってて当然だし、ネルはここしばらく一緒に旅してたんだもの。隠密なんだし、見ていないはずがないわ。
まあ、それでいうとアルベルは知りようがないから、探索の時間なんかを考えればぎりぎり外れるかしら」
「――じゃあ、ソフィアなんかも論外になるな」
「気配も何も、まあ、ソフィアじゃねえ……」
まったく蚊帳の外だったのにそこに突然自分の名前が出てきて、ソフィアは激しく瞬いた。え、あ、……意味のないことをわたわたつぶやきながら、いつもなら杖をぎゅっと抱きしめるところだけれどそれがないので、今日はスカートの裾をきゅっと握りしめる。
居心地が悪い。
とはいえそんなものはすぐに外れると思ったし、事実集中しかけた視線は次の瞬間にはマリアに戻っていた。
けれど、
「この娘は……あと、私自身も気配とかとは別の話よ?」
けれどやはり平坦なマリアの声に、一度は外れかけた一同の目線が再び戻ってきて、ちくちくソフィアの全身を刺す。
――能力的には、とマリアは言った。
――けれど犯人はこの中にはいないとも言った。
反射的にマリアとソフィアを見比べるネルは、あまりの事態に働きの鈍かった頭がようやくゆるく動きはじめたことを自覚した。自覚してわざともったいぶっているわけではないだろうけれど、ひどくもってまわったマリアの言葉を何とか解きほぐそうと、煙でも吐きそうな勢いで脳みそを動かしてみる。
……、……能力、的……?
……そして、マリアと……ソフィアだけが、別。
「……あ」
――ああ、そうか。普段がまったく普通だからうっかり失念していたけれど。
「アルティネイションと、コネクション……」
「そう」
教師のような満足な笑みを浮かべて、マリアが鷹揚にうなずいた。勢い立ち上がって何かを言いかけて、しかし結局は何も言葉が思いつかなかったのか、ぱくぱくと口を動かすだけのフェイトにちらりと翠の目をやりながら、
「フェイトのディストラクションは、破壊の力。なんでも消滅させる強力な能力だけど、他に応用も何も、一切合財を全部消してしまうから、そういう視点でもリストからは外れるわ」
「で、マリアは気配を消すのはまあ、苦手にしても……そこにあるモノを改変するわけだから、事前の用意なんかはまったく必要ねえ。この事前の用意ってやつでオレとネルとアルベルはまあ、はずれてるわな。
あんなモン用意してたら、目立って仕方ねえ」
「ソフィアの場合は、気配とか用意とかそのあたりどうしようもないとしても。コネクションで空間つなげれば、すりかえは可能だね……他の誰よりも手間をかけずに」
一気に血の気の引いた顔で口元に手をやるソフィアが、こちらは恐怖か怒りか、わななくようにくちびるを動かして、けれど声が出てこないようで。そんなつもりはないのにひどくいじめてしまった気分に襲われて、ネルは困るとかたちだけの笑みを浮かべてみせた。
……そうだ、可能だとしてもこの少女があんなことをするはずがない。
「もしも仮に確実にこの中に犯人がいるのなら、それが単独犯という確証がないのなら。私とソフィアが手を組んだ、と考えれば他の可能性のなによりも現実味があるわね」
自分のことなのにまったく動じないマリアの声は淡々と響く。部屋は水を打ったようにしんと静かで、はりつめたというにはゆるいけれど軽いというには重苦しい空気が、どうしても誰もの呼吸の邪魔をする。
「――違うって、証拠は?」
「ないわ」
どこかかすれたクリフの声は、冷徹な声に即座に断ち切られる。
「……じゃあ、それが正解、なのかい?」
「いいえ」
かすかに上ずったネルの声もまた、マリアの声が否定した。
「だって、意味がないもの」
――私に利益のないことを、わざわざ私がすると思う?
それは感情の揺らぎがどこにもない、限りなく事実を口にしているだけの、
