なめらかな毛並み、どこかまとった気品。しなやかでやわらかで、気まぐれでワガママで。その場にいるだけでひどくひどく目を引いて。
嫌いな人間は近寄りたがろうともしない、好きな人間は勝手に引き寄せられる。
そんな、血統書つきの猫に。
マリアはよく似ている。

―― Geisterseherin 2

「マリア、最近調子はどうだ?」
「……この艦にもあの部屋にも慣れた、かしら。やることが大変でなんだか目が回るけど、充実してるわ」
何かを抱えて足早に自室に向かう養女に話しかけたら、彼女は立ち止まって顔を向けてにっこりと微笑んだ。元から顔立ちが整っていたのは分かっていたけれど、こうして笑うと周囲が明るくなるような、マリアにはそんな華やかさがある。

出会って、拾って――救出した当初は、無表情の中に緊張と怯えと不安を山ほど抱えていた。かわいそうに思う反面、どうにも扱いづらくて困った。考えてみたら、この年代のコドモと会うことも話すこともなくて、何をどうしたらいいのか分からないのもあったかもしれない。
ともあれあのころの、無表情で強張った暗い顔をしていた分を取り戻すように。
最近のマリアは、よく笑う。
彼女の華やかな笑顔を見れば、たとえば抱えた疲労も跡形もなく消える……と、思う。この笑顔のためなら、無理も無茶も無謀も、すべて吹き飛ばす力がわいて出る。

◇◆◇◆◇◆

急いでいるのか、と訊ねたら、そんなことないわよ、と答えて。華やかな笑みが瞬きひとつで一気に変わって、
「クリフ、わたしみんなの役に立っているかしら? ここにいても、迷惑じゃない??」
笑っているものの、奥底に不安を溶かした思いつめた顔になって、
クリフはどう反応するべきか一瞬戸惑う。

マリアは最近よく笑う。通信教育のかたわら、艦の中のあちこちに顔を出して手伝えることはないかと訊いて回っている。
そんな姿を何度も彼は見ているし、クルーの雑談にも最近マリアは出ずっぱりで多分この艦のほとんどすべての場所に行っていることも知っている。
元から頭が良いし聞きわけが良いし、何よりかわいいし一生懸命だし。
この艦に幼い少女が乗ったことだけでも一大事なのに、そんな彼女だから。
今現在、マリアはこの艦のアイドル状態で。知らないのは本人だけで、誰もが――たとえ迷惑でもいいから、彼女と関わりたがっていて。迷惑どころか誰もが諸手をあげて歓迎していて。

けれど、――マリアの不安だって理解できる。

この騒ぎではじめて顔を合わせたオトナばかりの艦で、一人幼いマリアが不安になるのも分かる。どんなにがんばっても子供は子供で、知識も腕力も技術も身長も追いつかなくて、一人取り残された気分なのだと思う。
さらにはほとんどがクラウストロ人の中でたった一人の地球人だ。
クラウストロ本星にいたときもこうして艦に乗っているときも。違うのは場所と重力くらいで、結局大人に囲まれた子供という事実、一人華奢でか弱い地球人という事実は覆しようもない。
思春期のもろい心はしょっちゅう壁を感じているのだろう。
さらにはマリアは頭がいい。外見と年齢ともの珍しさでちやほやされているのを感じているだろうし、それを抜き取ったならと想像をめぐらせてしまうのだろう。

◇◆◇◆◇◆

――ここにいても、いい?
「あのな……今さらオレに言わせんなよ」
不安を隠すためにいじらしい笑みに、苦笑を返す。やれやれと息を吐いて、マリアの青い髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。
力加減がよく分からない不安と、照れと恥ずかしさ。知られたくないそれにマリアが勘付かないように、信じてもいない「カミサマ」に祈ってから、
不安に揺れながら同時に期待をするような、幼くやわらかな翠の瞳を覗き込む。
「オレらは慈善家じゃねえから、まだ弱小組織だから、本当にお荷物だってんなら最初から抱え込む余力なんかねえ。
お前に前、全部説明しただろ?
アレは嘘じゃねえよ。本当に無理だってんなら、あの時お前が何言おうが、全部無視してどっかの誰かにお前を預けてた。それが今こうしてここにいる、それは証明にならねえか?」
相棒の口添えで、マリアの将来性を買った、というのもあるけれど。
あのときの、目にいっぱいの涙をためながら泣くまいとがんばって自分たちを説得したマリアの心意気もあるけれど。
本当に彼女のためを思うなら、「反銀河連邦組織」なんてヤクザな自分たちとはすっぱり縁を切らせて、さすがにクラウストロ関連にしかあまり知り合いはいないけれど、信用できる誰かに彼女を預けていたはずだ。
それを全部吹き飛ばしたのは、全部吹き飛ばしてマリアを手元に置くことにしたのは、

理詰めの説得に頭は納得して、けれど感情はいかにも不満なマリアの髪をもう一度くしゃくしゃとかき混ぜる。
にかっと、笑みを向ける。
「……てのは、クォークのリーダーとしての意見でな、
オレ個人としては、お前が気に入ってるんだよ。お前、オレが嫌いなやつのためにあれこれ駆けずり回る人種に見えるか? そういうことできると思うか?? 好き勝手やってんだよ、お前は不安がってないでオレのワガママに巻き込まれとけ」
「……何よ、それ」
「お前がいて、笑ってくれるとなんだか嬉しいんだよ」
――言った。
――こっぱずかしい台詞は、勢いに任せてさらっと言えばそんなにダメージにゃならねえな、などと思った。
たった一言に、ぱあっと笑みが広がったのが逆に嬉しかった。

照れたようにえへっと笑って、ぱたぱたと走り去りぎわ、ありがとうわたしもクリフが大好き、などと言葉を投げかけられて少し――かなりくすぐったい。
「……にしても、何かかえてたんだ?」
細い腕ががっちり抱きしめていたものに首をかしげて。
まあいいかと彼はブリッジへと向かう。養女の華やかな笑みで、足取りが軽い。

―― Next ――
2005/08/20UP
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[最終修正 - 2024/06/26-15:34]